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June 01, 2023

時代と共に変化するマーケティング j-fashion journal(512)

1.マーケティングの定義は変化し続ける

 マーケィングの定義は時代と共に変化します。コトラーは、モノ(製品・商品)を中心にした「マスマーケティング」(マーケティング1.0)から始まり、「生活者(顧客)志向マーケティング」(マーケティング2.0)に進化したと定義しました。
 マスマーケティングでは、大量生産した商品を大量に販売するために、オートメーションを進化させ、チェーンストアを組織しました。大衆に対して広告・宣伝を行い、ブランドや商品の名前を消費者に刷り込みます。こうした一連の活動がマスマーケティングです。
 現在でも、多くの企業はマスマーケティングを基本にしています。海外生産もマスマーケティングの一環です。マーケティングの定義はアップデートされても、ビジネスは継続しています。少なくとも、ビジネス全体の6割以上はマスマーケティングで動いていると思います。
 やがて、供給が重要を上回り、「生活者志向マーケティング」が生れました。大量生産商品を販売するのではなく、顧客が必要とする商品を生産するという発想転換です。
 ジャストインタイム、CAD/CAMの活用等の多品種少量生産システム。クラウドファンディング等も生活者志向マーケティングといえるでしょう。
 DXと呼ばれる革新や業態転換の多くは、マスマーケティングから生活者志向マーケティングへの転換を志向しています。全体のビジネスの中で、生活者志向のマーケティングで動いているのは、3割以下程度でしょう。
 現在は、グローバル化とIT化が加速し、「価値主導マーケティング」(マーケティング3.0)の領域に入っています。単なる収益向上のための手段ではなく、企業や組織が世界を良くするための事業・活動を展開するための戦略と定義されています。
 価値主導の典型的なテーマが「SDGs」です。エシカル、ソーシャル、サスティナブル等の発想は、価値主導マーケティングといえます。
 現在の価値主導マーケティングは、プロモーションのテーマとして使われることが多いようです。マスマーケティングで動いている企業が、価値主導マーケティングを提唱すると、自己矛盾を起こします。
 大量生産大量販売は大量廃棄を生み出し、環境を汚染します。また、価格競争は生産拠点の移転を促し、物流のためのエネルギーを増大させます。経済格差を生み出し、それが人権侵害につながります。
 現在、価値主導マーケティングは、思想、政治、プロモーションの段階であり、ビジネスへの展開はまだ先なのかもしれません。
 マーケティング学者の提唱する論理は、常に実際のビジネスより先行しています。ごく一部の企業の成功事例を新しいマーケテンィグ戦略として紹介しているので、一般の企業はそこまで到達していないのです。
 
2.顧客志向のサービスが重要に

 マーケティングはモノの生産・販売から産まれた概念ですが、商品のコモディティ化が加速するにつれ、モノよりサービスの役割が重要になっています。
 セオドア・レビットは「すべての企業は顧客にとってサービス業である」、「あらゆる企業がサービス的要素を持つ」と指摘しています。
 また、ラッシュとヴァーゴによれば、従来のモノ中心のマーケティングをGDL(Goods Dominant Logic)といい、顧客は単に購入者でしたが、SDL(Service Dominant Logic)では、モノに限らず経済活動は全てサービスであり、顧客は購入者ではなくサービスの利用者であるという考え方を提唱しています。
 モノを生産して販売する行為は、モノを提供するサービスです。顧客がモノを購入するのも、所有するためではなく、体験や満足感等が目的です。
 したがって、マーケティング活動は、商品を販売することで完結するのではなく、購入後の顧客の体験までを意識しなければなりません。
 モノとコトの区別がなくなり、全てをサービスという概念に集約することで、飲食、旅行、エンタメ、オンラインゲーム、教育等、全てがマーケティングの対象になります。
 
3.ファッションマーケティングとは?
 
 狭義のマーケティング活動は、「商品またはサービスを、購入するポテンシャルのある顧客候補に対して、ブランディングやマーケティング・コミュニケーション等を通じて、購買行動やサービス利用に働きかける行為」です。
 ファッションマーケティングは、この定義にファッションの特性が加わります。
 ファッションには、「流行」があります。流行とは変化であり、変化を求めるのは、「飽きる」からです。人は同じ服を着続けたり、同じ料理を食べ続けるとやがて飽きます。しかし、同じ仕事、服装、食事を続ける生活も可能です。経済的に考えれば、変えないほうが合理的です。
 それに対して、変化のない生活を、刑務所のように、自由を抑圧されている生活と感じる人もいます。変化を求める度合いにも個人差があります。
 ヨハン・ホイジンガは著書の中で、「人間とは『ホモ・ルーデンス=遊ぶ人』のことである。遊びは文化に先行しており、人類が育んだあらゆる文化はすべて遊びの中から生まれた。つまり、遊びこそが人間活動の本質である」と述べています。
 更に、「遊びの5つの形式的特徴」として、(1)自由な行為である
(2)仮構の世界である
(3)場所的時間的限定性をもつ
(4)秩序を創造する
(5)秘密をもつ、を挙げています。
 加えて、遊びの機能的特徴として「戦い(闘技)」と「演技」を挙げています。
 ファッションには、社会的規範と遊びの要素が混在しており、時として、経済合理性を超越します。
 ファッションマーケティングは複雑です。経済合理性を超越している要素もあり、経済合理性に忠実な要素もあります。社会的な要素もあり、個人的な要素もあります。厳密な規範もあれば、規範を否定することもあります。

4.マーケティング的発想とは?

 マーケットは「市場」であり、市場とは消費者、生活者の総体です。生活者は多様な歴史、文化、宗教、思想、価値観を持っています。しかも、時代の変化と共に、生活者の嗜好や価値観は変化します。常に変化し続けるのが市場なのです。
 したがって、市場に対応するマーケティングも常に変化し続けます。新たな技術が生れれば市場は変化するし、新たな政治・経済等の状況が生れれば、当然市場も変化します。
 変化を予測するために、マーケティングの定義は時代の少し先を進んでいます。最先端のマーケティング理論に基づいて経営戦略を立てても、それが利益につながるというわけではありません。しかし、未来を予見する助けになるのです。
 マーケティング戦略は、常に未来にゴール目標を設定し、そこから逆算して戦略を立案します。現状を起点として、積み上げて未来のゴールを決めるのではなく、必ず未来を起点にするのです。
 例えば、不況業種となった百貨店のマーケティング戦略を考える場合、「こんな百貨店があれば顧客に支持され、顧客を満足させることが可能になる」、というビジョンを考えることから始まります。
 極端な例でいえば、「ヴィーガニズムの百貨店」を想定してみます。常にヴィーガニズム推進の情報発信を行う拠点です。世界中のヴィーガンに支持されるだろうし、店頭販売だけでなく、ネット通販の展開も可能になります。
 ヴィーガニズムは食が中心になるので、一階はヴィーガンのためのレストラン、カフェを配置する。これが百貨店の顔となります。
 そして、地下は食料品、惣菜、スイーツ等だが、肉だけでなく、卵、乳製品等、動物性の食品は全て排除します。
 婦人服、紳士服の売場もレザー、ウール等は排除。靴もレザーシューズは排除します。
 「オーガニックの百貨店」も考えられます。その場合には、プラスチック、化合繊、添加物等を徹底的に排除します。つまり、排除すべきものが変わるのです。
 百貨店は、ライフスタイルを表現するのに適した器です。何でもある百貨店から、何かが排除された百貨店へ。それは人の暮らしに対する提案でもあります。
 もし、現状の百貨店の売場構成や組織を前提にして、改善プランを考えても、おそらく現代の消費者に支持されないだろう。現状を基本に考えることは、マーケティング的発想ではないのです。

*有料メルマガj-fashion journal(512)を紹介しています。本論文は、2021.9.13に配信されたものです。リアルタイムでの講読をご希望の方は、http://www.mag2.com/m/0001355612.htmlよりお申し込みください。  

日本の靴業界の課題について j-fashion journal(511) 

1.ヴィーガニズムへの対応

 靴や鞄に加工される皮革(レザー)は、食肉の副産物であり、ほとんどの皮革の原料は家畜です。牛肉、羊肉、馬肉、豚肉だけを食べて、その皮を捨てるのは勿体ないので、靴や鞄という生活に役立つ商品に加工しています。革なめしや革靴生産の技術は、歴史的な文化であり、人類の財産とも言えます。
 ところが、家畜を飼育すること自体に反対し、「人間は動物から搾取せずに生きるべきだ」というヴィーガニズムという考え方が出てきました。
 ベジタリアンは肉は食べませんが、卵や牛乳、チーズ等は食べます。ヴィーガンは、卵や乳製品を含む全ての動物性食品を拒否し、皮革やウールの使用も否定しています。
 ヴィーガンの中には、単に動物性食品を食べないという人もいれば、動物の商品化や動物製品を拒否する人、畜産業が環境を破壊し持続可能ではないと考える人もいます。
 現段階では、ヴィーガンの人口は決して多くはありませんが、私は皮革関連業界もヴィーガンに向き合う必要があるのではないか、と考えています。
 私は毛皮業界の事例を知っています。ヨーロッパでは、室内でイブニングドレスを着ている場合、外出する時にはその上に毛皮のコートを着るのが常識でした。もちろん、ファッション業界もその常識通りに毛皮を扱っていました。
 しかし、1980年に「動物の倫理的扱いを求める人々の会(PETA)」が発足してから、ファッション業界の常識は徐々に否定されました。
 PETA は、反毛皮運動の一環としてアメリカ、ヨーロッパの何百ものファッションショーにメンバーを送り込み、ランウェイに赤い塗料を投げ込み、ランウェイで毛皮反対のメッセージが書かれたバナーを広げたのです。また、セレブやスーパーモデルは裸でポーズを取り「毛皮を着るぐらいなら裸になる」(I'd Rather Go Naked than Wear Fur)キャンペーンを展開しました。
 こうしたキャンペーンは着実に成果を上げ、ファッションデザイナーやブランド企業は次々と毛皮を使わない宣言を行い、それがトレンドになっていきました。
 同じことが皮革業界に起こらないという保証はありません。その前に、自らヴィーガン対策を行うべきだと思います。
 例えば、皮革の歴史や文化、人類と皮革の関係などを積極的に情報発信し、ヴィーガンの人にも理解してもらう努力を行うということです。それにより、世間はヴィーガンの意見だけが正当だとは思わなくなるでしょう。
  
2.海外展示会への出展は有効か

 多くの日本メーカーは、「自社の技術レベルは高い。しかし、自社は海外に知られていない。海外の展示会に出て、取引先に知ってもらえば仕事が来るのではないか」と考えています。
 海外の展示会に出展すれば、「素晴らしいですね」と褒められます。しかし、具体的な商談になると、「価格が合わない」、「納期が合わない」、「生産能力が足りない」と言われ、受注に至らないことが多いのです。
 それでも、補助金で出展しているので困ることはありません。海外の展示会に出展したことで、国内の商談に有利になればいいと思っている企業も多いでしょう。
 例えば、アパレルや靴の場合、体型や足型が日本人と欧米人では大きく異なります。タオル等では、製品サイズの規格が欧州も米国も日本とは異なります。
 気候風土も、人種も宗教も異なるのですから、売れるデザインやカラーも異なります。
 欧米ブランドのメーカーが日本市場に参入する場合、最低でも3年程度はリサーチを行います。そして、日本の商慣習、日本市場の規模や特性、業界の規模や競合他社の状況等を詳細に調べ上げます。その上で、可能性があれば、日本に現地法人を設立し、日本人をスカウトして社長にします。それで初めて、市場に参入できるのです。
 最初に見本市や展示会に出展し、それが契機となってビジネスが成功する事例はかなり珍しいと思います。なぜなら、輸入品を扱う日本の商社も専門店も世界中をリサーチしているし、売れそうだと思えば、広く知れ渡らないうちに、自分から先方のメーカーに交渉に行くからです。
 見本市や展示会に出展するということは、広く情報を公開することです。小売店のバイヤーにすれば、誰もがアクセスできる情報には価値がないと考えます。
 トランクに見本をつめて、社長が飛び込みで営業をかける方がはるかに効果的なのです。
 
3.中国製、イタリア製との差別化

 中国は世界の量産品の工場、イタリアは世界の高級品の工場です。日本市場も欧米市場もこの二つの世界の工場に支配されています。
 その中に日本メーカーが切り込んでいくには、中国とイタリアと差別化を図らなければなりません。
 この状況はアパレル業界と似ています。洋服も革靴もルーツは欧州であり、日本のメーカーは欧州の技術を導入し、欧州の製品に追いつこうと努力してきました。日本にとって欧州は先生です。
 また、中国メーカーには日本企業が技術指導を行ってきました。現在では、最新の機械が導入され、日本よりも若い社員が働いています。日本と遜色のない製品が日本より安く生産しています。
 アパレルを事例にすれば、大手百貨店アパレルは中国市場に進出したものの、ほぼ全てが撤退しました。欧州市場に向けては、欧州のメゾンを買収することで対応しようとしましたが、投資家以上の役割を果たしていません。
 欧州市場、中国市場の進出に成功したのは、世界的に通用するデザイナーズブランドとユニクロだけです。
 デザイナーズブランドは、日本文化を背景にした独自の世界観と圧倒的な個性によって、欧州とは異なるステイタスを表現しています。
 ユニクロの強みは、日本の繊維産業の強みを味方にしていることです。世界に通用する合繊メーカー、デニムメーカー、繊維機械メーカーの協力を得て、独自素材や独自技術を開発し、中国製品との差別化に成功しました。加えて、品質管理力、物流や店舗等の運営力により、中国メーカーの追随を許していません。
 靴業界にも同じことが言えるのではないでしょうか。差別化のポイントは、デザインと素材です。
 例えば、日本の合繊技術、整理加工技術を活かした新たな人造皮革と日本のタンナーの技術を組み合わせて、これまでにない素材を開発できれば、大きな差別化ポイントになります。
 あるいは、欧州にはない東洋の感性を活かした日本人デザイナーの靴も差別化になるでしょう。
 
4.メーカー直販のビジネスモデル

 次にメーカー直販のビジネスモデルについて考えたいと思います。
 靴業界には、タンナー、皮革問屋、靴メーカー、靴問屋、小売店という流通段階があります。
 ネットを使えば、各段階で直販モデルを構築することが可能です。タンナーが皮革を直販する。皮革問屋が皮革を直販する。靴メーカーが靴や靴問屋が靴を直販するなどです。
 更に言えば、外国企業も直販モデルで販売できます。海外のタンナー、海外の靴メーカーが日本向けに直販することも可能です。もちろん、日本のネットショップが輸入品を扱うこともあります。
 課題は継続性です。短期的なビジネスなら良いのですが、ネットが炎上したり、価格競争に陥るリスクもあります。また、既存の流通を飛び越えることで、逆に取引が減少するかもしれません。
 メーカーがネットで直販する場合、既存のビジネスとバッティングしないような設定が必要でしょう。例えば、以下のような設定が考えられます。
 第1は、完全に既存流通からネット直販に切り換えること。
 第2は、ネット直販限定モデルを販売すること。
 第3は、クラウドファンディングのように、期間限定、数量限定で販売すること。新商品のテストマーケティングのようなケースです。
 第4は、ネット限定のブランドで販売すること。
 第5は、直営店とネット販売を組合せる方法です。ユニクロのように店舗、ネットショップの全ての販売ルートを自社でコントロールする方法です。

5.靴デザイナーの育成が鍵

 海外市場進出もネット直販も、最終的にはイタリア製と中国製との競合に勝たなければなりません。
 既に、ヨーロッバ発のトレンド追随のモノ作りでは、中国に勝てません。中国メーカーは、定期的に欧州に出張し、展示会や市場をリサーチし,大量のサンプルを購入しています。
 人件費の高い日本製の商品が勝負できるのは、コピーではなく日本オリジナルの商品です。それには、靴デザイナーの存在が欠かせません。
 靴デザイナーの育成として、国際的な靴デザインコンテストを提案したいと思います。国際的なコンテストが難しければ、日本国内限定でも良いでしょう。
 コンテストで重要な要素には二つあります。第一は、ステイタスです。ステイタスは審査員で決まります。有名デザイナーが審査委員長になれば、コンテストのステイタスが上がります。そして、コンテストで入賞したことを履歴書に書くことができます。
 第二は、ビジネスにつながることです。日本国内にも多くのコンテストがありますが、実際にビジネスに直結するものは限られています。運営者側にとって、コンテストを開催するのは容易ですが、ビジネスにつなげることは難しいのです。
 そこで、ビジネスにつながるコンテストを考えてみましょう。例えば、コンテストの優勝者は、自分のコレクションを発表するための様々な支援が受けられるというのはどうでしょうか。専用WEBに掲載し、パンフレットを作成し、世界の靴に関するメディアやキーマンに送付する。
 コレクション制作は国内メーカーが協力します。そして、海外の展示会で作品を発表し、国内の百貨店等でポップアップショップを展開します。
 この一連のイベントにより、靴メーカーはデザイナーとの仕事を経験し、コレクションに協力したメーカーの名前は世界中に広がるでしょう。
 コレクション発表後、靴メーカーとブランドライセンス契約することができれば、双方にとってメリットが生じます。
 靴デザイナーを業界全体で育成し、有名にすることは、靴デザイナーという職業に夢を与えることになり、それが靴業界の発展につながります。

6.日本独自の靴素材の開発

 日本の製造業の強みは、機械と素材と加工技術にあります。世界で拡大しているヴィーガンへの対応もにらみながら、日本オリジナルの靴素材ができれば、大きな差別化ポイントになるでしょう。
 ここで重要なことは、あくまで革靴製法に適した素材であることと、高級品の素材になり得ることです。
 日本はマイクロファイバーの技術、不織布の技術、製紙の技術、印刷の技術、樹脂加工の技術、接着技術、織物の整理加工技術、ゴムやシリコンの技術等に優れている。
 皮革を更に加工することも可能だろうし、皮革以外のテキスタイルをタンナーで加工することも考えられます。あるいは、リアルレザーと織物やニットとのコンビネーションなどでも独自性を訴求できるでしょう。
 革靴業界の人はリアルレザー以外は邪道だと思うでしょうが、バッグの世界では既にラグジュアリーブランドでもウレタンコーティングの織物が使われています。
 但し、素材開発には時間も費用も掛かります。長期的なプロジェクトとして、「ヴィーガン対応靴素材開発」「サスティナブル靴素材開発」「ハイテク靴素材開発」等のようにテーマを決めて取り組んでいくのが良いと思います。

*有料メルマガj-fashion journal(511)を紹介しています。本論文は、2021.9.6に配信されたものです。リアルタイムでの講読をご希望の方は、http://www.mag2.com/m/0001355612.htmlよりお申し込みください。  

May 30, 2023

縫製工場からアパレルメーカーへの転換  j-fashion journal(510)

1.縫製工場はOEMメーカーか?

 現在、日本の縫製工場の多くはアパレルメーカーとは言えません。アパレルメーカーとは、生地や付属を仕入れ、それをアパレル製品に加工して販売する業態です。縫製工場は生地を仕入れていないし、アパレル製品の企画(デザイン、パターンメーキング、サンプル作成)も行っていません。営業や販売も行っていません。
 それなら、OEMメーカー(相手先ブランド商品の生産を請け負う業態)でしょうか。中国等でOEMメーカーと呼ばれているのは、サンプルを自社で作り、それを展示会等でブランド企業に提案し、受注生産する業態です。この業態は日本ではODMと呼ばれており、OEMとは区別されています。
 しかし,日本の布帛の縫製工場は加工賃を受けとる加工業です。もし、生地を仕入れて、製品に加工し、製品を販売する業態であれば、OEMメーカーと呼ぶことができます。その意味では、生地を自社で仕入れるカットソー工場、糸を自社で仕入れるニッターはOEMメーカーと呼ぶことができます。しかし、布帛の縫製工場は厳密に言えば、OEMメーカーではありません。
 したがって、現在の布帛の縫製工場がアパレルメーカーになるには、まずOEMメーカーになり、次にODMメーカーになり、最終的にアパレルメーカーになるというステップが必要になります。

2.テキスタイル調達でOEMメーカーに

 縫製加工業からOEMメーカーへと脱皮するには、素材と付属の仕入れが条件になります。素材と付属を指定されたとしても、自社で仕入れると、在庫管理、原価管理の業務が発生し、更には、先に仕入れが発生するので資金繰りも考えなければなりません。つまり、資金力が問われるということです。
 縫製加工の仕事なら、設備を揃え、技術を磨けば、資金力がなくても高額な商品にも対応できます。しかし、自社で高額な生地を仕入れるには資金力が必要なのです。
 必然的に取り扱い商品の絞り込みも必要です。様ざまな素材を駆使した製品を作るには、それだけの資金と生地の在庫負担、そして、仕入れ先管理や在庫管理という業務も発生するからです。
 OEMメーカーを経営するには、素材の絞り込み、仕入れ先の絞り込みにより、仕入れの太いパイプを作ることが重要です。逆に、販売先はある程度拡大しておかないと、リスクヘッジができません。
 縫製加工ならば、その反対に得意先を絞り込んで太いパイプを構築しないと仕事が途切れてしまいます。それには、どんな素材でもデザインでも縫いこなす技術力と対応力が問われます。
 つまり、縫製加工業とOEMメーカーとは経営に対する姿勢が全く異なります。
 したがって、これまで技術力を訴求してきた縫製加工業はOEMメーカーに転身するのは非常に困難です。もし、許されるならば、縫製加工業として生き抜く方が有利です。しかし、肝心の得意先が淘汰されてしまえば、それで仕事が終わってしまうリスクも高いといえます。
 
3.ODMはサンプルを提示する

 ODMメーカーになると、小売店と取引が可能になります。アパレル卸に納品するより、利益率は高くなります。
 その代わり、自社が企画機能を持ち、得意先にサンプルを提示しなければなりません。言われた通りに縫製する商売から、売れる商品を提案する商売への転換です。
 「売れる商品とは何か」を考えることで、トレンド情報や店頭情報の収集や分析を意識するようになります。縫製加工業であれば、何が売れるかを考える必要もないし、トレンドを意識することもありません。
 ODMメーカーとして実績を積むことは、何が売れるかを把握することです。ここまで来れば、「ファクトリーブランド」を売り出すことを考えられます。
 ODMメーカーはサンプルを提案するが、基本的には工場です。工場の利益は設備の稼働率と人員の効率によって生み出されます。工場を回すためにサンプル提案をしているのです。サンプルを提案するための企画の経費は掛かるが、商品の在庫リスクを持つことはありません。
 ファクトリーブランドとは、あくまで本業は縫製業であり、売上の一部をファクトリーブランドで稼ぐという発想です。
 大きな工場になるほど、その生産ラインを全て自社ブランドで埋めることは不可能でしょう。
 アパレルメーカーは、利益率は高いが、商品が売れなければ在庫を抱え、損失が生じます。アパレルメーカーとして自社工場の稼働率を上げることを優先すれば、間違いなく在庫過多に陥り倒産してしまうでしょう。もし、アパレルメーカーとして生きていくならば、自社工場を縮小し、生産量の変動を吸収するためにも、外部工場とも取引することになると思います。
 
4.業態により企画の方向性は異なる

 ODMメーカーが提案するサンプルの品揃えは、ある程度、幅を持つ必要があります。得意先に幅があるからです。ヤングを顧客に持つアパレルでも、微妙に顧客層は異なるし、ブランドのテイストも異なります。フォーマルな服を求めるブランドもあれば、カジュアルな服を求めるブランドもあります。幅広い顧客に対応しなければ、縫製設備をフル稼動することはできません。
 一方、自社ブランドの商品を企画生産し、販売するアパレルメーカーになると、より商品の幅を絞り込み、競合他社との差別化が求められます。
 商品企画をして、サンプルを作成することに変わりはありませんが、ODMメーカーが作るサンプルと、ファクトリーブランドが作るサンプルは異なります。
 更に、自社工場を持たないアパレルメーカーは、ファクトリーブランドのように、自社工場で生産できる商品、という制約もなくなります。従って、シーズンによって自由にアイテム構成を変更することができます。

5.価格競争からブランド競争へ

 縫製工場が、アパレルメーカーへの転身を考えるのは、人件費の高い先進国に立地しており、価格競争力がないからです。
 現在、アパレル企業の主流は小売業態です。小売店がブランドを開発し、世界中のメーカーから商品を調達しています。グローバルSPAと呼ばれる大型アパレル小売業は、人件費の低い国で生産し、人件費の高い国で販売しています。人件費の高い先進国の縫製工場から調達することはほとんどありません。
 人件費の高い工場は価格競争力はありません。勝負するのは、品質、デザイン、ブランドです。大量生産ではなく、少量生産。数千人単位の大規模工場ではなく、10人単位の小規模な工場が基本になります。
 先進国の工場の強みは、高額な商品を購入できる顧客が近くに存在していることです。顧客とコミュニケーションが強みとなります。
 その強みを活かし、付加価値の高いビジネスをするには、OEMメーカーではなく、ODMメーカーになる必要があるし、更には、自社の強みを活かしたファクトリーブランドを展開すべきです。
 これを実現するには、価格訴求ではなく、独自の魅力を直接顧客に届けなければなりません。魅力は技術だけではないし、商品だけでもありません。人の魅力も、素材の魅力も、情報発信の魅力も含まれます。全ての魅力が複合して初めて、ブランドの魅力になります。ブランドが確立してこそ、人件費の高い先進国の製造業が成立するのです。

*有料メルマガj-fashion journal(510)を紹介しています。本論文は、2021.8.30に配信されたものです。リアルタイムでの講読をご希望の方は、http://www.mag2.com/m/0001355612.htmlよりお申し込みください。  

アパレルDXについて考える  j-fashion journal(509)

1.クラウド上で仕入れ、販売する

 アパレルビジネスはデジタル化によって、どのように変容していくのでしょうか。もし、しがらみも既得権を考慮せず、理想的なビジネスモデルを考えるとしたら、何ができるのか、について考えたいと思います。
 アパレルビジネスとは、生地や付属等の原材料を仕入れ、縫製工場でアパレル製品に加工し、それを販売するビジネスです。小売店に卸売をするのが製造卸、自社で販売まで行うことを製造小売りと言います。
 現在は、グローバルSPAがアパレル産業の主力です。自社ブランドを開発し、商品を企画し、直接工場から商品を調達して、世界中の店舗で販売するというビジネスモデルです。
 アパレルビジネスは柔軟です。グローバルな大企業から個人まで、様々な規模でビジネス展開することが可能です。
 例えば、縫製工場でも、小売店でも、テキスタイルメーカーでも、アパレルビジネスをコントロールすることはできます。もちろん、個人でも可能です。誰がリスクテイクして、ビジネスをコントロールするかの制約はありません。
 もし、生地や付属のデータベースがクラウド上に存在し、それを1着分単位で仕入れるなら、縫製工場は無駄な在庫を持たずに、一着ずつ生産することができます。
 同様に、アパレル製品がクラウド上に登録され、自由に小売店が仕入れることができれば、無駄な製品在庫を防ぐことができます。
 更に、顧客が直接クラウド上から購入すれば、店頭在庫の無駄がなくなります。予約販売のように、一定のリードタイムが確保できれば、更に無駄を減らすことができるでしょう。

2.クラウド上にパターンデータを公開する
 
 クラウド上には様々なデータが公開されています。3Dプリンターが普及したのも、クラウド上に3Dデータが公開されていたからです。画像データ、音楽データ等、様々なデータがクラウド上で公開され、無償あるいは有償で提供されています。
 アパレルCADがあるのだから、アパレルのパターンデータもクラウドにありそうですが、現段階ではほとんど存在しません。
 そもそもアパレルのパターンはアパレル企業のノウハウの結晶であり、それを公開することはあり得ないとされています。欧米ではパターンを外注することもほとんどありません。
 しかし、日本にはアパレルCADを使ったパターンメーキング、グレーディング業務を行う企業が存在します。と言っても、パターンメーキングはクライアントからの受注業務なので、所有権を持っているわけではありません。したがって、クラウド上に公開できるオリジナルのパターンは存在しなかったのです。
 私はパターンメーキング会社に「トレンド情報に基づくオリジナルパターンの作成と販売ビジネス」を提案し、トレンドパターンセミナーを企画し、そこで使うオリジリルパターンを開発しました。そのパターンはネット上で販売しています。
 まだまだ普及していないが、パターンが入手できるならば、縫製工場は生地を選ぶだけでアパレル製品が作れるようになります。
 こうなるとデザイナーの業務内容も変わってくるでしょう。商品デザインというより、ブランドを維持するためのテーマ設定、テキスタイルや付属の選択、パターンと生地とのマッチングが重要になります。
 
3.展示会DXを考える

 これまでのアパレルのコレクションや展示会はB2Bでした。アパレル企業が、プレスと小売店のバイヤーに見せるための展示会です。顧客はブランドの情報を雑誌から入手し、小売店から商品を入手しました。
 今では、ファッション情報は、雑誌よりもインスタグラム等のSNSから入手する顧客が増えています。
 それなら、インフルエンサーを招待し、服を選んでもらい、プロのスタイリスト、ヘア&メイクアーティスト、フォトグラファー等でチームを作り、インフルエンサーをモデルにした一枚の写真を作るイベントを展示会と考えた方が良いのかもしれません。
 メーキング動画を配信してもいいし、作成した写真をアート作品として販売してもいいでしょう。
 その写真をネット上に上げ、そこから商品購入した場合、インフルエンサーに報酬を支払う仕組みができれば、インフルエンサーの新しいビジネスモデルになります。
 これまでの展示会は完成した商品を販売するのが目的でした。しかし、商品の販売だけならネットで完結します。人を集めて、商品を紹介するのであれば、それを着用してもらうことが重要です。つまり、リアルな展示会は商品の試着イベントにして、販売はネット上の展示会というように分けることも可能です。
 ネット上の展示会であれば、完成品だけを展示するのではなく、プロセスも紹介するのはどうでしょうか。デザイン画、1次サンプル、2次サンプル等をアップし、そこでの議論を公開し、顧客からの意見も募集します。
 そうすれば、人気のない商品は企画段階でボツにできるし、人気のある商品は予約注文を取ることもできます。
 情報公開は一般公開でもいいし、ある程度の制限を加えてもいいでしょう。
 例えば、年齢別に顧客の意見を聞くのも面白いし、サイズ別の顧客の意見を聞くもの良いでしょう。
 クラウドファンディング型のオンライン展示会があってもいいと思います。生産ロットに達したら生産開始となる仕組みです。
 
4.ファッション体験DX

 店頭販売とネット販売の違いは何でしょうか。DXにより、小売店はどのように変容していくのでしょうか。
 商品を購入するだけなら、ネットで十分です。ネットでは素材の感触を確認したり、試着して着心地をチェックすることはできま線が、写真から想像することはできます。動画ならシワや生地の動きが確認できるので、更に分かりやすくなります。
 アパレル製品を着用して、SNSに上げ、「いいね!」をもらう。消費者の中には、それを目的としている人もいます。そうならば、小売店は良い写真が撮れるスタジオになるべきです。販売員はスタイリストやヘア&メイク等を担当します。あるいは、販売員自身がインフルエンサーになるのも良いでしょう。
 そうなれば、接客をする必要はありません。商品が欲しければ、店頭に端末をおいて、そこから注文してもらえばいいのです。
 店頭では、顧客参加型の撮影イベントを行います。その体験が楽しければ、店まで出かける意義が出てきます。
 あるいは、小売店では小売店限定モデルを販売します。この商品はネットでは購入できません。あるいは、オーダーメイドでも良いでしょう。いずれにしても、ネットではできないサービスを店舗で行うのです。
 そうなると、店の立地、面積、サービス内容も変わってきます。商品を並べるのではなく、写真の背景となるようなショップです。カフェやメイクスタジオを併設するのもありです。
 こうして、小売店の役割は物販から体験へと移行していくことなるのです。

*有料メルマガj-fashion journal(509)を紹介しています。本論文は、2021.8.23に配信されたものです。リアルタイムでの講読をご希望の方は、http://www.mag2.com/m/0001355612.htmlよりお申し込みください。  

家内制手工業×デジタル革命 j-fashion journal(508)

1.家内制手工業、問屋制手工業、工場制手工業

 職人が自宅で手仕事をすること。家族も仕事を手伝っている。これが家内制手工業のイメージです。
 ある程度、余裕が出てくると、仲間の職人に仕事を振るようになります。生産力が上がり、大量に材料を仕入れることにより、スケールメリットが出てきます。まとまった注文を受け、大量の商品を小売店に卸すようになります。これが問屋制手工業です。
 複数の職人に仕事を振ると、どうしても品質や納期にバラツキが出ます。そこで、工場を建て、共通の材料,機械を使って生産します。職人は会社員となり、収入は安定します。これが工場制手工業です。
 現在も、伝統工芸のほとんどは、いずれかの手工業によって作られています。
 家内制手工業が残存する条件は、「地域性が高いこと」「機械化が困難なこと」「価格弾力性が低いこと」と言われています。つまり、大量生産ができないことです。
 これらの条件は、販売価格の維持が可能で、生産数量は伸びないが、競合も起きず、細く長い商売ができることを意味しています。つまり、サスティナブルなビジネスとも言い換えられます。
 
2.工場制機械工業、産業革命、グローバリゼーション

 工場制手工業の工場に、機械設備が導入され、工場制機械工業になりました。更に、蒸気機関で稼動する大型機械が導入され、産業革命につながっていきます。
 それまで各地域に分散していた工場は、一カ所に集中し、人口の集中と都市化が進みました。そして、貨幣経済の比率が高まり、貧富の差が拡大しました。
 産業革命は大量生産を可能にしました。大量生産した商品を販売するには、大量販売が必要です。そこで、規格化された店舗を多店舗展開するというチェーンストア理論が提唱されました。
 それが世界規模に拡大し、グローバリゼーションが生れました。そのベースには、デジタル技術がありました。世界中がインターネットでつながり、世界各地の情報を入手することが可能になりました。サプライチェーン、物流、市場の全てがグローバルに拡大したのです。
 やがて、グローバリゼーションは限界を迎えました。技術の進歩は世界中の需要を超える供給能力を生み出し、世界中の資源を消費する規模に達したのです。そして、大量廃棄と環境汚染、資源の枯渇が大きな課題となりました。
 世界がそうした現実と向き合えたのは、パンデミックがあったからです。惰性で動いていたグローバル経済が、一度完全に停止し、世界は将来を考え始めたのです。

3.デジタル革命は「脳と感覚器の革命」

 世界を人体だとすると、産業革命は「筋肉と骨格の革命」でした。巨大なパワーを生み出し、工場や交通機関を動かしました。巨大な筋肉を支えたのは、膨大なエネルギーを供給する化石燃料です。
 デジタル革命は、「脳と感覚器の革命」です。コンピュータは外部の脳であり、カメラやセンサーは感覚器である。そして、両者をつなぐ神経がインターネット回線です。
 世界という人体は巨大化しすぎました。最早、筋肉や脂肪により、内臓は押しつぶされそうになっています。
 また、巨大な人体を保つためのエネルギーも不足しています。大量のエネルギーを摂取し、大量の排泄物を放出するので、環境汚染も深刻になっています。
 世界は代謝を下げて、ダイエットしなければなりません。そして、肉体の活動を減らし、知的活動を増やすことです。物質経済から情報経済へと転換し、我々人類の活動も頭脳的、精神的、感覚的な分野にシフトすることが求められています。
 
4.デジタルな江戸文化を再現できるか?

 もし、家内制手工業の時代に、デジタル革命が起きたら世界はどのように変わっていたでしょうか。もっと具体的に言うと、江戸時代にいきなりデジタル革命が起きたらどうなっていたのでしょうか。
 江戸時代は幕藩体制であり、各藩は現金収入を得ようと特産品の開発を競い合っていました。しかし、化石燃料も使わず、エネルギーは完全に国内の薪炭、植物油等で賄っていました。ほぼ全ての商品は家内制手工業で生産され、高度な問屋流通によって、全国に流通していました。
 江戸時代は大量生産の商品がないだけで、実は高度なビジネスが行われていました。
 例えば、当時の吉原は、単なる色街ではなく、江戸文化のサロンでもありました。江戸で最高の格式を持つ芸者が在籍し、夜毎、江戸中の大店の主人、大名、僧侶、役者、絵師、作家等が集まり、交流していたのです。
 その中で歌舞伎役者は錦絵となり、背景には当時の大店(おおだな)が紹介され、役者が着る衣装には最新流行の柄が描かれました。つまり、様々なプロモーション、マーケティング活動が行われていたのです。
 また、江戸市中の一般人の中から美人を見つけ出し、それを美人画の錦絵として販売しました。これは読者モデルやアイドルの走りであり、当時も大ブームを起こしました。
 世の中に事件が起きれば、それをアレンジして狂言作家が台本を書き、歌舞伎の演目として上演しました。その度に、長唄や清元、常磐津の名人達が新曲を書き下ろし、役者は振りをつけて踊り、新しいデザインの舞台衣装を誂えていたのです。
 こうした活動は、現代のエンターテインメントと比較しても勝るとも劣らないものです。これがもし、インターネットで世界に配信されていたら、パリでは数十年早くジャポニズムブームが起き、ヨーロッパに大きな影響を与えたと思います。
 また、当時の高度な工芸品も、世界的注目を集めたと思います。
 日本にとっての産業革命は、富国強兵に多大な貢献をしました。しかし、経済的成長の裏側では、日本は独自の文化を捨て、西欧文化の植民地となっていきました。
 産業革命の果てのグローバリズムが行き詰まった現在、我々はデジタルな江戸文化、江戸ライフスタイルを再現すべきなのかもしれません。完全なリサイクル社会とエネルギーの国産化によるサスティナブルな社会とライフスタイル。それを世界に発信することこそ、脳の時代の新たな産業になるのではないでしょうか。

*有料メルマガj-fashion journal(508)を紹介しています。本論文は、2021.8.16に配信されたものです。リアルタイムでの講読をご希望の方は、http://www.mag2.com/m/0001355612.htmlよりお申し込みください。  

May 29, 2023

日常生活という絶妙のバランス j-fashion journal(507)

1.日常生活は動き続ける

 新型コロナ感染症を防ぐために、一般市民の日常生活が制限を受けた。当時は、それが当たり前で、誰も疑問に持たなかったが、考えてみれば不思議な話だ。
 我々がパンデミックを恐れるのは、日常生活が破壊されるからだ。それなのに、簡単に日常生活を制限してしまう。これは本末転倒ではないか。
 パンデミックを収束させることと、日常生活を維持することを両立させなければならない。もし、日常生活を制限するにしても、最小限度に抑えるべきだ。人の流れを制限するのではなく、いかに人の流れを維持できるのかを考えなければならない。
 政府や政治家は、市民の日常生活の重要性を十分に理解していない。国の経済は、政治や法律が動かしているのではない。日常生活の活動こそが、経済を動かしているのだ。
 日常生活とは、ある種の予定調和の世界である。毎日の生活は少しずつ異なるが、全体的には昨日と同じ生活が今日も続き、明日も続く。それが日常だ。
 人は、朝起きてから、夜寝るまでの間、何をすべきかを知っている。誰に命令されなくても、自分で起床時間を決め、ほぼ同じ時間に起きる。そして、歯を磨き、顔を洗い、着替えて、朝食を取り、トイレに行って、会社や学校に出かける。
 ほぼ同じ時間に家を出て、最寄りの駅に向かい、ほぼ同じ時間の電車に乗る。駅に行く道で見かける人も、電車の中で隣り合わせになる人も、大体同じはずだ。もちろん、毎日の小さな変化はある。しかし、その変化もある程度の確率で起きているに過ぎない。全体としては同じように動いているのだ。
 会社に着いて、仕事をするのも日常だし、上司や同僚、部下との人間関係も日常だ。仕事のミスで悩んだり、上司のパワハラに腹を立てたりと、毎日変化はあっても、それも日常の範囲内である。多くの場合、問題はあっても会社の経営は成り立っているし、給料も支払われる。そして日常生活を維持している。
 会社の帰りに同僚と共に居酒屋に行って、酒を飲みながら、愚痴を言い合いながらストレスを発散するのも日常だ。
 周囲を見渡せば、様々な人がいる。その人達もそれぞれの日常生活を過ごしている。現場の仕事では私語を禁じられていることは多い。そういう人にとって、仕事が終わって、一杯飲みながら会話をするのが、唯一のコミュニケーションであり、自分を確認する時間だ。その人にとっては、それが日常だ。
 居酒屋で働いている人にも日常生活があり、居酒屋に酒や食材を卸している人にも日常生活がある。それらの活動こそ、経済を動かしているのだ。
 東京には一千万以上の日常生活があり、それが自律的に動いている。全ての人間が自分のやることを理解し、自分で行動する社会を客観的に見れば、高度なシステムで動いていると思うだろう。
 もちろん、交通事故にあったり、病気になる人もいる。当事者にとっては、非日常的な出来事だが、大きな視点で見れば、それらを含めて日常生活が動いているのである。

2.日常生活を止めると巨額の損失が生じる

 高度に組織化され、自律的に動いている日常生活を政府は簡単に止めてしまった。
 コロナ感染の初期の段階で、大型商業施設や映画館、飲食店等を長期的に休業させ、多くのイベントも休止させた。会社の通勤も制限し、学校も休校にした。
 その後も1年半以上、緊急事態や蔓延防止等を繰り返し、日常生活は大きく制限された。この間の経済的喪失は計り知れない。市民全てが自律的に動いていた社会が何度も止められたのである。
 その間の在庫、家賃、経費が利益を圧迫し、サプライチェーン全体が大きなダメージを受けた。例えば、飲食店の売上が減少すれば、飲食店だけでなく卸し業者も生産者も売上が減少する。それに関係する物流も減るし、従業員の雇用も削られる。
 昔は、現在よりも流通が複雑で流通在庫も多かった分、調整もしやすかった。しかし現在は、流通を短縮し、流通在庫を減らし、全てをフローで賄っている。フローを止めたら、全ての計画が狂う。計画が立たないことは、無駄が増えることだ。ギリギリでバランスを取っていた流通は崩壊の危機にある。
 例えば、アパレル業界は、店頭を週単位で管理し、原材料の仕入れから縫製加工、物流をコントロールしていた。しかし、3カ月店頭が閉鎖されれば、1シーズンの商品、原材料、縫製等が全てストップしてしまう。
 これを完全にビフォーコロナの状態に戻すには、コロナが終息してから半年はかかるだろう。しかし、多くの企業はコロナが終息する前に赤字は増え続けた。政府からの助成金で問題を先のばしにしたが、根本的には何も解決していない。当然、事業の縮小やリストラが進むだろう。
 同様のことは、飲食業にも観光業にもホテル業にも起こっている。これらの損失はどこにも計上されない。各社が内部留保を切り崩し、資金繰りの借り入れを増やし、リストラをしても、それが表面化するには時間がかかる。
 公務員やサラリーマンは、給料が保証されているので、社会全体の動きを見ないし、関心もない。会社が再開すれば、直ぐに元に戻ると考える。しかし、会社が休業した間の損失はそっくり残っている。そして、多くの企業はその穴を埋められないのである。
 
3.日常生活の制限は健康にも悪い

 健康的な生活とは、規則正しい生活リズム、質の良い食事、適度な運動、十分な睡眠、ストレスを溜めない精神状態を保つことである。
 コロナ禍で日常生活を制限された結果、多くの人は運動不足とストレスに悩まされた。特に、高齢者は感染のリスクが高いとされ、不要不急の外出を控えるように再三言われた。習慣となっていた散歩を控え、地域のスポーツサークルにも行かなくなると、次第に身体が固まって動けなくなる。腰や肩が痛くなり、十分な睡眠も取れなくなる。外出できないこと、人に会えないことは大きなストレスだ。
 更に、マスコミがコロナの不安を煽った。不安もまたストレスを招く。
 新たな対策の方法が発見されても、多くの論ずんが発表されても、マスコミは何も伝えない。国民が安心できる情報は伝えず、不安を煽り続けたのだ。
 不安を煽り、行動を制限するだけの生活は、免疫力を下げ、感染症に掛かりやすくなる。やたらと飲食店のアルコールばかりを規制したが、実は家庭内感染の方が多かった。「人流を抑えると感染が減る」という政府の思い込みと、「アルコールの提供を制限することが人流を抑えることにつながる」という二重の思い込みが飲食店の経営を圧迫し、市民のストレスを高めたのである。
 一定以上のストレスが蓄積され、しかも経済が回らず貧困が増えれば、必ず犯罪も増える。そして、更にストレスは高まっていくのだ。
  
4.日常生活を維持する努力が必要

 日常生活を維持することは、経済を回すことであり、人々の健康を守ることにつながる。その中でいかに感染症を予防するかだ。
 政府が行っていたことは、日常生活の制限だけである。それも十把一絡げの大雑把な制限に終始していた。
 なぜ、具体的な治療薬に関する情報を市民に伝えないのか。そして、なぜ特例承認をしないのか。特に、既に寄生虫やマラリアの薬として認可され、人体に悪影響はないのだから、もっと普及させても良かった。
 病院の病床が足りないのも、感染症の分類を2類のままにしていたからだ。日本におけるコロナの死亡率は決して高くなかった。20年は例年に比べて死亡者数が少なかったほどだ。
 もっと早くインフルエンザ並の5類にしていれば、掛かりつけの開業医が対応できた。CTスキャンやオキシメーターを用意している病院も多いし、治療薬の処方もできる。
 ボトルネックである保健所を通すよりも、掛かりつけ医を通す方が患者も安心できるし、スムーズに対応できたはずだ。こうした対応もせずに、軽症者の家庭内治療を義務づけるというのは、医療放棄に他ならない。
 新型コロナもインフルエンザと同様に、学校や会社で患者が一定以上でたら、強制的に休みにすればいい。飲食店もクラスター感染が発生したら、一定期間の営業停止を義務づければいい。あとは、市民の良識に任せ、各自が対応した方が上手く回るのである。

*有料メルマガj-fashion journal(507)を紹介しています。本論文は、2021.8.9に配信されたものです。リアルタイムでの講読をご希望の方は、http://www.mag2.com/m/0001355612.htmlよりお申し込みください。  

アパレルエンジニアの育成について j-fashion journal(506)

1.ファッションが好きな若者

 ファッション企業が儲かっていた時代は、お金を稼ぎたいからアパレル業界で働きたいとか、モテたいからアパレル業界に就職するという人もいた。しかし、アパレル産業が斜陽になった現在、実利的な意味でファッション業界を目指す人は減っている。
 それでも、ファッションが好きな若者は多い。多くはお洒落をするのが好きだったり、少し奇抜な服を着たり、デザイナーズブランドの服を買うのが好きな人達である。ファッションを消費するのが好きなのだ。
 一方で、ファッションをつくる仕事をしたいと考える人もいる。服をつくるのが好きで、その技術を身につけ、職業にしたいと考えている。
 あるいは、ショップで服を売りたいと思う人もいる。好きなファッション商品を販売することで、顧客に喜んでもらいたいと考えたり、ファッションの接客そのものが好きだという人もいる。
 また、手を動かして何かをつくるのが好き、美しいものをつくるのが好きという人達もいる。
 ビジネスとして、あるいは自己表現として、あるいは、創作活動として、ファッションは魅力的な世界なのだ。
 ファッションを楽しみたい人がいて、ファッションを作りたい人もいる。そして、ファッションを通じて人とつながりたい人もいる。
 70年代、80年代のようなアパレル業界の急成長と市場拡大は困難かもしれないが、小さな市場に対応し、持続可能な成長を目指すことはできるのではないか。
 そのためには、ファッションビジネスのDXを前提にした人材育成とビジネス支援、コミュニティが必要になると思う。
 
2.サンプル生産の重要性

 これまでのアパレル生産技術は、大量生産を基本にしていた。いかに効率良く作業を進めるか。そのための技術が追求された。
 例えば、繊維機械の技術革新は、高速化と効率化が主要なテーマである。いかに短時間で大量の商品を生産するかを競い合ってきたのだ。
 しかし、効率の良い大量生産は、資源の枯渇を早め、商品単価を下落させ、市場収縮を招く。効率の良い機械を導入するにしても、人件費の高い日本ではなく、人件費の低い新興国で設備投資を行うのが一般的だ。
 こうして、人件費の低い国への生産移転が進む。生産拠点が流出した国は空洞化し、製造業が衰退する。
 大量生産、効率追求という考え方には持続性が欠如している。
 これからの技術革新は、効率追求ではなく、品質追求、付加価値追求ではないか。つまり、低速にすることで、より高度で付加価値を生み出す機械や技術。大量生産ではなく、一点生産により付加価値を生み出す機械や技術が求められるだろう。こうした機械ができれば、先進国型製造業の概念が明確になるはずだ。
 今後の日本の製造業は、高付加価値商品と、量産品のプロトタイプ設計が重要になるのではないか。
 どちらにも共通してるのは、新興国の大量生産品との差別化である。差別化のための技術。大量生産、効率追求という方向とは正反対の技術が求められている。
 
3.CADを基本とした外注パターン検定

 高付加価値商品と量産品のプロトタイプをつくる技術はパターンメーキングと縫製に集約できるだろう。
 パターンメーキングはパターンCADの登場で劇的に変わった。パターンデータをコピー、共有することで、チーフがマスターパターンを作成し、そのデータを元にアシスタントが展開パターンを作成できるようになった。
 もし、この手法を業界全体に応用するなら、基本となるパターンをクラウドに上げておいて、そこから展開することも可能だし、パターンナーが独自のパターンを販売することも可能になる。
 また、パターンメーキングの教育も変わるだろう。これまでは、原型から各自の体型やサイズに合わせた製品パターンを作成していた。クセのある体型に合わせれば、クセのあるパターンになる。それは既製服にはならない。
 既製服は、サイズ展開を前提にしている。標準サイズのバランスの良いパターンを作成し、グレーディングにより、一定のカバー率を確保するという考え方である。
 標準サイズと言っても、国や民族、年齢、職業等により異なっている。それらの標準パターンをクラウドに上げておいて、そこからパターンを展開することができれば、より完成度の高いパターンを作れるだろう。
 企業からの外注パターンを作成する場合には、それぞれの企業のマスターパターンや標準パターンを基本に展開しなければならない。しかし、大多数のアパレル企業は標準パターンを持っていない。企業内パターンナー個人のノウハウに依存しているからである。
 外注パターンナーとは、独立したフリーランスのパターンナーである。外注パターンナーとして独立するために、必要なことは何だろう。
 私は以下のものが必要だと考えている。パターンメーキングの基本的な技術、パターンCADの操作、アイテム毎に標準的なパターンを所有することである。
 標準的なパターンを持っていて、そこからCADでパターン展開することができれば、企業内でもアパレル市場でも通用するだろう。標準パターンがしっかりしていれば、着れない服、バランスの悪い服はできないはずだ。
 標準パターンを配布し、展開操作を教えるための検定を整備したいと思う。そして、その運営主体となる法人を設立する。設立には、パターンCADメーカー、パターンメーキンク企業、ファッション専門学校、大学等と連携したい。
  
4.サンプル縫製の検定

 次に各アイテムの標準パターンを元にした、サンプル縫製の検定を整備する。検定はアイテムごとに設定される。初級ブラウスとか、初級スカートというように、縫製の難易度とアイテムを組み合わせることで、実際の仕事の目安になるだろう。
 通常、量産の縫製工場は分業なので、一人の縫製工が一枚の服を最初から最後まで手がけることはない。一枚の服を全て縫製する「丸縫い」ができるのは、工場長やライン長など、高度な技術を持つ縫製工だけだ。
 したがって、丸縫いができるサンプル縫製工は立派な技術者である。海外生産が増えても、国内でサンプルを縫製する仕事はなくならない。
 また、サンプル縫製ができれば、自立してオーダーメイドの服を売ったり、一点ものを販売することも可能だ。
 サンプル縫製の検定では、パターン、縫製仕様書、生地、付属等を提供し、実際に縫製し、最終検品まで行う。支給された、パターン、縫製仕様書、生地、付属等は、その後の資料としても活用できるはずだ。
 こちらの検定は、自分で着用できる方が良いので、グレーディングパターンを用意して、選んでもらえるようにしたい。
 縫製実習は多くのファッション専門学校で行っているので、学校に教材を支給して、審査を学校に委託することも可能だ。
 また、縫製工場やミシンメーカーと連携したワークショップも可能である。
 外注パターンナー、サンプル縫製という仕事は個人事業主として営業することが多い。自分で伝票を切り、入出金管理も行わなければならない。こうしたビジネスに関する業務も検定として整備できればと思う。

*有料メルマガj-fashion journal(506)を紹介しています。本論文は、2021.8.2に配信されたものです。リアルタイムでの講読をご希望の方は、http://www.mag2.com/m/0001355612.htmlよりお申し込みください。  

May 28, 2023

異世界転移の時代か? j-fashion journal(505)

1.人類は異世界に転移したのか?

 アニメには、異世界転移ものというジャンルがある。主人公が突然異世界に転移してしまう物語だ。
 アニメの異世界は、ある程度共通した設定がある。魔法が使えたり、経験値を獲得すると新たな能力を獲得したり。また、中世風の町並みに自然豊かな森、エルフやドワーフ、獣人や魔人が登場する。したがって、主人公は転移しても、すぐに異世界に転移したことに気がつく。
 もし、景色は今まで通りの町並みのままで、そこにいるのも普通の人達だとしたら、異世界だと気がつくだろうか。
 現在、我々が住む地球は、異世界ではないはずなのに、不思議なことが次々と起きる。
 世界中の政治、経済が揺らぎだし、コロナ禍はワクチン接種が進んでも収まらない。世界のあちこちでクーデターや紛争が起き、指導者が死亡したり、交代している。
 中国は、日本と友好関係だったはずなのに、現在は敵対している。中国国内のWEBには、「日本が台湾を軍事的に支援するなら、無条件降伏するまで核兵器を使い続ける」という宣言が掲載されているらしい。
 そんな中国の鄭州市では、突然のダムの放水により水没。地下鉄やトンネルでは、数えきれないほどの死者が出た。噂では、地下の軍事基地も水没したとか。中国も異世界になりつつある。
 アメリカも昨年の大統領選挙以来、異世界に突入しているように感じる。
 そして、日本は、コロナ感染者が過去最高を記録しそうな状況の中で、オリンピックを開催した。開会式で入場した選手は全員マスクを着用。これがフィクションではないのだから、異世界としか言いようがない。
 人類は全員、異世界に転移したのではないか。
 
2.世界は分断し、分解する

 現在の状況は、先行き不透明とか、将来が見通せないという状況を超えている。気がついたら、世界が変わっていたのだ。
 どこに異次元ポケットが開くか分からないし、突然、魔法使いが登場するかもしれない。
 最も空間がひずんでいるのは、やはり中国とアメリカではないか。世界第一位、第二位の経済大国として、共に投資や貿易を重ね、共存共栄の関係だったが、トランプ前大統領就任以来、徐々に対立の度合いを深め、現在では完全に敵対している。更に習近平総書記の態度も豹変した。まるで毛沢東の生まれ変わりのように、中国を力で支配し、世界を共産主義で染め上げる野心を隠さない。
 米中が敵対することで、世界は分断した。同時に、アメリカも共和党と民主党で分断している。イギリスはEUから離脱し、EUという組織も揺らいでいるようだ。
 この状況は何だろう。世界は一つであるというグローバリズムが突如求心力をなくし、むしろ、遠心力が作用している。まとまっていたものが分断され、さらに分解が進む。
 この遠心力に例外はないのかもしれない。そうであるならば、日本も分断するだろうし、中国も分断するだろう。あらゆる国で分断か始まり、分断が分断を呼んで、分解が始まるのだ。
 異世界はまとまらない。分解が進んでいく世界だ。
 
3.世界をまとめる求心力の消失

 なぜ、世界は求心力を失ったのか。それには、求心力とは何か、を考えなくてはならない。
 例えば、国の求心力とは何か。通常、人は生れた国が祖国となる。国には法律があり、国民には権利と義務がある。
 人は生れた瞬間、親子の関係が生じる。子供が生れる前提として結婚制度があり、他人が家族となる。
 親は子供が自立するまで養育し、教育する。
 学校という教育機関も国としての求心力を高める存在だ。各国が独自の歴史、文化、芸術、政治等を教育し、国民としての自覚を高めていく。
 学校を卒業すると、一般的には就職し、会社で仕事を行う。もちろん、起業して仕事を始めることもある。
 仕事をして、報酬を得て、生活を維持する。そして、納税することで、国や自治体が運営される。
 これらをまとめると、ルールとお金、そして関係性に集約されるのでないか。
 ルールは、組織ごとに設定される。国には国のルールがあり、会社には会社のルールがある。しかし、自由に国籍を他国に移したり、組織に縛られない働き方が増えるにつれ、ルールに縛られない人が増えてくる。集団で仕事や生活をするのではなく、個別に生活を選ぶ。もちろん、集団としての関係性は希薄になる。
 地理や時間に縛られない生活ができるようになったのは、インターネットなどのデジタルテクノロジーのお蔭だ。
 ネット上で仕事をして、ネット上で遊ぶ。個人の生活がネットに依存するにつれ、国や組織のルールより、ネットのルールが重要になった。
 仮想通貨、ネットバンキング、ネット上の投資や取引が増えるにつれ、現金を使うこともなくなり、お金はデジタルデータとして認識される。お金は情報なのだ。
 また、テレビや新聞というメディアは国や地域に依存している。そして、政治も国や地域に依存している。それらが、インターネットにより揺らいでくる。
 情報収集の手段がSNSに移ることで、国やマスコミが情報をコントロールできなくなる。そして、多くの情報がリークされ、秘密が暴かれるようになると、これまでの政治手法は使えなくなる。もちろん、政党という組織も揺らいでいる。
 
4.AIによるマネー取引

 関係性もルールもお金も、全てはネットでデジタルデータとして扱われるようになる。ネットの世界では、国家よりもビッグテックのルールが優先される。また、ビッグテックは、世界中の人々から、少額の費用を満遍なく徴収する仕組みを作り上げた。これまでは、国家しかできなかった徴税以上の仕組みを、民間企業のビッグテックが構築してしまったのだ。当然、国家以上の財力を持つようになるだろう。
 個人は直接ネットとつながり、リアルな世界である国家、地域、家族、学校、会社等の組織のルールと関係性が希薄になっていった。
 当然、リアルな世界の組織は弱体化していく。例えば、ある日突然、組織のスキャンダルが世間に知られることになり、一気に信用を失ってしまう。あるいは、磐石に見えた組織力が脆弱になり、組織が崩壊してしまう。
 リアルマネーが姿を消し、デジタルマネーが普及することも、国家や銀行という権威の弱体化につながっていく。
 更に、税金による歳入より、国債による貨幣流通が増える。そして、物販やサービスに使われるリアルなお金より、投資に回るお金が増える。更に、法律を守らないブラックなマネーがマネーロンダリングされ、一般の金融市場に流入すれば、リアルなビジネスを圧迫していくごだろう。
 最早、お金を稼ぐ最も効率の良い方法は、お金そのものの売買である。そして、金融市場の売買にAIが投入され、秒以下の単位で取引されるようになっている。
 ここで扱われるお金は、我々の生活で使っているお金と同じものなのだろうか。仕事をして、支払われる報酬の数億倍の金額をAIが一瞬で稼ぎだす世界。こうなると、デジタルテクノロジーがお金を支配するようになるだろう。最終的には、一人の勝者が全てのお金を支配するかもしれない。
 そんな時代になったら、人はどんなに努力してもお金を稼ぐことはできなくなる。それでは、社会というゲームは成立しない。
 現在の状況は、世界そのものが成立するかしないかの瀬戸際である。全ての要素は不確実であり、何が起きるか分からない。もし、中国の不良債権が一気に表面化すれば、世界の金融は突然崩壊するかもしれない。
 そうなったら、グローバリズムを捨てて、アナログに戻って、国単位で生きていくのだろうか。トランプ前大統領は、そちらの道を選択していた。
 それとも、デジタルを基本にした新しい世界秩序を作り、一つの世界国家による新体制を創造するのだろうか。ダボス会議は、こちらの道を提唱している。
 どちらの選択肢を選んでも、異世界である。我々はこれからその異世界を経験するのか。それとも、既に異世界に転移しているのだろうか。 

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ユニクロの経営者のつもりで考えた j-fashion journal(504)

1.社長のつもりでユニクロ危機を考える

 ユニクロが大変だ。米国に中国からコットン製品を輸出しようとしたら、税関で止められた。ユニクロのフランス法人は、フランスの司法当局から「人道に対する罪の隠匿の疑い」で捜査を受けている。
 これらの原因は、中国共産党政府によるウイグル人への人権弾圧である。
 日本のネット上でも、多数の人々が「ユニクロは中国から撤退すべし」と主張している。しかし、問題はそれほど簡単ではない。もし、自分がユニクロの社長だったら、どうするのか、という視点で考えてみたい。
 アメリカは綿産国であり、中国の新疆綿を使わなくても影響を受けない。EUも、繊維製品は、トルコやインドからの輸入が多く、中国を切り離すことも可能だ。
 また、アメリカもフランスも時価総額世界一のファーストリテーリングを潰せば、自国のアパレル企業が有利になる。人権弾圧という大義名分も整った。潰したい相手だから、遠慮はいらない。
 しかし、ユニクロの社長として考えれば、会社を潰すわけにはいかない。社員の生活を守ることの方が優先順位は高い。
 人間として、ウイグル人の人権弾圧に反対していたとしても、である。
 
2.中国は市場であり生産拠点

 まず、現状を整理しよう。
 ユニクロの国内と海外の売上は半々だが、海外事業の比率は高まりつつある。国内市場は頭打ちだ。したがって、海外市場を諦めることは、企業として成長を諦めるということだ。
 海外で好調なのは、中国、台湾。特に中国は大幅な増収増益だ。
 現状、アジア・オセアニア、北米、欧州はコロナの影響で大幅な減益になっている。
 韓国は、不買運動のお蔭で不採算店の閉鎖が進み、黒字に転換した。
 ベトナムは感染が収束し好調。
 米国はコロナの影響で減収で営業利益は赤字だ。欧州も同様に大幅な減収減益。ロシアは防寒衣料等が好調で増収増益。
 人道的な要素を外して、ビジネスだけを考えるならば、中国市場を撤退するより、アメリカ市場から撤退した方が良い。
 ユニクロの課題は市場だけではない。中国生産の問題がある。現在のユニクロの価格、品質を維持するには中国縫製が欠かせない。徐々に、ASEAN生産を増やすにしても、時間が掛かる。
 米国は市場だけだが、中国には市場と生産の双方が揃っている。
 アメリカが問題としているのは、新疆綿の使用だけではない。ウイグル人が中国各地の収容所に分散されており、そこで強制労働が行われ、強制労働には縫製も含まれているというのだ。
 今後、中国縫製を続けるならば、縫製品の全てが強制労働ではないという証明を出さなければならない。しかし、中国のサプライヤーの管理強化、国際認証を取得したとしても、アメリカが信用するかは分からない。
 おそらく、中国生産を続ける限り、ユニクロは西側諸国から攻撃されるだろう。潰したい相手だし、大義名分もある。
 アメリカ向け商品はASEAN生産からの輸出に切り換えるのが現実的だが、それでもファーストリテーリングという会社そのものが、中国に協力しているということて、排除される可能性もある。中国から完全に撤退するまでは許さないと考えるのが妥当だ。
 一方で、中国市場もこれまで通りにビジネスが持続できるかは分からない。また、法律が改正され、中国法人内部に共産党支部がつくられ、書記の設置を義務づけられるかもしれない。
 どちらの国を選んでも、会社は壊滅的な打撃を受ける。
 
3.サプライチェーンの再構築

 再度、すぐにやるべきこと、できることを整理しよう。ユニクロの問題は、市場の問題と生産の問題がある。生産は、テキスタイル調達と縫製に分かれる。市場と縫製については、中国は外せないのが現状だ。
 しかし、世界は不安定だし、米中分断も簡単には収まらない。ということで、サプライチェーンも分断する必要があるかもしれない。
 実は、ユニクロの強みは日本の繊維産業の強みそのものだ。アメリカのGAPは綿製品がメインだが、ユニクロは合繊や合繊複合がメインである。これは、東レや旭化成のような日本の合繊メーカーがチームに参加しているからだ。
 デニムを供給しているカイハラも世界的レベルの企業である。
 ニット機械の島精機もチームの一員であり、世界一の技術を持っている。
 日本の繊維産業の強みがユニクロの強みであり、その根幹には日本の技術がある。
 そう考えると、テキスタイル調達に関しては必ずしも中国に依存していない。日本の合繊メーカー、紡績、商社のグローバルネットワークが後ろ楯についているので、中国以外からの調達も対応可能だろう。
 したがって、第一にやるべきことは、「テキスタイル調達からの中国排除」である。これにより、とりあえず新疆綿の問題はなくなる。
 第二は、中国の縫製工場の管理強化と国際認証の徹底。これで米国が納得してくれるかは分からないが、やるだけのことはやらなければならない。
 第三は、中国からASEAN縫製への移転を急ぐこと。この動きは素早く静かに行わなければならない。H&Mのように正面から中国政府に逆らうのは得策ではない。
 第四は、新たな縫製拠点の開発。これは自動車業界が行った戦略でもある。現地生産現地販売を基本にすれば、政治的摩擦は減少するだろう。
 例えば、米国市場向けに、アメリカ国内で縫製できないのか。あるいは、中南米の縫製拠点、ニット生産拠点の開発。
 ヨーロッパ市場向けには、東欧、トルコ、インド縫製拠点の開発。
 グローバルオペレーションではなく、世界の地域毎にサプライチェーンを構築することが今後の流れになるはずだ。
 加えて、日本市場向けの国内縫製があってもいい。一部の商品でもいいので、現地生産現地販売を行っていく。これは、政治的配慮でもあり、雇用確保という社会貢献でもある。
 これを行ったから、ユニクロが攻撃されないという保証はないが、やらないよりはやった方がいい。
 第五は、地域別の商品MDとサプライチェーンの構築。アメリカ市場は綿100%の素材は使わず、合繊主体、スポーツ、アウトドア、ハイテクカジュアルに特化する。そして、ASEAN、インド、中南米の縫製拠点から商品を供給する。
 同様に欧州市場向けには、ASEAN、インド、東欧、中近東等の縫製拠点から供給する。
 
4.静かで確実な作戦遂行を

 これまでユニクロが成長してこれたのは、グローバル化の波に巧みに乗ったことであり、日本の強みを社内に取り込んだことにある。
 それが具体化したのが、原宿店のオープンとフリースに集中したMDだった。フリースブームが終わった後も、中国縫製の品質とパワーに支えられて成長を続けられた。
 国内市場を席巻し、韓国、中国に進出した。その後、欧米市場に進出したが、現段階でも稼ぎ頭は国内市場とアジア市場である。米国市場がユニクロを成長させたのではない。これは文化の問題でもあり、時間が掛かる問題だ。
 日本のテキスタイル技術と中国生産を抜きに、今後の成長は考えられない。したがって、私が社長なら、中国を切るなら米国を切るべきだと考える。
 しかし、人権という正義を振りかざされたのでは逆らうわけにはいかない。本来ならば、ファーストリテーリングとして、ウイグル人の弾圧には人道的に反対するという声明を出すべきである。しかし、これを行えば、中国市場だけでなく、中国生産をも失うかもしれない。そうなれば、全ては終わりだ。
 全ての作戦は静かに行うことが条件になる。静かに、テキスタイル調達から中国を外し、中国は縫製加工だけとする。そして、静かにASEAN生産の比率を増やしていく。
 米国市場は合繊主体のアイテムに絞りつつ、不採算店は閉鎖していく。欧州も同様だ。コロナ禍を利用して、米国市場から撤退するという選択肢もあると思う。欧州はR&Dの拠点として維持していけばいいだろう。
 そして、静かに新市場を開拓していく。先進国よりも新興国の方が成長が期待できるので、アジア、アフリカ、中南米への投資を増やしていく。
 中国との付き合いは、現状を維持しながら、政治状況を観察していくしかない。歯切れが悪いと思われるかもしれないが、経営者としては静かに確実に動くしかないのだ。

*有料メルマガj-fashion journal(504)を紹介しています。本論文は、2021.7.19に配信されたものです。リアルタイムでの講読をご希望の方は、http://www.mag2.com/m/0001355612.htmlよりお申し込みください。  
 

 

May 27, 2023

新疆綿を巡る世界市場の分断 j-fashion journal(502)

1.新疆綿使用停止で中国猛反発

 持続可能な綿花栽培を促進する「ベター・コットン・イニシアティブ(BCI)」は、2020年10月、人権への懸念を理由に2020/21年シーズンの新疆綿承認を停止すると表明した。当然、BCIメンバーである、H&M、バーバリー、アディダス、ナイキ、ニューバランス等も新疆綿は使用できない。
 H&Mは3月24日、微博に「H&Mグループの新疆デューディリジェンスに関する声明」を投稿した。この中で、「H&Mグループは民間社会組織の報告とメディアの報道に深く関心を示しており、新疆ウイグル自治区の少数民族の『強制労働』と『宗教差別』を非難し、新疆にあるどのアパレル製造工場とも協力せず、同地区から商品と原材料も仕入れない」とした。
 これに対し、中国側は官民を上げて猛反発した。オンラインストアから商品が消え、一部の地図アプリから店舗表記がなくなった。また、市民もH&Mの不買運動を起こし、店舗の一部は閉店を余儀なくされた。
 
2.新疆綿使用で西側諸国から告発

 新疆綿は繊維長が長い「超長綿」で、色が白く、しかも価格も比較的安価だ。新疆の綿花生産量は、中国全体の約8割を占めている。
 日本の衣料品は97%が輸入で、うち中国製品が7割を占めている。中国生産の綿製品の生地は、ほとんどが中国での現地調達だ。
 世間ではユニクロ、無印良品だけが話題になっているが、実は、イオン、セブン&アイ、ニトリ、カインズなども、大量の中国製品を扱っている。コットンのアパレル、寝具、インテリア、雑貨等のほとんどに新疆綿が使われている。
 2021年1月、米税関・国境警備局は、ユニクロの綿製品を「中国・新疆ウイグル自治区産の綿を使った製品に対する米国の輸入禁止措置に違反した」として、輸入差し止めとした。
 更に、2021年7月にはフランス検察は、新疆ウイグルの強制労働の「人道に対する罪」の隠匿容疑で告発を受けたとして、捜査の開始を発表した。捜査対象は、日本の「ユニクロ」、スペインの「ZARA」、フランスの「SMCP」、米国の「スケッチャーズ」である。
 このように、「新疆綿を使用停止」と言えば中国市場で激しい抵抗にあい、「新疆綿を使用」すると西側先進国から告発される。
 まさに、世界市場は分断されているのだ。

3.自国経済に影響のない制裁を行う

 他国を経済制裁する時には、自国の被害を最小限度に抑える。中国製品を全面的に禁輸にすれば、たちまち経済が混乱する国は少なくない。
 米中両国は厳しく対立しているが、この4月には両国の貿易額は397億ドル(約4兆2600億円)となり、前月比43%近く増加した。中国は米国の貿易相手国としてメキシコ、カナダを抜いて最大となった。この貿易額急増は、中国が米国からの農産物などの輸入急拡大を約束した貿易合意が1月に調印されたのを受けたものだ。つまり、米中は対立しながら、貿易を続けているのである。
 今回の新疆綿問題も、あくまで新疆ウイグル地区の綿花を使った綿製品やトマトに限定している。米国は新疆綿製品を輸入禁止にしており、その米国に輸入禁止製品を輸出すれば税関で止められるのは当然である。
 また、米国は綿産国であり、中国の綿花に依存していない。新疆綿の製品を輸入禁止にすれば、むしろ米国産の綿花の需要が拡大するだろう。
 ウイグル地区で生産している太陽光パネルの原料については触れないし、刑務所等の強制労働で生産されているイルミネーション用LED電球についてもノータッチだ。これらの製品は代替えが効かないから、目をつぶっているのだ。
 EU諸国は、トルコやインドからの綿製品が主流なので、こちらも新疆綿の輸入禁止は問題ない。
 うがった見方をすれば、新疆綿を使った綿製品の制限は、中国だけでなく日本経済に対してもダメージを与えたいということかもしれない。米国もEUも日本経済を弱体化させたいのだから。
 
4.米国、中国共に日本経済を敵視している

 最早、世界中の国々が自由に貿易できるというグローバル時代は終了してしまった。
 中国はビジネス戦や貿易戦も想定した「超限戦」を展開している。それを証明したのが、マスクや防護服の輸出禁止だった。
 そもそも日本企業は中国政府や中国企業に踊らされてきた。中国ビジネスは儲かると信じさせたが、実態は様々な障壁や法律の壁が存在し、儲けられない構造なのだ。最終的に生産設備とノウハウを全て中国企業に渡し、撤退した企業も多いし、日本国内のビジネスで蓄えた資産を中国で失った企業も多い。
 米国のトランプ元大統領は、「アメリカファースト」を掲げたが、それ以前も、常に米国は日本経済を制限し、打撃を与えてきた。終戦後、日本は独自の飛行機開発を禁じられ、高額な米国製の兵器を売りつけられた。
 繊維、家電、半導体、自動車等で日米貿易摩擦を起こし、米国の双子の赤字を解消するために、円高ドル安に誘導された。
 それでも、常に日本は米国債を買い続け、ドルを大量に蓄えてきた。最終的には、日本経済の強みだった「終身雇用」や「年功序列」「護送船団方式」「株の持ち合い」等に対して、次々とルール変更を強制してきたのである。

5.世界第三位の国の生き方 

 それでも、日本は世界第三位の経済大国の地位を保っている。次々と主役となる産業が変化し、製造拠点は海外に移転したが、特殊な素材や部品、加工技術を維持することで、グローバルサプライチェーンの中で確固とした位置を占めることができている。
 一位の米国と二位の中国は覇権を争っている。どちらの国も日本を見方につけたいはずだ。そして、三位の日本は安全保証では米国に、経済では中国に依存している。このバランスの中で我々は生きているのである。
 これまで三カ国のバランスは比較的安定していたが、中国が自信をつけ、正面から米国に対抗するようになって、関係が壊れてしまった。
 現在の状況はある意味で戦争状態であり、これまでの平時モードでは対応できない。常に周囲の状況を見ながら、変化に対応し、駆け引きしなければならない。
 その意味で、ユニクロはあまりにも無警戒だった。無邪気にも中国の綿製品を米国に輸出したのだから。
 ユニクロは中国生産に大きく依存している。そして、中国・韓国・日本市場、米国市場、欧州市場にも進出している。今後は、グローバルサプライチェーンではなく、欧米とアジアにそれぞれのサプライチェーンを構築する必要があるかもしれない。
 とりあえず、綿花~紡績~織布のオペレーションの組み替えも必要だが、日本の綿紡績との連携により解決できるのではないか。
 ASEAN、インドは、生産国と市場の双方で重要になっていく。脱中国を図りながら、更なる成長を期待したい。

*有料メルマガj-fashion journal(502)を紹介しています。本論文は、2021.7.5に配信されたものです。リアルタイムでの講読をご希望の方は、http://www.mag2.com/m/0001355612.htmlよりお申し込みください。  
 

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