My Photo

お知らせ

無料ブログはココログ

« 地域社会に貢献する商業を目指そう j-fashion journal(547) | Main | 「3Dプリンターの家」による新しいライフスタイル j-fashion journal(549) »

April 16, 2024

「カナ刺し」のすすめ j-fashion journal(548)

1.刺し子とは?

 刺し子(さしこ)とは、二枚の布を重ねて、太い糸で全体を埋めつくすようにステッチする技法で、保温、補強、硬化等を目的にしたもの。
 江戸時代の火消し装束、手刺しの胴衣等では、ステッチ糸を引き締めることで、布に細かな凹凸のしぼを作り、厚みを出し、強度と硬度を増し、身体を保護する機能を高める。また、刺し子によるしぼが空気を含み、保温性も高まる。これが本来の刺し子の特徴である。
 現在は、刺し子に似せた「刺し子織」を「刺し子」と呼んでいる。刺し子織は、糸を引き締めることができないので、平らな生地に仕上がる。
 刺し子織が一般化したため、本来の刺し子が持つ、複数の生地を強く縫い合わせ、引き締め、生地を凹凸にすることは忘れられている。
 複数の布を重ねるので、藍染めの無地の布を表に使い、裏布に捺染の生地や縞の生地を使うこともできる。あるいは、表は綿で裏に絹、あるいは麻を使うことも可能だ。そう考えると、刺し子とは複合テキスタイルを作る技法であり、刺し子生地と言っていいのかもしれない。
 刺し子の糸は、織物を構成する糸と考えることもできる。多重組織の織機がない時代には、布の強度を増すために、タテヨコに太い糸を手で刺した。
 手芸の刺し子は、刺繍の一つのジャンルとなっている。伝統的な幾何柄を、装飾的に表現する技法だ。そのため、刺し子の風合いとか強度に関係なく、幾何学的な美しさを重視する。
 最近、刺し子の技法でオリジナル作品を創作するクリエイターも出てきた。工業製品である服やスニーカーに手で刺し子をすることで、手作業の痕跡を残し、手のぬくもりを表現している。更には、不規則で揺らぎのあるステッチが、何とも言えない独特の表情を見せている。

2.カタカナは古代文字が由来?

 私も、自分のシャツの衿とポケットのフラップに刺し子をしてみた。3ミリ程度の間隔に二本取りの糸を刺してみると、たちまち手作りの表情が出てきた。
 もっと面白い表現はないだろうか、と考え、カタカナを刺すことを思いついた。
 カタカナは、外来語や読み仮名に使われることが多い文字。カタカナの由来は、漢字の部首とされているが、個人的にはこの説には無理があると思っている。
 最近の研究では、縄文時代には世界最古の高度な文明が存在した可能性が指摘されている。以前は、縄文時代は狩猟採取が主で、弥生時代に稲作が大陸から伝来したと言われていたが、実は縄文時代から大規模な稲作が行われていた。
 遺伝子分析からも日本人の遺伝子は、中国や朝鮮に由来するものでない独自のものであることが明らかになった。
 また、ペトログラフ(古代人が岩石に刻んだ文字や文様で原初文字とも言われる)は世界各地で発見されているが、日本でも多くのペトログラフが発見されている。少なくとも6,500年前には、文字を使う人々が日本列島に存在していたことが明らかになっている。それが事実なら、縄文時代には文字がなかったという説も疑わしい。
 伊勢神宮の神宮文庫に収められている奉納文は神代文字で書かれている。宮司によると「太古日本の神々は外来の宗教と外来の文字を嫌われたので、神前への奉納文は神々の好まれる神代文字で書かれるのが慣例だった」とか。神代文字には、いくつかの書体があるが、稗田阿礼、後醍醐天皇の奉納文は短い直線で構成されたもので、カタカナの形状に近い。
 ということで個人的には、カタカナは神代文字から発展した日本独自の文字であり、漢字より古いのではないか、と考えている。
 カタカナは短い直線で構成されている。刺繍で刺すのにも適した形状だ。
 
3.カナ刺しをやってみた
 
 そこで、実際にカタカナの文字をシャツのカフスに刺すことにした。カタカナで書かれた詩で最も有名なのは、宮沢賢治の「雨ニモマケズ」だろう。漢字部分もカタカナにして、刺していく。糸は一本取りで直線を一画とする。ヒは三画、ムも三画とする。
 下書きもせずに、直接布地にカタカナを刺していく。これが意外と難しい。思った箇所に針を刺し、思った箇所に針を出すという単純なことだが、1ミリ外れただけで文字が壊れてしまう。文字が読めなくても、それが味だということにして、とにかく刺す。
 カタカナはタテヨコだけでなく、斜めの線も加わるために、全体に見ると不規則でバラバラに見える。しかし、カタカナを知っている人間ならば、いくつかのカタカナが浮かんで見えるに違いない。そして、意味を追いかけていく。
 シャツのカフスに「雨ニモマケズ」を刺しただけで、そのシャツが特別なものに思えるから不思議だ。意味を持たない服に意味が付加される。
 別のシャツの前立てには、長唄「松の緑」の歌詞を全てカタカナで刺してみた。松の緑はめでたい曲とされているが、厳格な松のイメージと華やかな花魁のイメージが重ねられた洒落た曲である。その歌詞がシャツに付加されただけで、日本の伝統文化を身につけているように感じるから不思議だ。
 この気持ちは、幾何学的な刺繍文様では感じられない。文章には意味があり、イメージがある。カタカナそのものは幾何学的な文字だ、それが並ぶことで心情が表現される。
 私は勝手に、カタカナ刺しを「カナ刺し」と名付けることにした。
 
 
4.言霊を刺すカナ刺し

 小さな縫い目が集まることで、そこに刺した人の気持ちがこもる。ある意味で、呪術的な効果が生れる。
 戦争中、出生する兵士に「千人針」をお守りとして持たせた。千人針とは、家族が道行く人に針と赤い糸を渡し、玉留めを千個作ってもらうもの。
 玉留めは「弾を止める」、返し縫いは「無事に帰る」の意味がそれぞれ込められている。赤は神社の鳥居の色、破邪の色でもある。
 カナ刺しは、柄を刺すのではなく、文字を刺す。言葉を刺し、意味を刺す。一文字一文字を手で刺すところに意味がある。
 日本には「言霊」という信仰があった。 古代日本人は言葉に宿る霊力が,言語表現の内容を現実に実現すると信じていた。
 不思議なことに、戦後の進駐軍も言霊の力を抑えるためにいくつかの漢字を改定している。有名なのは、「気」という文字で、旧字は「〆」が「米」であった。米は四方八方に気を発散する意味があるが、それを気の発散を抑えるために「〆」に変えたのだ。
 それほど文字の力を信じていたのならば、日本古来の神代文字に由来するカタカナの使用も制限したかもしれない。現在、カタカナが外来語とヨミガナ程度しか使われていないのは、逆にカタカナが強い力を秘めている証ではないか、とも思える。
 我田引水ではあるが、カタカナを一針一針刺すという行為が強い言霊につながるのではないか。
 それほど強い力を持つのであれば、どんな言葉を刺すのかが重要になる。特に、自分が身につける服に刺すのであれば尚更だ。
 カナ刺しの楽しみの一つには、どんな文章を選ぶのかを探すことだ。
 万葉集や古今和歌集の歌を選ぶか。平家物語や方丈記を選ぶか。長唄や小唄から選ぶか。あるいは、好きな歌謡曲、J-POPの歌詞を選ぶか。勿論、自分の創作文章を刺すのもいい。
 刺す文章によって、刺された布、服の意味が変わってくる。命が吹き込まれるとも言える。カナ刺しとは、言霊を吹き込む行為なのかもしれない。

*有料メルマガj-fashion journal(548)を紹介しています。本論文は、2022.5.23に配信されたものです。リアルタイムでの講読をご希望の方は、http://www.mag2.com/m/0001355612.htmlよりお申し込みください。  

« 地域社会に貢献する商業を目指そう j-fashion journal(547) | Main | 「3Dプリンターの家」による新しいライフスタイル j-fashion journal(549) »

ファッションビジネス」カテゴリの記事

Comments

Post a comment

Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.

(Not displayed with comment.)

« 地域社会に貢献する商業を目指そう j-fashion journal(547) | Main | 「3Dプリンターの家」による新しいライフスタイル j-fashion journal(549) »