縫製工場からアパレルメーカーへの転換 j-fashion journal(510)
1.縫製工場はOEMメーカーか?
現在、日本の縫製工場の多くはアパレルメーカーとは言えません。アパレルメーカーとは、生地や付属を仕入れ、それをアパレル製品に加工して販売する業態です。縫製工場は生地を仕入れていないし、アパレル製品の企画(デザイン、パターンメーキング、サンプル作成)も行っていません。営業や販売も行っていません。
それなら、OEMメーカー(相手先ブランド商品の生産を請け負う業態)でしょうか。中国等でOEMメーカーと呼ばれているのは、サンプルを自社で作り、それを展示会等でブランド企業に提案し、受注生産する業態です。この業態は日本ではODMと呼ばれており、OEMとは区別されています。
しかし,日本の布帛の縫製工場は加工賃を受けとる加工業です。もし、生地を仕入れて、製品に加工し、製品を販売する業態であれば、OEMメーカーと呼ぶことができます。その意味では、生地を自社で仕入れるカットソー工場、糸を自社で仕入れるニッターはOEMメーカーと呼ぶことができます。しかし、布帛の縫製工場は厳密に言えば、OEMメーカーではありません。
したがって、現在の布帛の縫製工場がアパレルメーカーになるには、まずOEMメーカーになり、次にODMメーカーになり、最終的にアパレルメーカーになるというステップが必要になります。
2.テキスタイル調達でOEMメーカーに
縫製加工業からOEMメーカーへと脱皮するには、素材と付属の仕入れが条件になります。素材と付属を指定されたとしても、自社で仕入れると、在庫管理、原価管理の業務が発生し、更には、先に仕入れが発生するので資金繰りも考えなければなりません。つまり、資金力が問われるということです。
縫製加工の仕事なら、設備を揃え、技術を磨けば、資金力がなくても高額な商品にも対応できます。しかし、自社で高額な生地を仕入れるには資金力が必要なのです。
必然的に取り扱い商品の絞り込みも必要です。様ざまな素材を駆使した製品を作るには、それだけの資金と生地の在庫負担、そして、仕入れ先管理や在庫管理という業務も発生するからです。
OEMメーカーを経営するには、素材の絞り込み、仕入れ先の絞り込みにより、仕入れの太いパイプを作ることが重要です。逆に、販売先はある程度拡大しておかないと、リスクヘッジができません。
縫製加工ならば、その反対に得意先を絞り込んで太いパイプを構築しないと仕事が途切れてしまいます。それには、どんな素材でもデザインでも縫いこなす技術力と対応力が問われます。
つまり、縫製加工業とOEMメーカーとは経営に対する姿勢が全く異なります。
したがって、これまで技術力を訴求してきた縫製加工業はOEMメーカーに転身するのは非常に困難です。もし、許されるならば、縫製加工業として生き抜く方が有利です。しかし、肝心の得意先が淘汰されてしまえば、それで仕事が終わってしまうリスクも高いといえます。
3.ODMはサンプルを提示する
ODMメーカーになると、小売店と取引が可能になります。アパレル卸に納品するより、利益率は高くなります。
その代わり、自社が企画機能を持ち、得意先にサンプルを提示しなければなりません。言われた通りに縫製する商売から、売れる商品を提案する商売への転換です。
「売れる商品とは何か」を考えることで、トレンド情報や店頭情報の収集や分析を意識するようになります。縫製加工業であれば、何が売れるかを考える必要もないし、トレンドを意識することもありません。
ODMメーカーとして実績を積むことは、何が売れるかを把握することです。ここまで来れば、「ファクトリーブランド」を売り出すことを考えられます。
ODMメーカーはサンプルを提案するが、基本的には工場です。工場の利益は設備の稼働率と人員の効率によって生み出されます。工場を回すためにサンプル提案をしているのです。サンプルを提案するための企画の経費は掛かるが、商品の在庫リスクを持つことはありません。
ファクトリーブランドとは、あくまで本業は縫製業であり、売上の一部をファクトリーブランドで稼ぐという発想です。
大きな工場になるほど、その生産ラインを全て自社ブランドで埋めることは不可能でしょう。
アパレルメーカーは、利益率は高いが、商品が売れなければ在庫を抱え、損失が生じます。アパレルメーカーとして自社工場の稼働率を上げることを優先すれば、間違いなく在庫過多に陥り倒産してしまうでしょう。もし、アパレルメーカーとして生きていくならば、自社工場を縮小し、生産量の変動を吸収するためにも、外部工場とも取引することになると思います。
4.業態により企画の方向性は異なる
ODMメーカーが提案するサンプルの品揃えは、ある程度、幅を持つ必要があります。得意先に幅があるからです。ヤングを顧客に持つアパレルでも、微妙に顧客層は異なるし、ブランドのテイストも異なります。フォーマルな服を求めるブランドもあれば、カジュアルな服を求めるブランドもあります。幅広い顧客に対応しなければ、縫製設備をフル稼動することはできません。
一方、自社ブランドの商品を企画生産し、販売するアパレルメーカーになると、より商品の幅を絞り込み、競合他社との差別化が求められます。
商品企画をして、サンプルを作成することに変わりはありませんが、ODMメーカーが作るサンプルと、ファクトリーブランドが作るサンプルは異なります。
更に、自社工場を持たないアパレルメーカーは、ファクトリーブランドのように、自社工場で生産できる商品、という制約もなくなります。従って、シーズンによって自由にアイテム構成を変更することができます。
5.価格競争からブランド競争へ
縫製工場が、アパレルメーカーへの転身を考えるのは、人件費の高い先進国に立地しており、価格競争力がないからです。
現在、アパレル企業の主流は小売業態です。小売店がブランドを開発し、世界中のメーカーから商品を調達しています。グローバルSPAと呼ばれる大型アパレル小売業は、人件費の低い国で生産し、人件費の高い国で販売しています。人件費の高い先進国の縫製工場から調達することはほとんどありません。
人件費の高い工場は価格競争力はありません。勝負するのは、品質、デザイン、ブランドです。大量生産ではなく、少量生産。数千人単位の大規模工場ではなく、10人単位の小規模な工場が基本になります。
先進国の工場の強みは、高額な商品を購入できる顧客が近くに存在していることです。顧客とコミュニケーションが強みとなります。
その強みを活かし、付加価値の高いビジネスをするには、OEMメーカーではなく、ODMメーカーになる必要があるし、更には、自社の強みを活かしたファクトリーブランドを展開すべきです。
これを実現するには、価格訴求ではなく、独自の魅力を直接顧客に届けなければなりません。魅力は技術だけではないし、商品だけでもありません。人の魅力も、素材の魅力も、情報発信の魅力も含まれます。全ての魅力が複合して初めて、ブランドの魅力になります。ブランドが確立してこそ、人件費の高い先進国の製造業が成立するのです。
*有料メルマガj-fashion journal(510)を紹介しています。本論文は、2021.8.30に配信されたものです。リアルタイムでの講読をご希望の方は、http://www.mag2.com/m/0001355612.htmlよりお申し込みください。
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