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July 23, 2019

アパレルM&Aの課題と対策 j-fashion journal(292)

1.在庫評価の不思議

 ファッション商品は、鮮度が命。仕入れた直後の新鮮な商品は売れやすいし、長期間店頭で売れ残った商品には魅力がない。トレンドは常に変化し、長期間見ていれば、それだけで顧客は飽きてしまう。
 ファッション商品の価値は、時間と共に劣化する。そこで、アパレル企業では、棚卸評価をする。たとえば、10000円の小売価格の商品を3000円で仕入れた場合、棚卸は3000円で計算する。しかし、売れ残った商品が半額でしか売れそうにない場合、3000円で仕入れた商品を2000円に評価しなおし、1000円は損金として計上する。販売価格5000円の商品を5掛けで卸せば、2500円となり、500円の粗利が出る。もし、3000円評価のままだと、これができない。
 もちろん、販売する前に1000円の損を出すのだから、実際には何も変わらない。しかし、利益があるうちに評価損を出しておかないと、在庫が膨らみ、新たな商品を投入することができなくなる。
 健全なアパレル企業は、常に棚卸評価をして、早めに損金を計上する。そして、鮮度の高い商品を回すことで、売り上げを確保する。顧客にとっても常に新鮮な商品が並んである店には魅力を感じるが、いつまでも売れ残りの商品を置いている店には魅力を感じない。
 ということで、アパレル企業が抱えている在庫が、どの程度の資産価値があるか調査しなければならない。場合によっては、倉庫代が掛かるだけの不良資産の可能性もある。
 帳簿をいくら洗い出しても、本当のことはわからない。商品がわかる人間が、実際に在庫を見て、評価し直すしかないのだが、その時間も確保できないのが現状である。
 
2.隠れ在庫の怪
 
 もう一つ、帳簿には表れない在庫が隠れている場合がある。たとえば、決算前に在庫が多いと、経営不振であることがばれてしまう。その場合、どのようにごまかするのか。
 最近のアパレル企業は商社経由で商品調達を行っている。在庫が膨らみ、赤字を出したくない場合、アパレル企業は商社に泣きつく。「一時的に在庫を預かってくれないだろうか」と。商社にとって、アパレル企業は得意先だ。倉庫代と金利と物流費さえ支払ってもらえば、損は発生しない。簡単に言えば、在庫隠しだ。
 縫製不良や納期遅れで商品を返品することはあるので、怪しいことではないし、帳簿上もきれいに処理される。アパレル企業は棚卸から在庫を消してしまう。しかし、実際にはアパレル所有の在庫が商社の倉庫に隠れているのである。アパレル企業をM&Aする場合、会計士が帳簿を調査しても見つからない在庫が後から出てくるのはこういうケースだ。

3.在庫を海外で販売できないか?

 帳簿に乗らない在庫や隠れ在庫があると、企業資産を正確に把握することは難しい。実態を解明したいのは、税務署も同じだ。アパレル企業は、税務署にわからないように、在庫の操作を行っており、一見して分からないのも当然だ。
 しかし、不良在庫か優良在庫かという判断は、日本市場を基準に評価したものだ。日本市場では売れない商品も、海外市場では売れるかもしれない。もし、M&Aを仕掛けるのが中国企業であれば、中国市場で在庫商品を販売することも可能だ。日本アパレル企業のブランドに魅力があれば、ゼロ評価だった在庫商品で利益を出せるかもしれない。
 
4.ゼロ評価の企業資産

 更に、帳簿に計上されていない資産もある。それは、ブランドの歴史、ストーリー、ロゴ、シンボル、雑誌の掲載記事、デザイン、パターン、ショップデザイン等の資料である。
 中国アパレルが日本アパレルをM&Aしたい理由の一つは、これらの資産なのだ。しかし、日本の経理処理では、これらの資産価値はゼロ評価である。全ては、経費で制作され、商品や副資材の在庫としては計上されるが、目に見えないブランド価値は計上されていない。
 おそらく、日本国内のM&Aであれば、通常の弁護士、会計士、コンサルタントによる評価で良いだろう。しかし、その場合でも、本当の負債が分からないので、買収は難しいとされている。海外企業が買収する場合には、更に、在庫評価を行い、海外市場で販売できるものかを判断した上で、様々なブランド資産を資産に計上して考えるならば、悪い買物ではないはずだ。

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