My Photo

お知らせ

無料ブログはココログ

« 高級テキスタイルのプロモーションショー j-fashion journal(279) | Main

July 14, 2018

ファッションで企業を救えるか? j-fashion journal(280)

1.プロダクトデザインとファッションデザインの違い

 プロダクトデザインは、未来志向のデザインが多い。勿論、その時代で感じる未来感は異なるが、常に新しさを訴求していることに違いはない。
 ファッションは常に変化を求められる。しかし、プロダクト的な新しさを追求したのでは、すぐに行き詰まってしまう。ファッションの変化はプロダクトよりはるかに早い。また、情報として消費されるのも早い。プロダクト的なアプローチでは追いつかないのだ。
 プロダクトは、常に基本形からスタートする。球、円筒、立方体や長方体、円錐などなど。また、直線的に向いたり、流線的な曲線に向いたりする。
 素材は、金属やプラスチック、セラミック、木材等々、比較的固いものを使うことが多い。
 アパレルデザインは、プロダクトデザインのようなアプローチも可能である。違いは、素材が柔らかいテキスタイル中心であることと、着用時は、人体を基本にしていることだ。

 アメリカ生れのジーンズ、Tシャツ、チノパンツ、スウェット、ワークシャツ等は、限りなくプロダクトデザインに近い。
 ファッションデザインのアプローチは、プロダクトデザインとは全く異なる。ファッションデザイナーは、服というモノをデザインしているだけではない。人物像をデザインしているのである。
 ファッションショーは、必ずモデルのオーディションを行う。そのシーズンのコレクションのテーマにより、モデル像は異なる。ある時は、肉感的でボリュームのあるモデルを選び、あるときは、筋肉質のモデルを、ある時はやせ細ったモデルを選ぶ。
 そして、ヘア&メイクもテーマに沿ったものを選ぶ。モデルというベースができて、その上に服を着せる。
 あらゆるデザイン分野の中で、最初にユーザー像を規定するのはファッションだけである。ファッションは人間をデザインしているのであり、その人間像を演出するために、服を着せているに過ぎない。
 ファッションのテーマには、特定の時代や地域が取り上げられる。かならずしも未来志向ではなく、あらゆる歴史、文化、民族からインスピレーションを得る。
 我々は、常に未来的な生き方を志向しているわけではない。自給自足の原始的な生活を志向することもあるし、科学的進歩に背を向けることもある。場合によっては、自動車や家電製品など、プロダクト製品を否定することもあるだろう。
 プロダクトデザインは、製品をデザインする。ファッションデザインは、使用者、着用者の人間像をデザインする。
 プロダクトデザインの人達は、ファッションを一段低く見ることもあるようだが、私はファッションの方が上位に位置すると考えている。モノより人の方が上位概念だと思うからだ。

2.理想の顧客像を明確に設定する

 先日、日本を代表する時計メーカーS社の不振を伝えるニュースを聞いた。
 テレビ番組の中で、若手のプロ野球選手が腕時計の自慢をしていた。決して上品とはいえない大きくて派手なデザインの時計が流行しているらしく、ある選手は200万の腕時計、別の選手は300万円。最高額の腕時計は500万円以上するものだった。それらの製品は全て海外ブランドであり、日本のS社のものは一つもなかった。
 こういう事例こそ、ファッションデザインのアプローチが必要だ。
 例えば、最も高い腕時計をするのはどんな人達だろうか。プロのスポーツ選手、ラッパー、ミュージシャン、ハリウッド俳優達ではないだろうか。彼らの多くは、カジュアルウェアを身につけている。そもそもヨーロッパのスーツに、ど派手な時計は似合わない。カジュアルウェアにアクセントのように派手で大きな時計をしているのである。
 そう考えると、コレクションでは鍛え上げた肉体のモデルを使うことになるだろう。そんな肉体派の人に似合うカジュアルウェアが基本になる。レザーやエナメル、デニム、ハイテクなスポーツ素材も似合うだろう。
 靴はスニーカー中心。スニーカーメーカーとコラボして、スタッドやビジューをつけたもの、あるいは、超ハイテクな異素材との組合せなど。
 それらに似合うど派手な時計をコレクションする。価格は100万から1000万円程度。このコレクションをS社が発表したら、世界から評価されるのではないか。
 このケースで、プロダクトデザインを変えても、それほど高い製品はできないだろう。そもそも100万円以上の腕時計なんて、時計の機能ではなく、アクセサリー的価値を評価したものだ。アクセサリーはプロダクトとはいえないだろう。それらを包括するのがファッションである。

3.ラグジュアリーというアプローチ

 「ラグジュアリー」とは「贅沢な」「豪華な」という意味だが、日本人がこれをイメージするのは難しい。
 日本の高級マンションは、3億でも5億でも、壁には塩ビの白いシートが貼られている。確かに、汚れは拭けば落ちるので合理的だ。しかし、そこに住む人の世界観が感じられない。所詮、家など仮住まい。雨露しのげればいいという考え方もある。金持ちであっても、そう考える人はいる。
 同様に、どんなに金持ちになっても、朝は目刺しとお新香と味噌汁という人もいる。
 同じ目刺しでも、選りすぐった鰯を、干物作りの名人がこだわりの塩を振って天日干しで作った目刺しを、価値ある骨董の陶器で食するのならばラグジュアリーかもしれない。しかし、健康に良いからと、スーパーで買った普通の目刺しを好む人は普通の人である。
 日本人には「普通が一番」という価値観がある。「ラグジュアリーな生活は成金趣味」と考えてしまうのだ。
 知人の日本人建築家は中国の金持ちに招かれて、住宅をデザインした時に、最も困ったのは「とにかく豪華にしてくれ」と言われることだとか。日本人の贅沢は、素材を吟味して、手間を惜しまず、丁寧に仕事をすることだ。視覚的な豪華さを求めるのではなく、禅のような高い精神性を求める。
 視覚的な派手さそのものがラグジュアリーではない。しかし、視覚的な豪華さもラグジュアリーの一つの要素である。
 ラグジュアリーというアプローチは、ファッションが得意とする分野だ。上質な素材と丁寧な仕立てだけでなく、そこに驚きや際立った魅力がなければならない。加えて、最高のサービスが不可欠である。単に、商品を入手するのではなく、商品を購入する時の体験を重要な要素である。商品の価値には、店舗空間全体から感じられる感動や、購入時の接客や試着まで、全ての体験が付加されるものだ。それをコントロールするのは、ファッションデザイナー(クリエイティブディレクター)であって、プロダクトデザイナーではない。
 ブランドをコントロールするというのは、商品だけでなく、顧客の体験全体をコントロールすることに他ならない。つまり、ブランディングこそ、ファッションが最も得意とする分野なのである。
 
4,高いプロモーション効果

 先進国では、ラグジュアリーブランド離れが進んでいる。また、ファストファッションが市場シェアを高めている。ファッション不況とも言われる状況だが、それでもファッションショーの華やかなニュースは、数多くのメディアを通じて世界を駆けめぐる。
 見本市会場で企業トップが新製品のプレゼンをしても、その製品自体に余程の魅力がない限り、大きなニュースにはならない。しかし、ファッションを活用することで大きなニュースになる。
 例えば、ヤンマーは旧来の企業イメージを刷新する「プレミアムブランドプロジェクト」の総合プロデューサーとしてクリエイティブディレクターの佐藤可士和氏を起用した。佐藤可士和氏は、ファッションデザイナー滝沢直己氏を起用し、マリンウエアと農業ウェアを発表した。
 このニュースはヤンマーという企業のニュースだけでなく、「農業ウェア」という新しい分野のファッションニュースとして配信された。もし、これが世界のファッションウイークの中でコレクションとして発表されれば、更に世界中に広まったに違いない。
 ファッションは身近で誰もが興味を持つ分野である。一般の消費者から距離がある企業イメージを上げるには、ファッションを通じて一般消費者に企業イメージを植えつけることが効果的だと思う。
 デザイナーがアパレル製品を生産販売するというビジネスモデルにおいて、ファッションショーは全く採算が合わない。ライセンスビジネスの比重が大きくなれば、広告宣伝費としてファッションショーを行うのも良い。しかし、現在の日本のデザイナーアパレル市場を見る限り、大きな売上の拡大も見込めない。
 もし、デザイナーが企業イメージ刷新のために、ファッションの力を活用し、同時に、自分のコレクションを発表するというのであればニーズはある。
 私は、ここに新たなファッションビジネスのチャンスが存在していると思う。

*有料メルマガj-fashion journal(280)を紹介しています。本論文は、2017.4.3に配信されたものです。リアルタイムでの講読をご希望の方は、http://www.mag2.com/m/0001355612.htmlよりお申し込みください。

« 高級テキスタイルのプロモーションショー j-fashion journal(279) | Main

「ファッションビジネス」カテゴリの記事

Comments

Post a comment

Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.

(Not displayed with comment.)

« 高級テキスタイルのプロモーションショー j-fashion journal(279) | Main