ICTを活用した職業教育 j-fashion journal(236)
1.現実と乖離する教育機関
現在、あらゆる分野でインターネット、デジタル技術による変革が始まっている。勿論、教育分野も同様だ。
最近、既存の教育機関があまりにも現実と乖離していると感じる。そもそも教育機関の存在意義は、卒業後、学生が社会人としてより良い生活ができることにある。
より良い生活と言っても、経済的により良いだけではない。精神的な満足も含まれているのは確かだ。しかし、職業教育をうたうのであれば、経済的要素は欠かせない。
精神的な満足をうたう場合でも、検証が必要だ。時代によって精神的満足も変わっていく。
教育機関は商品をつくったり、販売するのではない。その分、時代の変化に対応するべきだと思う。
費用対効果の問題も重要だ。果たして、現在の教育機関は授業料に見合う価値を学生に提供しているのか。既に時代遅れとなった理論や事例を学生に紹介することは、存在価値がないどころか、マイナスに作用しているかもしれない。
不思議なことに、こうした学校への批判を聞くことは少ない。多分、「学校と社会は分離していい。独立した存在でいい」という認識が強いのかもしれない。学校は学校の勉強を教え、会社に入ってから社会人として必要なことを覚えればいい、という考え方だ。
こうした考え方は既に定着している。みんな同様の問題を抱えているのだから、それについて批判しても仕方がない。
結果的に、社会人になれば、今度は会社が関心の中心になる。卒業した学校を批判しても、それは自分のキャリアに泥を塗ることにはなる。そんな考え方が、教育機関への批判を抑えている。
批判されず、内容の検証が行われない教育機関や教育者は時代の変化に対応する必要もない。結果的に、迷惑を被るのは学生本人である。
2.既存の学校の問題点
既存の学校の問題点を具体的に整理してみよう。
第一に、コストが高い。
なぜか、教育費は競争原理が働かない。そもそも文科省は教育機関の競争を望んでいない。行政はサプライヤーを保護する機関であり、消費者の利益を目指すものではない。教育も同様で、学校を保護することが目的であり、学生の生活レベルを上げることを目的としていない。
デジタル技術、インターネットを使えば、学校のコストは劇的に下がる。まず、学校という器が必要なくなる。また、ネット教材を活用することで、教職員の人件費削減ができる。
年間80万~100万という授業料であれば、半額以下になるだろう。しかも、現実のビジネスに対応した一流の講師を揃えることができるはずだ。
こういう議論をすると、教師から「優秀なビジネスパーソンが必ずしも優秀な教育者であるとは限らない」という反論が出てくる。しかし、教え方が巧くても、内容がなければ何もならない。教え方が下手でも、内容があれば、学生にとってはプラスだ。更にいえば教え方はトレーニングすることができる。しかし、元々知識や経験がない者はトレーニングができない。
第二の問題点は、まとまった時間を長期間拘束されることである。
学校に行っている間は、他のことができない。もっと役に立つことを勉強しようと思っても、意味のない課題に追われてしまう。生活費を稼ぐためのアルバイトをする時間もない。
もし、好きな時間、細切れの時間でも講義が受けられば、他のことに時間を配分することができる。
これもインターネットを活用することで解決する。
第三の問題点は、現実のビジネスと乖離したコンテンツであること。
時代と共にビジネス環境が激しく変化する時代では、紙媒体の教科書は変化に対応できない。ファッションビジネスであれば、今朝の新聞を教材にして講義をするべきだろう。3年も5年も決まった教科書を使っていること自体が変化に対応できないないことを証明している。動画や画像を主体にした電子教材であれば、変化に対応することができるはずだ。
一般の学校で教えることは、講師にとっても時間のロスにつながる。オンラインの授業ならば、一度教材をつくれば、ビジネスの最前線では働く人達の講義を受けることも不可能ではない。
第四の問題点は、就職とつながっていないことだ。
産業が変わり、職種が変わっているのに、教育が変わっていない。デザイナーの就職がないのにデザイナーの教育をして、結果的に販売員で就職する。そうしたファッション専門学校の現状は、学校の存在意義そのものを問い直さなければならない。
3.こんな学校はできないか?
ここでインターネット、デジタル技術を基本にした学校を考えてみたい。
第一に、学費は低く設定したい。Wスクールを可能にするため、月1万円程度とする。
第二に、授業の内容は、実務に則したものとする。
例えば、「ディレクター養成コース」として、以下のような流れはどうだろう。
まず、グローバルトレンド情報のセミナーを受講する。分からない言葉は自分で調べる。あるいは、講師に質問する。
その情報を基に、ブランドコンセプトを決定する。ここでは、プロの講師により、現在の市場を基本に市場性をチェックする。ビジネスとして成立するもの。企業に売り込めることが重要なポイントとなる。
次に、コレクショントレンドセミナーを受講する。ここでは、テーマ、カラー、テキスタイル、シルエット、ディティール、雑貨アクセサリー等の解説を受ける。
その上で、自社ブランドのシーズンテーマを設定。用意されているデザイン&パターンとテキスタイルを組み合わせ、3D画像を作成。これをスライドにまとめ、プレゼンテーションする。
ここでは、プロのバイヤー等が審査する。商品よりも、ブランドコンセプト、ブランドストーリーを重視する。
この授業を成立させるには、市場調査、コレクショントレンド分析等を業務とするコンサルタント。パターンメーキング会社。パターンCADメーカー。テキスタイルコンバーター等の協力が必要になる。
講師は実務経験者。基本的にネット上で講義をするので、それほど時間の制約は受けない。
上記の他に、「コレクション制作コース」「バイヤー養成コース」「モデリスト養成基本コース」「モデリスト養成上級コース」等が考えられる。
これをどうすれば実現できるか、考えてみたい。
*有料メルマガj-fashion journal(236)を紹介しています。本論文は、2016.5.30に配信されたものです。リアルタイムでの講読をご希望の方は、http://www.mag2.com/m/0001355612.htmlよりお申し込みください。
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