クリエイティブディレクターという仕事 j-fashion journal(230)
1.デザイナーとクリエイティブディレクターの違い
職種は、ビジネスモデルによって変化する。ファッションデザイナーも同様だ。オートクチュールの時は、クチュリエ、クチュリエールと呼ばれた。全ての服づくりの技術をマスターし、メゾンを構える、仕立て工房の親方である。
既製服の時代になり、クチュリエはスティリスト(デザイナー)とモデリスト(パターンメーカー、パターンナー)に分業する。
更に、グローバルな多店舗化が進むにつれ、マーケティング、プロモーション、ショップデザイン等が重要になった。ラグジュアリーブランドでは、香水や時計、アクセサリー、服飾雑貨等のライセンスビジネスが拡大し、ライセンシーに対するディレクションやアプルーバルの業務が発生する。事業モデルが高度化、複雑化するにつれ、全てのクリエイティブな要素をコントロールする職種が必要になった。
アパレル商品、コーディネートする雑貨等の企画のみならず、マーケティング、プロモーション、ショップデザイン、ライセンシー企業への企画ディレクション等の業務が発生したのだ。同一ブランドで展開する以上、イメージの統一が必要になる。
勿論、全ての業務を一人で行うわけではない。それぞれには、専門のデザイナーが存在するが、それらを統括し、方向性を示すディレクターが必要になった。
それがクリエイティブディレクター、ディレクターアーティスティック等と呼ばれる職種である。
日本では、クリエイティブディレクターという概念がないままに、既存の組織と職種で対応しようとしている。そのため、時代の変化に対応できない、とも言えるだろう。
2.クリエイティブディレクターの発想
クリエイティブディレクターは、ビジネスそのものをクリエイトする。これまでにない商品分類、これまでにない概念、これまでにないテーマを設定し、新しいビジネスとデザインを同時に発想する。
パリのプレタポルテメゾンでデザイナー、クリエイティブディレクターを務め、パリで個人ブランドも展開していた私の友人T氏は、こうした時代の変化を敏感に捉えている。
T氏は、通常のデザイナーが行っているトータルコーディネートのブランドではなく、アイテムや着用シーンを絞った、より専門的なコレクションからスタートすることを提案している。
例えば、タオルのコレクションからスタートして、入浴の前後に着用するインティメイトのコレクションへと広げていく。
あるいは、旅行シーンのバッグとポケッタブルコートからスタートして、旅行先のリゾートファッションに広げていく。
T氏は、アパレル以外のメーカーの商品のイメージアップとブランディングのために、アパレルのコレクションを活用するという発想も持っている。イタリアのバッグメーカーが、アパレルのコレクションを発表することにより、バッグのブランディングをより強固にする戦略と同様だ。
3.ファッションを活用したブランディング
今治タオルブランドをプロデュースし、産地組合を一気に黒字に転換させたのはグラフィックデザイナーの佐藤可士和氏である。佐藤氏は、グラフィックデザインの領域に留まらず、今治タオルのブランディング及びクリエイティブディレクターの仕事をしている。
佐藤氏は、グラフィックデザインを軸にコーポレートアイデンティティそのものを再構築し、プロデュースした。いわば、グラフィックを軸としたクリエイティブディレクションを行っているのである。グラフィックから始まり、ショップ、パッケージ等、空間とプロモーションを軸にブランディングを展開している。
それに対し、ファッションを軸にクリエイティブディレクションとはどんなものだろうか。
ファッションを軸にするという場合、二つのケースが考えられる。
一つは、モノ作りを軸としたブランディングである。グラフィックの場合、広告や店頭演出が軸になるが、ファッションは、素材、カラー、仕様等、商品を構成する要素そのものから発想することができる。それにより、商品開発を軸にしたブランディングのアプローチが可能になる。
二つ目は、ライフスタイルを軸にしたブランディングである。例えば、ジェットセッターと呼ばれる、自家用飛行機で世界中を移動するセレブに絞ったファッションを提案すること。
ファッションを軸にするメリットは、ステイタスを演出できることだろう。グラフィックを軸にする場合、コモディティに近い方が得意かもしれない。
例えば、コモディティ商品のメーカーがラグジュアリー市場に参入したい場合は、グラフィックよりもファッションの切り口が重要になる。
シャンプーやティッシュなどのコモディティ商品を展開する企業が、企業アイデンティティ、企業イメージを上げたいのであれば、超高級なシャンプーやティッシュを展開すると共に、その価値観を具現化したファッションのコレクションを発表するという手段もある。
スキンケアを重視し、余計なメイクを排除する。スッピンに近いモデルがシンプルなドレスやバッグ、靴を身につけ、ランウェイを歩く。その情報は世界のファッションメディアで取り上げられるのではないか。それにより、強力なブランドイメージが訴求できるはずである。
4.クリエイティブディレクター活用によるグローバルな市場展開
日本には多くの優れた技術、製品が存在する。しかし、それらをグローバル市場で展開し、成功する事例は少ない。技術はあるが、世界のラグジュアリーな人々の価値観やライフスタイルを理解できず、どのように訴求して良いのか分からないのだ。結局、優れた品質や素材を訴求することに終始してしまう。外国人も日本の素材や技術が優れているのは分かっている。知りたいのは、「その素材や技術を使えば、どのような豊かなライフスタイルが実現できるか」という提案である。
例えば、西陣の金襴生地、友禅、お召しなどを欧州に売りたければ、どんな製品に加工すればいいのか。どんな色や柄が好ましいのかをディレクションできれば、これまで以上の成果が期待できるだろう。
これまでは、単純に過去のアーカイブを展示し、技術を訴求するだけ、というケースが多かった。あくまで技術のプレゼンテーションであり、製品のプレゼンテーションではなかったのだ。
それができないのは、クリエイティブディレクターが不在だったからである。ドメスティックな技術、素材、商品をグローバルに展開したいのであれば、グローバルな市場を熟知したクリエイティブディレクターを起用するのが早道だろう。
*有料メルマガj-fashion journal(230)を紹介しています。本論文は、2016.4.18に配信されたものです。リアルタイムでの講読をご希望の方は、http://www.mag2.com/m/0001355612.htmlよりお申し込みください。
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