ブランディングを軸とした商品企画手法 j-fashion journal(224)
1.マーケティングとブランディング
「マーケティング」は、「大量生産した商品をいかに販売するか」という課題から生まれた。初期のマーケティングは、広告宣伝が中心だった。「どんな広告をすれば、競合商品と差別化できるか」という視点である。
その後、チェーンストア理論が確立し、規格化された店舗を多店舗展開することが、マーケティングの主流になっていった。
やがて、需給バランスが逆転し、「作れば売れる時代」から、「売れるものを作る時代」へと変わった。この時点で、「マーケティングは市場調査」と理解されるようになった。市場調査で顧客ニーズを確認し、それに見合った商品を企画生産するという考え方である。
しかし、市場調査を基本にした企画生産では「商品の同質化」に陥ることが多い。同じ情報から生まれる商品は同じような商品になるからだ。
差別化が必要になると、「ブランディング」という考え方が登場してきた。ブランディングは、大量生産ではなく、限定された顧客に限定された商品を供給するビジネスモデルからスタートしている。大量生産大量販売がアメリカ型ビジネスモデルだとすれば、ヨーロッパ型ビジネスモデルと言ってもいいだろう。
やがて、ファッションビジネスでは、この二つの考え方が融合し、世界市場の中で、付加価値の高い商品を一定以上の数量で販売するというマーケティング手法が採用されるようになった。
マーケティングとブランディングは、ある意味で対立する概念であり、これらを融合することは容易ではない。
2.単品企画と商品群の企画
モノ不足の時代は、作れば売れる時代であり、メーカーが有利だった。積極的に設備投資を行い、原材料と労働者を確保すれば、急激に成長した。この時代は、商品のバリエーションを増やせば売上は伸びた。様々なブランドの商品を買い集め、それをコピーすることで利益は約束されたのだ。
モノ余りの時代になり、商品の同質化と価格競争が激しくなると、メーカーは急激に売上、利益を落とすようになった。
顧客は、単品を探すのではなく、ショップを含めたブランドのイメージで商品を選ぶようになった。専業メーカーが提供する大量生産の安価な商品より、ファッション雑誌等で紹介されるブランドイメージの方に惹かれたのだ。
単品の企画であれば、単品のバリエーションを考えれば良いが、ブランディングと連動した商品企画では統一感が重要になる。バリエーションを広げるのではなく、イメージを絞り込むこと。ブランドコンセプトに合わなければ、どんなに売れると分かっていても作らないという信念が必要である。
例えば、バッグの専業メーカーは、メンズもレディスも子供向けも、フォーマルもカジュアルもリゾートのシーンもあらゆる商品バリエーションを展開するだろう。しかし、それでは、単なる単品売場にしかならない。
バッグメーカーが、ファッションショーを作ることで、イメージは先鋭的に絞り込まれる。どんなイメージのモデルを選ぶのか?どんな音楽を選ぶのか?そして、どんな商品を並べるのか?バリエーションを広げるのではなく、イメージを絞り込み、そのバランスを調整しなければならない。
その意味では、MD的な発想が重要になる。例えば、テキスタイルのバランスをどうするか。天然素材と合繊の割合は?無地とプリント、ジャカードとの割合は?カラーの割合は?そうしたバランスの中で、むしろディティールは、イメージやテーマを絞らなければならない。
ファッションショーは単品を見せるものではない。スタイリングを見せるものであり、複数のモデルが一つのシーンを構成し、その商品群で訴求するものである。この考え方は、ショップの構成にも通じる。売れそうだからと言って、脈絡のないデザインの商品を展開したのでは、明確なブランドイメージが訴求できない。
3.独自のルール設定と企画マニュアル
ブランドイメージを構成するのは、商品群やショップ等のトータルなイメージ訴求だけでない。顧客はディティールにこそ、こだわりを感じる。
ブランドアイデンティティを表現するパーツは、通常の装飾的なデザイン要素と区別されなければならない。例えば、織りネームを直接裏地にたたき付けるのと、身頃の生地の上で織りネームをたたき、それを裏地にたたき付けるのとでは、イメージが異なる。あるいは、織りネームを直線縫いミシンで付けるのと、千鳥ミシンで付けるのもイメージが異なる。
また、ボタンは機能的なパーツであると同時に、ブランドイメージを表現するパーツにもなる。オーソドックスなジャケットやコート、ベーシックなシャツ等のボタンはブランド名を彫刻するのも良いだろう。
これらのブランドを表現するディティールに関しては、全てドキュメント化、見える化して、ブランドデザインマニュアルとして整備することが望まれる。
4.ブランドコンセプトとショップ空間演出
ブランドを表現する要素として、最も重要なのはショップ空間である。商品は変化していくが、ショップはある程度の長期間使い続けなければならない。同じ商品でも、ショップ空間によって、高級にも見えるし、安っぽくも見える。
例えば、中国の店頭には、商品を着用したモデルのポスターが掛かっていることが多い。しかし、私はこのポスターが安物の象徴のように見えて仕方がない。ラグジュアリーブランドで店内にポスターを貼っているショップはない。ポスターを貼るのは、チープな環境をごまかすためである。街中に掲示するのは良いが店内に貼るのは意味が異なるのではないか。
ブランドコンセプトが固まらないと、ストアデザインはできない。漠然とした売場空間が提示されるだけで、顧客を特定の気分に誘導するという戦略的目的は果たせないのである。
ブランディングを軸とした商品企画とは、売れ筋を追いかけることではない。売れる単品を集積したとしてけも、ブランドイメージを訴求することはできない。
*有料メルマガj-fashion journal(224)を紹介しています。本論文は、2016.2.29に配信されたものです。リアルタイムでの講読をご希望の方は、http://www.mag2.com/m/0001355612.htmlよりお申し込みください。
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