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April 17, 2015

一張羅の美学 j-fashion journal(136)

1.スタイルのあるインテリアのように

 欧米は階層社会である。社会的階層によって、住宅の立地、大きさ、インテリアのスタイルが決まっている。家具の素材や食器のブランドは、一度決めたら崩さない。皿が壊れれば、同じ柄の皿を買い求める。デザインをコロコロと変えることはないのだ。
 階層社会において、個人の嗜好で商品を選ぶ範囲は狭い。欧米の若者が日本の原宿ファッションを見て、「個人が自由にファッションを楽しんでいる」と感動するのは、こうした社会の違いによるものだ。
 日本も格差が拡大し、階層化が進んでいると言われるが、まだまだ欧米ほどではない。インテリア、ファッションなど、あらゆる商品が個人の嗜好で選ばれている。そういう意味では、ファッションを含め、あらゆる生活関連商品が社会的ステイタスと切り離された「雑貨化」していると言えるかもしれない。
 私自身、若い時は自由なファッションが大好きだった。他人から見て突飛な格好でも気にしなかったし、ファッションは自己表現の手段と認識していた。

 しかし、50代も後半に近づくと、次第に変化が生じる。特に、現在のように、ファストファッション全盛で、ベーシックアイテムが市場から姿を消すようになると、アンチファッションの気持ちがムクムクと沸き上がってくる。
 最近、「ノームコア」というキーワードが出てきた。ノームコアとは、「ノーマル」と「ハードコア」の造語であり、「あえて極端に普通の」のような意味だ。
 「ファッショントレンドに乗らないことが新しい」という気分が、トレンド最先端の世界でも出ているのは面白い。
 しかし、私はトレンドとしての「普通の服」を着たいのではない。「使い捨てではなく、一つの商品をいかに長く使うか」という生き方に興味があるのだ。
  
2.江戸時代の服は高かった

 江戸末期の資料によると、新品の木綿のきものでも1両はしたという。1両を現在の価値に換算すると10万円程度。江戸時代末期は激しいインフレが起きているので、この換算が妥当かは分からないが、少なくとも安い商品でなかった。
 歴史的に見ても、最も劇的に価格が下がったのは衣料品だろうう。機械化が進んだ巨大な綿花のプランテーション、最新鋭の紡績機械、合成繊維の発明、高速で織物を作り出す革新織機等々により、極度に合理化と低価格化が進んだ。元々は、糸を作る段階から、織り、染め、仕立ての全てが手作業だっただけに、この変化は大きい。
 江戸時代の日本は、農民比率が約8割とされている。つまり、日本人の大多数は農民だったのだ。彼らは、どんな衣服を着ていたのだろうか。
 素材はほとんどが藍染めの木綿だった。藍染めは、虫除け、まむし除けにも効果があり、吸汗性に優れ、健康にも良いとされている。当時の日本人の服装は藍色に染まっていたのだ。
 服の形は、基本的にはきものと同様だが、袂袖(たもとそで)ではなく、実用的な筒袖や舟底袖が中心だった。
 あるいは、最初はよそ行き用の袂袖に仕立て、生地が擦り切れてくると、筒袖に仕立て直される。更に、長着(普通のきもののように長いきもの)から半着(短い丈のきもの)に仕立て直され、接ぎが当てられ、元々の生地が分からないような襤褸(ぼろ)になるまで大切に着込んでいた。
 こうした農民の生活着は「野良着」と呼ばれている。
 その意味では、圧倒的多数の日本人の衣服のルーツは「野良着」であって、現在の「きもの」ではない。現在の「きもの」の形は、武家や裕福な商家のスタイルが基本になっている。
 農民も漁師も職人も、多くは藍染め木綿の衣服を着ていた。「筒袖」「股引」「法被」「袢纏」等と呼ばれた着物である。
 現在の服は、江戸時代のように高額ではない。使い捨てが可能な価格だ。しかし、安い大量生産の服を使い捨てることと、高い服を着続けることと、どちらが幸せなのだろうか。
 日本人がきものに対して、深い思い入れがあったのは高かったからではないのか。もし、安価な商品だったら、あのように芸術的な織りや染めの技術が開発されたのだろうか。

3.一張羅の美学

 「一張羅(いっちょうら)」という言葉がある。意味は「持っている服の中で一着しかない上等なもの」、あるいは「一枚しか持っていない服」という意味だ。
 昔の職人は、冠婚葬祭の場でも職人姿だった。それが一張羅だったし、社会もそれを認知していた。現在でも、鳶の棟梁のフォーマルウェアは、半纏姿である。
 現代人は、一張羅を持っていない。接ぎを当てたくなるような大切な服を持っていない。大量生産の洋服があるだけだ。
 そして、大量生産の服は、日本の文化、歴史、風土を反映していない。ヨーロッパにルーツを持ち、アメリカで大量生産がなされた服の子孫である。したがって、我々が海外で大量生産の服を着ていても、目立たないし、評価されることもない。
 海外で評価されるのは民族衣裳「きもの」だ。国際的なドレスコードでは、民族衣装はフォーマルウェアである。日本では「浴衣」は普段着だが、欧米に行けば浴衣姿でオペラ座に行っても笑われることはない。浴衣も民族衣裳と認知されるからだ。
 現代の日本人は、固有の民族衣裳の歴史と伝統を持ちながら、世界共通の衣服を着ている。それはそれで合理的であり、グローバルな時代にふさわしいのだろう。
 しかし、リタイア後のドメスティックな生活をベースに考えると、老後を着物で過ごしたいという人も出てくる。ある意味で当然のことだ。しかし、現在のきものは高すぎる。手入れも面倒だ。フォーマルウェアとしては申し分なくても、生活着としては不便極まりない。
 私も、老後はきもので生活したいと考えたことがあった。しかし、生活着としてのきものが市場にないので断念した。生活着としての着物を考えると、正絹とポリエステルだけでは不足だ。
 「作務衣」というアイテムがあり、高齢者には一定の人気を保っている。しかし、私は作務衣の形があまり好きではない。パンツの上に、上っ張りを着ているスタイルは、どこかだらしない。元々は、修行中のお坊さんが仕事着として着ていたものであり、ワーキングウェアとしては良いのだが、改まった場所に出られる格好ではないと思う。
 作務衣だったら、まだ、祭り半纏と股引きの方がしっくりする。腰にしっかりと紐で上着を固定するので、襟元がだらしなく開いたりしない。と言って、祭でもないのに、祭半纏で生活するわけにもいくまい。
 最近、天然発酵の藍染め木綿に出会った。昔は、野良着の素材として使われていたが、今は剣道着として生き続けている。濃色を出すために、繰り返し、糸染めを行い、それを力織機で織り上げる、正に、質実剛健な織物である。
 この生地で「きもの」を作れば、生活着として使える。簡単に洗えるし、着心地も快適だ。改まった時には、羽織を合わせればいいし、活動的な場合には、半着に野袴、あるいは、長着に股引でもいい。
 そして、生地が弱って擦り切れてくれば、共布で接ぎを当て、刺し子刺繍をする。
 昔の農民のように過酷な農作業をするわけではないので、襤褸になることはないだろう。それでも、身体に馴染み、身体の一部のような服に変化していくのではないだろうか。
 こうした経年変化は、ジーンズに似ている。しかし、ジーンズもワーキングウェアをルーツにしている。基本的に、フォーマルウェアにはならない。
 その点、藍染め木綿のきものは、カジュアルにもフォーマルにも耐えられる。何よりも、日本人のDNAに刷り込まれた服である。
  
4.会員制組織「一張羅の会」

 使い捨て文化を見直そう。手仕事、職人仕事の結晶としてのモノを長く使おう。
 この考え方は、グローバル経済、市場経済に逆らうものかもしれない。しかし、グローバル時代だからこそ、自らのアイデンティティを確立したいと思う人は多いはずだ。
 大量生産は大量に販売するために、情報操作が必要になる。それがトレンドとも言える。
 手仕事や職人の仕事は大量生産ができない。集中的に大量の商品を生産販売するのではなく、細く長く生産販売することが重要なのだ。そうしないと、技術は継承されない。
 ファッションの罪は、ブームを引き起こしてしまうことだ。ブームに乗るのは難しいことではない。商品が売れれば、出店のオファーが殺到するだろう。成長する企業であれば、資金調達も可能だ。
 しかし、ブームが去った時に生き残るのは難しい。ブームは急激に終焉を迎える。そして、大量の在庫と膨れ上がった経費を処理することができずに倒産する。
 それを防ぐには、「大量生産しない」「大量販売しない」「多店舗展開しない」「顧客を急激に増やさない」ことだ。
 例えば、「一張羅の会」という会員制組織を作り、会員にしか販売しない。マスプロモーションを行わず、閉鎖的なメディアと口コミによる緩やかな成長を目指す。
 商品を販売することを目的とするのではなく、良い商品を長く使うという生活スタイルを伝えていく。
 一張羅というのはそんな生活スタイルを象徴する言葉である。そして、一張羅と言える衣服を持つことは、とても贅沢なことではないだろうか。

*有料メルマガj-fashion journal(136)を紹介しています。本論文は、2014.6.30に配信されたものです。リアルタイムでの講読をご希望の方は、http://www.mag2.com/m/0001355612.htmlよりお申し込みください。

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