My Photo

お知らせ

無料ブログはココログ

« ジャパンスタンダードのグローバルビジネス j-fashion journal(112) | Main | シングルライナー、再び j-fashion journal(114) »

June 17, 2014

内なるものを目指す j-fashion journal(113)

1.クリエーションとマーケティング

 ファッションは常に変化する。売れるものも変わる。それを予測するのがファッションビジネスだ。しかし、なぜか最初から予測することを諦めてしまうことが多い。そして、個人の責任を逃れるために、客観的な情報に依存しようとする。日本の大手アパレル企業は一般的に、昨年実績を基本に、プルミエールビジョンのトレンド、パリコレの傾向、ファッション雑誌の傾向などを分析して、商品企画を組み立てる。
 昨年実績、ファッション雑誌の傾向は、過去のデータに過ぎない。また、プルミエールビジョンやパリコレの情報は、ヨーロッパ市場のトレンドであり、日本市場のトレンドとは異なる。もちろん、日本のテキスタイル業界はプルミエールビジョンのトレンドの影響を受けるし、アパレル業界はパリコレの影響を受ける。しかし、それも供給者側に影響を与えるものであり、消費に影響をあたえるものではない。むしろ、共通の情報を基本にしたモノ作りは、商品の同質化を生み出し、価格競争を招く。

 実は、中国のアパレル企業も全く同じことをしている。中国では中小企業でも毎シーズン、パリに出張し、プルミエルービジョンを視察し、パリでサンプルを購入する。次シーズンの商品企画はそこから始まるのだ。
 欧米のアパレル企業(ファストファッションではない伝統的なアパレル企業)は、スティリスト(デザイナー)がテーマを決め、商品を創り出す。日本のように企画から生産までの間に、営業・販売・生産を含めた会議を繰り返すこともない。その代わり、商品が売れなければスティリストは契約を切られる。権限と責任が明確に設定されている。
 スティリストは会議でトレンドを分析して見せたりしない。市場の状況、顧客の嗜好変化等は、スティリスト個人として行い、それを含めたテーマ設定とデザインディレクションを行う。その意味で、マーケティングはスティリストの内面にあり、内なるマーケティングセンスがないデザイナーは契約を切られる可能性が高いということだ。
 日本の大手アパレル企業、中国のアパレル企業は、商品企画のリソースを外部に求めている。ある意味では客観的だが、競合他社と同じ情報を基本にしているのだから個性は出ない。彼らは最初から個性など狙っていない。売れることを最大の目標にしているのだ。
 欧米のアパレル企業は、外部ではなくスティリスト自身の心の中にリソースを求める。だから、個性的なブランドが生まれる。もちろん、売れないこともある。その場合は、スティリストを変えることで変化に対応する。
 
2.トレンド以前の源流を見よう

 日本には、大手アパレル以外にも多くのアパレル企業がある。渋谷や原宿の個性的なファッションブランドの多くは、自分達の顧客の変化に対応することに集中している。変化の兆しを拾いだし、それをアレンジして市場に提供する。市場はその商品に反応し、更なる着こなしやアイディアを加える。それを販売員やデザイナーが吸収し、新たな商品を提案する。
 こうして顧客、雑誌メディア、アパレルが競い合うように、互いの変化を誘発し、自らも変化を続ける。継続的に変化を生み出すサイクルが出来ているのだ。
 世界のファッション都市の中でも、常に変化を生み出す都市や地域は少ない。その意味で、東京はトレンドの源流の一つである。しかし、トレンドの発信地と言えるか否かは微妙なところだ。
 日本の大手アパレル業界は、渋谷、原宿のファッションをトレンドとは認識していない。渋谷、原宿ファッションが、トレンドのリソースとしてヨーロッパに伝わり、ヨーロッパのファッションとして打ち出されて初めてファッショントレンドと認識する。つまり、渋谷、原宿はトレンド以前であり、青山、銀座に店を並べるラグジュアリーブランドがトレンドという解釈だ。
 常に新しいファッションを生み出し続ける渋谷、原宿は世界のファッショニスタにも人気がある。ラグジュアリーファッションに飽き足りない一部のセレブは渋谷109の安い服を嬉々として買い求めている。彼女たちは、それを「クール」と感じているのだ。

3.日本の農産物が感動を与える理由

 ファッションから離れるが、日本の農産物は世界に認められている。安心安全で美味しい野菜や果物。これらの農産物を育てている時に、農家は価格を意識していない。「意識していない」というのは言い過ぎかもしれないが、少なくとも、小売価格から逆算して世話をしているのではなく、お客様に喜んでもらおうと美味しい農産物を丹精込めて栽培している。
 日本の農家が素晴らしいのは、良い農産物を栽培することが目的となっていることだ。儲けることが目的ではない。農産物は農家が価格を決めるのではない。セリで価格が決定する。どんなに美味しい野菜でも豊作過ぎて大量に市場に出回れば価格は下落する。
 最近の繊維製品、アパレル製品においては、最初に価格を決めて、逆算してモノ作りをするのが常識化している。しかし、そこに感動はないし、海外からの評価もない。
 日本の農産物は過剰品質かもしれないが、それが世界の人々に感動を与えているのだ。
 思えば、日本のマンガやアニメも薄給で働く現場の人がいてこそ、世界に感動を与えている。ある意味でブラック企業かもしれないが、それでも創造の喜びがあるので救われている。この妥協を許さない過剰品質のモノ作りこそ、世界がクールと評価しているのである。
 これは日本の伝統工芸、職人仕事にも共通する。職人は最初に価格を考えるのではない。最初に完璧なモノ作りを考える。コストはその次の段階だ。
 日本のファッション商品が面白くなくなったのは、最初に小売価格を決めて、自分の利益を決めて、最終的に素材と加工賃を設定するようになったからである。そこには、最早、日本のモノ作りと呼べるものはない。生産地が中国に移転しただけでなく、モノ作りの精神も中国と同様になってしまったのである。

4.内なる美的基準を確立しよう

 グローバルな時代になったから、「グローバルスタンダード、アメリカンスタンダードを目指すべきだ」という意見がある。しかし、少なくとも、ファッションビジネスの分野では当てはまらない。情報システムをグローバルスタンダードにするのは良い。商取引のルールもグローバルでいいと思う。しかし、コンテンツ、デザインにはグローバルに統一されたものはない。パリのファッションも、ミラノ、ニューヨークのファッションもそれぞれにアイデンティティがある。ファッションビジネスは、ローカルコンテンツをグローバルビジネスに乗せることを意味する。
 コンテンツやデザインはローカルというより、最終的には個人に所属するものだ。「個人の才能、個人のセンスをどのようにビジネスにするのか」が問われるのであって、世界の平均値のコンテンツ、デザイン、ファッションには何の意味もない。多数決で決める会議にも意味はない。
 徹底した市場調査をベースにすべきは、コモディティの分野である。これはアメリカの考え方だ。アメリカのファッションは、大量生産大量販売を原則にしている。アメリカのファッションデザインとは、プロダクトデザインの一ジャンルであり、大量に売れるデザインが良いデザインである、という共通認識がある。
 しかし、日本はアメリカとは違う。はるか昔、日本人は、朝鮮半島の日用雑器に新たな価値を見いだし、最高級の茶器として流通させた。同様に、アメリカの実用衣料の代表であるジーンズの古着に、新たな価値を見いだし、ビンテージーンズとして流通させたのが日本という国なのだ。
 世界中が何と言おうと、自らの美的価値観を確立し、新たな価値を創造すること。それこそ、日本という国が伝統的に持っている文化だ。コンテンツ、デザイン、ファッションの価値は、外部に存在するのではない。我々の内部にこそ、価値の物差しは存在するのであり、我々は自らの内なる世界を凝視しなければならない。
 世界が日本を再発見したのがクールジャパンであるなら、日本人は世界を自らのスケールで再発見しなければならない。これからは、日本人デザイナーがパリで評価を受けるのではなく、世界のデザイナーを日本が再評価すべきである。それには、己の絶対的な美的基準を持たなければならない。
 価値は欧米が決めるものではない。日本が決めるのだ。それが真のクールな日本ではないだろうか。

*有料メルマガj-fashion journal(113)を紹介しています。本論文は、2014.1.20に配信されたものです。リアルタイムでの講読をご希望の方は、http://www.mag2.com/m/0001355612.htmlよりお申し込みください。

« ジャパンスタンダードのグローバルビジネス j-fashion journal(112) | Main | シングルライナー、再び j-fashion journal(114) »

「ファッションビジネス」カテゴリの記事

Comments

Post a comment

Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.

(Not displayed with comment.)

« ジャパンスタンダードのグローバルビジネス j-fashion journal(112) | Main | シングルライナー、再び j-fashion journal(114) »