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July 05, 2013

サプライチェーンの穴 j-fashion journal(50)

1.テキスタイル・アパレル間の穴

 日本の多くのテキスタイルメーカー(以下、生地メーカー)、テキスタイル卸(以下、生地卸)には、専門のデザイナーが存在しない。営業が企画を兼ねていることが多い。それでも困らないのは、日本独特の商慣習に由来している。
 欧州の生地メーカーは、毎シーズン自社のコレクションを発表する。自社オリジナルの生地を企画、試作して展示会に掛けるのだ。受注が生産ロットに満たなければ、生産中止になるが、生産ロットが満たされれば一反ずつのオーダーでも受けつける。
 オリジナル性を重視するラグジュアリーブランド、デザイナーブランドは、展示会の前に、オリジナル生地開発を行い、コレクション用の生地を発注する。基本的に、デザイナーと開発した生地は展示会には出ない。
 かつては、日本の生地卸も同様にオリジナルコレクションを企画制作して、アパレルにプレゼンテーションしていた。しかし、アパレルが他社との差別化を図るために、別注色を指図するようになった。生地卸は自社企画を完成してから見せるよりも、過去の資料等を見せて、アパレルに指示してもらった方が無駄がなく、コストの削減にもつながる。こうして、生地卸は次々と企画機能を放棄し、生地メーカーとアパレルに依存するようになった。
 日本のアパレル市場は、欧米のようにコレクションテーマを基本にもの作りをしているわけではない。多くの小売店、アパレルは、昨年実績を基本に企画を進める。従って、テキスタイルについても、過去のアーカイブや売れ筋の商品をアレンジする方が理に叶っている。

 最近では、アパレルのデザイナーがオリジナル生地を開発することも少なくなっている。企画生産のリードタイムを短縮するために、生地卸が在庫を抱えて一反から販売する見本帳の中から選ぶからだ。当然のことながら、その種の生地を使った商品は店頭でバッティングする。店頭は同質化し、ますます価格競争に陥っていくのだ。
 多くの独立系デザイナーも、コレクションを組み立てる時にオリジナルの生地を開発することができない。まず、社内に生地開発の専門家が存在しない。次に生地メーカーに別注しようとしても、オーダーが細かく、生産ロットに満たない。
 そのため、素材での差別化は難しい。デザインやカッティング、ディティールの変化で勝負するしかない。奇抜なデザインほど数量は伸びないもの。結局、デザイナーアパレルの規模は大きくならず、いつまで経っても、オリジナル素材開発ができないという悪循環に陥っている。
 一方、テキスタイルメーカー、生地卸もまた悩みがある。コストダウンするには、海外生産が必要だ。しかし、最終的には海外メーカーにコスト競争では勝てない。また、グローバルなビジネスをしようとしても、既に社内に企画機能がなくなっている。自社のコレクションを作らなければ、グローバルなビジネスはできないのだ。
 日本のテキスタイルは素晴らしい、日本の技術は素晴らしいと言うが、完成したテキスタイル製品が素晴らしいのではない。あくまで、特定の工程の技術が素晴らしいのであって、その技術が最終製品に生かされなければ宝の持ち腐れである。そして、その技術が価格に反映されなければ何もならない。

2.ブランド開発できるデザイナーの穴

 アパレルにも企画の穴が空いている。日本の大手アパレルは、アメリカの既製服産業を手本に成長してきた。当時のアメリカ既製服産業のビジネスモデルは、パリコレのデザインをアレンジし、大量生産大量販売するというものだった。
 アメリカは基本的にアパレル製品を工業製品のように企画設計、生産している。あくまで大量生産、大量販売が基本だ。
 日本は、1960年代まではヨーロッパのオーダーメイドを基本にしていた。70年代以降にアメリカ型の大量生産システム及びチェーンストアによる大量販売が最新の理論として紹介されたが、日本市場はアメリカ市場とは異なり工業製品のようなアパレル製品を好まなかった。他人と同じ格好を嫌ったために、結局は多品種少量生産に帰結していったのだ。
 しかし、前述したように、欧州のようなオリジナルのコレクションを創造して販売するわけではない。アメリカがパリモードをソースに大量生産したとしたら、日本はライセンスブランドというソースを展開して、多品種少量生産によって成長したのである。
 日本は季節が細分化している。欧米のような年2ーズンでは対応できない。ライセンスブランドでは、基本となるデザインからバリエーションを展開し、デザイン数を増やすために、数多くの社内デザイナーを抱えている。この社内デザイナーは、オリジナルのコレクションを創造するデザイナーではない。デザインソースを元にバリエーションを展開していくデザイナーなのだ。
 従って、日本の大手アパレルの多くは、オリジナルコレクションを発表できない。常にトレンド情報を入手し、昨年実績と照らし合わせ、競合他社の情報等を組み合わせて企画することが企業的な取り組みと考えている。
 一部のクリエイティブなデザイナーのように、自らの発想でテーマを設定し、そこから商品を企画していく手法は、趣味的、個人的と片づけてしまう。しかし、世界のブランドビジネスの主流は後者である。
 日本型の売れ筋後追い型,昨年実績踏襲型のアパレルも存在するが、多くは中級以下の商品である。ファストファッションは日本のアパレルと同様の手法でモノ作りをしているが、世界で最も低コストの地域で生産し、高コストの地域で販売している点が大きく異なる。 
 高コストの日本企業は高級品にシフトしなければならない。しかし、欧米型のクリエイティブな企画生産の仕組みがない。一方、海外市場で展開するマーケティング力や国際的な商品調達力もない。展望が開けず閉塞感に陥っているのも理由があるのだ。

3.高級品バイヤーの穴

 小売店に空いている穴はバイヤーである。欧米において、婦人服のバイヤーはほとんどが女性だ。顧客と同じ女性がバイヤーになることはとても自然であり、日本のように婦人服のバイヤーの多くが男性であるというのは異常である。
 日本の小売店のバイヤーがほとんど男性なのは、小売店において仕入れ担当(バイヤー)は、販売員より上級職であると思われているためだ。「責任ある仕事を女に任せられるか」というわけで、完全なる男女差別、時代錯誤なのだが、男性は既得権を離そうとしない。
 これは婦人アパレルのMDも同様である。生地や製品を仕入れる担当者は、仕入れ権限を持った総合職の男性なのだ。
 しかも、婦人服バイヤーも婦人服MDも専門教育を受けた人はほとんどいない。一般の四年制大学の卒業者が圧倒的に多いのである。逆に言えば、婦人服バイヤー、婦人服MDには専門職としての知識や技術は必要ないと思っているということだ。
 多くのバイヤー、MDが理解できるのは、ブランド知名度(売上実績)、何らかの付加機能、価格、値入(取引条件)、数量というような、数字に表せる要素だけだ。色、デザイン、素材の風合い、着心地という数値や言葉で表せない要素については評価することができない。
 更に、悪いことには、90年代半ばから激安商法が広がり、とにかくいかに安く仕入れるかだけを追求してきたことである。極論すれば、入社20年未満のバイヤーは高級品、良い商品というものを知らないのだ。
 いくらメーカーが技術や質を訴求しても、そんなことは理解されない。実績のあるブランド、価格しか見ないのだから。
 小売店が活性化せず、ネット通販等に流れているのは、数値だけの世界ならば、ネットでも何も変わらないということである。
 
4.プロモーションの穴

 プロモーションに積極的な業界というのがある。すぐに思い浮かぶのは、家電メーカー、飲料メーカー、化粧品メーカー、製薬会社、自動車メーカー、保険会社、食品メーカー等である。これらの企業はテレビCM、新聞雑誌の広告など幅広くプロモーション活動を展開している。
 繊維関連でも、高く経営を行っている合繊メーカーや紡績などは比較的積極的にプロモーションを行っている。最近は、テレビのCM料金が下がったために、アパレル企業も見かけることが多い。しかし、アパレル業界においては、圧倒的にファッション雑誌媒体が強い。セグメントされた顧客と雑誌が一致していることが多いからだ。いかにファッション雑誌に掲載されるかが売上に直結する。
 欧米のラグジュアリーブランドは、コレクションにも多大な投資を行う。コレクションの写真は世界中で紹介され、自らのショップにも飾られることが多い。非常に波及効果が高い手法と言える。残念ながら、東京でコレクションを開いても、世界のファッション雑誌に掲載されることはない。日本のファッション雑誌にさえも、ほとんど取り上げられない。直接的な効果を狙うならば、コレクションよりも雑誌とのタイアップ広告の方が有効だろう。
 反対に、ほとんどプロモーション活動を行わないのが、繊維関連の製造業である。直接的なビジネスの場である展示会等にもあまり投資をしない。商品さえよければ売れる。技術さえあればビジネスになると信じ込んでいるようだ。
 私が海外の展示会で恥ずかしく感じるのは、日本企業の展示ブースがあまりにも貧相なことだ。展示品がどんなに素晴らしくても、あまりにも配慮のないブースや演出を見ると、「展示品の価値も感じられない」と言うより展示ブースに入る気もしないのである。
 ファッションは非常に感情的でソフトな分野である。従って、感情を動かすような配慮が必要だ。しかし、日本のメーカーはあまりにも商品だけに偏り過ぎている。商品に乗せるイメージ、ストーリー、情報、付加価値というものに投資もしなければ、相手に伝えようという努力もしない。結果的に、こんなに技術があるのになぜ買い叩かれるのか、ということになってしまうのだ。
 現在は、インターネットやSNSなど、新しいメディアや伝達手段が増えている。それを活用すれはそれほどコストを掛けなくても、自らの存在を世界にアピールすることも可能だろう。
 全く海外に情報発信もせずに、いきなり現地で展示会に出展したり、販売法人を作っても売れるはずがない。最悪なのは、現地の人が展示会を見て、WEBを検索しても、日本語サイトしか用意されていないことである。

5.穴を埋めるのは誰だ?

 業界のあちこちに空いている穴を埋めようとする人は少ない。多くの人は、「自分の担当ではない」「自分の仕事ではない」「自分の専門ではない」と考える。それは間違いない。しかし、穴が空いているのだから、誰かが埋めなければならないのも確かだ。
 日本人はテリトリーを大切にする。出過ぎた真似をすると思われることを嫌うのだ。従って、各人がそれぞれの専門に深く沈み込み、隣を見ようとしないのである。
 しかし、これからはそれではいけないと思う。メーカーは自社で貿易すべきだし、小売店を出店するのも良い。最早、メーカー、卸、小売という区別に意味はない。世界の主流は「小売店が直接海外の工場から商品調達する」ことである。ユニクロもしまむらもH&Mも全て共通している。
 中間材料、素材においても、自らの存在をアピールしなければならない。インテルは良い事例である。細かいスペックはあるにしても、最終的には企業の信用、ブランドの信用が必要だ。スペックが記載されていても、その情報が信用できるのか否かの判断はブランドイメージに因っているのだ。
 そして広告代理店に頼まなくても、プロモーションは可能だ。社長ブログや社長ユーチューブでも良いのだ。
 自分の領域を狭く設定せずに、むしろどんどん領域を広げていく。その中で新しいビジネスモデルが生まれるかもしれない。業界に空いた穴とは、そのままビジネスチャンスでもあるのだ。

*有料メルマガj-fashion journal(50)を紹介しています。本論文は、2012.11.12に配信されたものです。リアルタイムでの講読をご希望の方は、http://www.mag2.com/m/0001355612.htmlよりお申し込みください。

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