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April 17, 2013

未知なるイスラム市場 j-fashion journal(46)

1.ハリーファ企業開発基金のソーハプロジェクト
 10月8日から10月13日の6日間、アラブ市長国連邦のアブダビ首長国から、クマーシャさんとレイラさんという二人の女性が来日した。二人は、アブダビ首長国のハリーファ企業開発基金の職員であり、ソーハプロジェクトの担当者である。ハリーファ企業開発基金とは、起業支援や女性の自立支援等を行っている政府機関。ソーハプロジェクトは、その中でベドウィンの女性達の織物や椰子の葉を使った手工芸品をマイクロビジネス化しようという試みだ。
 しかし、この説明を読んでも、日本人にはそのイメージが伝わらないだろう。まず第一に、「アブダビは超リッチな石油産出国」ということ。税金がないばかりか、国が国民に住宅を支給する。また、働いた給料と同額を国が補助してくれる制度もあるらしい。つまり、20万円働けば、20万円国から支給され、合計40万円の収入になるのだ。従って、食べるのに困っているという人はいないし、いたとしても国が手厚く保護することは十分に可能である。アブダビ首長国の住民のうち、アブダビ国民は15%のみで、あとは海外からの出稼ぎ労働者である。つまり、働く必要などないのだ。

 ソーハプロジェクトは、経済的な側面よりも、文化的な性格が強い。
 アブダビの建国は1971年である。その頃、石油の採掘が始まり、わずか40年で何もない砂漠から超高層ビルが立ち並び、緑が生い茂る国へと変貌を遂げた。この間の経済成長は想像することも難しいだろう。全ての製造業は消え失せ、人々は極端な消費だけの生活に浸っていく。
 勿論、ベドウィンの女性達も自給自足的に行ってきた手工芸を全て捨て去った。一方で、イスラムの女性達は家に縛られ、自由に外出することもできない。生存に困ることはなくても、経済的に自立できず、自分の銀行口座を持つこともなかった。
 そうした状況の中で、ベドウィンの女性の手工芸の技術の調査を行い、一度は完全に消滅した技術を復活させ、手工芸の価値を国民に知らせ、新たな手工芸品市場を創造し、同時に女性の精神的自立を支援していこうというプロジェクトである。
 最初、その作品を見せられた時には、あまりの技術の稚拙さに驚かされた。日本人の主婦が趣味で作る作品の方がはるかにレベルが高い。
 彼女達は、ベドウィンの女性達を職人とか技術者と呼んでいるが、日本のように専門の職業としてモノ作りをしたわけでもなく、自分が作ったものを販売した経験もない。逆に言えば、そんな拙い技術でさえ価値があると感じるほどに、アブダビは消費の国になってしまったということだ。
 日本の職人は完全にプロフェッショナルであり、工程別の専門性を持っている。その技術は何代にも渡って継承され、その水準は驚くほど高い。まさに、日本は「モノ作りの国」であり「職人の国」だ。一方のアブダビは、モノ作りが絶えた国であり、消費のみの国なのである。
 製造業がないのだから、材料や部品が販売されていない。加工する工場もない。従って、ファスナーやボタン、金具などの付属や副資材も入手することはできないし、乾燥した椰子の葉を染色しようと思っても、染料が入手できない。趣味のハンドクラフトさえ存在しないし、手作りだから価値があるという価値観も持っていない。
 その中で、女性にミシンの使い方を教え、寸法の測り方を教え、材料を調達する。売り上げたお金を預ける銀行口座の開設の仕方、お金の管理の方法を教える。製品のパッケージや売場を作り、ビジネスという形にまとめる。日本なら簡単なことが、アブダビでは想像を絶するような困難なことなのだ。

2.きものの技術でアバヤ市場進出はできるか?
 イスラムの女性は、「アバヤ」と呼ばれる目と手足の先以外を全てを覆い隠す黒い服を着用している。クマーシャさんも国ではアバヤを着用しているそうだが、日本への旅行中は普通の服装をしていた。この辺りは国や宗派によって異なるらしく、サウジアサビアでは、海外旅行に行く時もアバヤを着用することが義務づけられているが、アブダビは少し戒律が緩いらしい。ちなみに、インドネシア等では、アバヤは着用せずに、ヒジャブと呼ばれるスカーフのような布で頭を隠すのが一般的なようだ。
 今回は、「きものアルチザン京都」という友禅、絞り、和裁、型染等の企業グループにお願いして、日本のきものに関する伝統工芸を説明していただいた。彼らは中東市場にも興味を持っており、一度、黒地に金彩のアバヤを試作し、展示会に出品したこともあるそうだ。その時の試作品も展示していただき、彼女達に感想を聞いた。
 本物のアバヤはシルクで、かなり厚地の生地を使うようだ。おそらく、着物の生地では薄過ぎて頼りなかったのではないか。それでも、厚い生地は暑いので、次第に薄地に変わってきたそうだ。
 価格を聞いたところ、「中流から上流の女性は30万円以上」という回答だった。つまり、高いものはいくらでもあるということだ。価格面でもきものに似ていると感じた。そして、基本的に黒地であり、その上に乗せる色に制限はない。まさに、黒留袖の世界であり、生地の厚さという意味では打ち掛け程度ではないだろうか。その時に展示してあった総刺しゅうのきものは、小売価格500万円程度のものだったが、価格を聞いても特別に驚いた様子はなかった。
 しかし、消費の国なので、やはりブランドものでないと高い価格は通らないようだ。実は、欧米のラグジュアリーブランドも中東限定のアバヤのコレクションを作っているようだ。日本の技術を使った生地をヨーロッパのブランド企業が販売すれば、確実に売れるだろう。
 いずれにせよ、全く製造業がない消費の国にとって、日本のモノ作りは想像を絶する世界のようだ。この二国間の文化交流は互いに様々なメリットがあるのではないだろうか。

3.ハラール対応の日本観光はできないのか?
 京都滞在中、印象的だったのは、京料理や観光地である神社仏閣にはほとんど興味を示さないことだった。京料理は食器や料理の視覚的美しさには感動していたが、味覚の方では物足りないようだった。また、京都の観光地は基本的に神社仏閣であり、イスラム教徒には異教徒の宗教施設のように映るらしい。
 食事が口に合わず、アルコールも飲まないので、こちらもどのように接待していいのか、分からない。そこで、「日本食で満足できないようだから、アラブ料理のレストランに行こうか」と誘ったら非常に喜んだ。「水パイプが吸いたい」と言うので、調べたところ、京都に一軒だけ水パイプが置いてあるアラブ系のレストランがあった。そこで、アラブ料理とコカコーラで大いに盛り上がったのだが、いろいろと考えさせられた。
 日本は観光立国を標榜しているものの、イスラム教徒を対象に考えたことはないだろう。彼らは、アジアではマレーシアやインドネシアには遊びに行くようだ。戒律の緩いイスラム教の国であり、居心地が良いのだろう。しかし、日本まで足を伸ばすことは少ない。
 最近になって、ようやく日本でも「ハラール(Hala-l)」という文字を目にするようになった。ハラールとは、イスラム法で許された項目を意味し、主にイスラム法上で食べられる物を表す。良く知られたところでは、豚肉を食べないということだが、他の肉でも屠殺の方法等が厳密に設定されており、それらを全てクリアしなければハラールと表示することはできない。
 逆に言えば、ハラールの表示ができれば、巨大なイスラム市場の扉が開くことになる。また、観光地、ホテル等でも、ハラール仕様にすれば観光客を誘致することもできるだろう。そこまでして、イスラム教徒を誘致する必要があるのか、と思う人もいるだろう。しかし、無理をしたくなるような経済力と文化のギャップがあるのだ。
 日本のテキスタイルの輸出はすっかり減少してしまったが、最後まで続いたのが中東向け輸出だった。世界中で最も価格が通る市場が中東だったのだ。しかし、日本のテキスタイルメーカーは、その生地がどんな服になって、どんな場所で販売されていて、どんな人が、どのように着用しているのか、全く知らなかった。それが分かれば、もっと顧客に喜ばれる商品を開発できただろうし、ビジネスを継続することもできたかもしれない。
 今回は本当にささやかな交流だったが、実際にイスラムの人と会えたことは非常に良かったと思う。まるで文化が異なる国同士だからこそ、様々な可能性があるに違いない。

*有料メルマガj-fashion journal(46)を紹介しています。本論文は、2012.10.15に配信されたものです。リアルタイムでの講読をご希望の方は、http://www.mag2.com/m/0001355612.htmlよりお申し込みください。

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