グローバルビジネスのトレーニング j-fashion journal(42)
1.自分の頭で考えるトレーニング
私達は最初から確固とした自分の意見を持っているわけではない。最初は、自分の親や教師、テレビやマスコミなど、他人の意見を鵜呑みにすることが多い。 しかし、複数の情報に接していくにつれ、様々な矛盾を感じるようになる。そこで、情報や他人の意見を疑うようになる。情報には偏りがある。マスコミも全ての情報を伝えているわけではなく、伝える情報と伝えない情報がある。その選択にも、編集者の意図が含まれる。
また、同じ情報でも、人によって解釈が違うし、表現も異なる。たとえば、ある政策に3割の人が賛成した場合、「賛成意見は3割しかありません」と言うのと、「賛成意見が3割もあります」と言うのでは印象が異なる。ここに表現の意図が含まれる。
このように情報や意見には、それぞれの立場や利害関係によって、様々な思惑が絡んでいる。真実を知ろうと思えば、常に批評的な視点で複数の情報を確認し、自分自身で判断しなければならない。
そのためには、一つの事象に対して様々な意見を聞くことが必要である。あるいは、ディベートのように一つの事象に対して、様々な視点から議論を交わすことで、多くの視点が得られる。
しかし、意見が多数あり、どれを信じていいのか分からない複雑な状況下にいると人間は不安になる。不安を解消するためには、分かりやい絶対的な意見を信じたくなる。原理主義者のように一つの絶対的な価値観を持てば、迷いがなくなり、心は安定する。しかし、心の安定と引き換えに、客観的な状況判断ができなくなる。思考停止に陥る危険性もある。そのことには注意が必要だろう。
様々な価値観を持つ人と交流し、世の中には多様な価値観があることを認識することは非常に重要である。グローバルビジネスとは、多様な価値観の中でビジネスを展開することなのだ。
2.思考を論理的にまとめるトレーニング
思考とはあやふやなもので、論理的にまとめないと、同じ論点を堂々巡りしてしまう。また、論理に飛躍があったり、省略があると相手に伝わらない。
思考を論理的にまとめるには、文章にするのが最も良い。文章にすることで、自分の思考を客観視することができる。但し、日本語は主語や目的語が曖昧になりがちなので、英語になり易いような明確な文章を書く訓練が必要である。
そして、文章を客観的に校正してもらい、その文章を再度書き出し、自分の文章と比較するという繰り返しが論理的な思考を育てる。
思考を整理する段階では、マインドマップや、KJ法のようにカードにデータや文章を記入し整理するなどの作業が有効である。ここでも、一人で行うのではなく、異なる意見を持っている他人とのコミュニケーションが重要になる。
3.自分の考えを相手に理解させるトレーニング
自分の考えを相手に理解してもらうには、まず、相手が何を求めているかを知らなければならない。人は聞きたいことだけを聞き、聞きたくないことは聞かないのだ。
次に、相手の利害とこちらの提案が一致していることを説明する。
また、現状分析と目指すべきゴール目標の設定を明示し、ゴールに至るまでのいくつかのシナリオを説明する。
こうした訓練を行うには、実際に計画を立て、それをプレゼンするというロールプレーイングが必要である。
また、相手が自分の意見を理解するということは、自分という人間を受け入れてもらうことでもある。相手がリラックスさせるような演出も必要である。
一般的にプレゼンテーションは日本人より欧米人の方が上手だ。常に自己主張をしている人達と伍して戦うには、それなりの訓練が必要だ。
4.日本のアイデンティティを確認するトレーニング
グローバル人材の育成で、グローバルな視点ばかりを強調すると、アイデンティティ崩壊につながることがある。国際化すればするほど、日本人のアイデンティティを持ち、その基準で世界を相対化していくことが求められる。
特に、ファッションビジネスの場合、ビジネスが文化や美意識と直結しているので、自分の基準をしっかりと持つことが必要になる。
私は、徹底的に欧米と日本との共通点と異なる点を具体的に上げ、それを共有することが重要と考えている。平面と立体、装飾と侘びさび、洋服と和服、一神教と多神教、自然観の違い、組織と個人との関係、死生観、男女平等観の違い、オペラの発声と邦楽の発声の違い、クラシックバレエと日本舞踊の所作の違い、レディファーストについて、チップ制度について等々を一つ一つ例示し、自分がそれらをどう思っているかを確認する作業が必要ではないか。これにより、自分が感じている漠然とした「日本らしさ」が理解できるはずである。
5.欧米的思考を理解するトレーニング
日本のアイデンティティを理解した上で、グローバルビジネスと言われるアメリカ的ビジネス発想を学ぶことにしたい。
私が特に感じているのは、農耕民族と狩猟民族の発想の違いである。農耕とは、日々弛まぬ努力をすることが大切であり、後は天候次第という部分がある。そのため、結果ではなくプロセスがより重要とされる。しかし、狩猟の場合は、ハンターと獲物の戦いであり、結果が残せないことは敗北を意味する。プロセスはどうでも結果が全てなのだ。
こうした考え方の違いは、スポーツ等でも見られる。日本はプロセス重視であり、欧米は結果重視だ。どんなに一生懸命練習しても、結果が残せなければ意味がないという考え方である。
この発想の違いは、どちらが正しくて、どちらが誤っているというものではない。発想が異なるのだ。しかし、海外企業はこうした発想で組織を編成し、評価と報酬制度を整備している。結果が残せる社員には、多額の報酬を出すが、ノルマを果たせなければ解雇となる。
世界の企業との競合に勝つには、敵を理解しなければならない。その上で、勝負を仕掛けていくことになる。
6.議論と会議進行のトレーニング
日本人は相手の気持ちを察するという文化がある。しかし、海外では、自分の気持ちは自分で表現しないと、誰も分かってくれない。主張しなければ存在しないのと同じことなのだ。従って、議論の進め方にも違いがある。
日本では婉曲表現を使いながら、相手を傷つけないように配慮する。しかし、そのことが率直な意見交換にならず、形式的な会議に終始することも少なくない。また、自分の意見に反対されることに慣れないないので、感情的になりがちだ。そこで、特定のテーマを決めて、議論のトレーニングを行うことが必要になる。
できれば、様々な人種、国籍、年齢、性別で対等に議論ができるようにしたいものだ。
但し、欧米式の議論を日本企業で行うケースは少ない。日本の企業で欧米式の議論を行おうとすれば、周囲から浮き上がり、孤立することもあるだろう。
会議進行の訓練も必要である。いかに短時間で効率よい議論ができるか。それは議長役で決まる。こうした訓練も学校では行っていない。しかし、ビジネスの世界では非常に重要である。
7.ユーモアを理解するトレーニング
欧米のスピーチではユーモアが非常に重要視されている。緊張すればするほど、あるいは重要な案件ほど、ユーモアを交えながらスピーチする。それによって、場の雰囲気がほぐれ、冷静な判断ができるようになる。
ユーモアのセンスを持つことは、心の余裕を持つことであり、心の余裕を持つことが成熟した大人という評価になる。
ユーモアを解さない態度は、子供っぽく、信用できないと解釈されるのだ。私は、海外で仕事をする時こそ、ユーモアが重要と考えている。しかし、見当外れのユーモアや、無知によるタブーに触れることは避けなければならない。
会議では活発に議論を交わす。しかし、その中にユーモアを交える訓練を行えれば理想的である。ここで難しいのは、ユーモアのセンスを磨くトレーニングには、ユーモアのセンスのある指導者が必要であることだ。国際的なビジネスの経験を持つリタイアした外国のビジネスマンなどに指導していただければと思う。あるいは、グローバル人材育成の中では、あらゆる要素の学習の中で、常にユーモアのセンスを持つことを重視すべきかもしれない。
*有料メルマガj-fashion journal(42)を紹介しています。本論文は、2012.9.17に配信されたものです。リアルタイムでの講読をご希望の方は、http://www.mag2.com/m/0001355612.htmlよりお申し込みください。
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