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November 04, 2012

プロデザイナー育成カリキュラム j-fashion journal(34)

1.プロデザイナーの仕事とは?

 プロデザイナーはクライアントのために仕事をする。ファッションデザイナーの場合、主なクライアントはアパレル企業であり、デザイナーはアパレル企業から給料を支給される。従って、デザイナーはクライアントであるアパレル企業の利益に貢献する義務がある。
 デザイナーはアーティストではない。日本で言うアーティストは、アメリカではファインアートと呼ばれている。デザインはコマーシャルアートであり、両者は明確に区別されている。ファインアーティストならば、「自分の好きな作品を作り、死後、その価値が認められればいい」という考え方もあるだろう。
 しかし、デザイナーはビジネスに組み込まれた専門職である。クライアントは、それほど長い時間は待てない。
 私は、現在の専門学校におけるデザイナー教育の最大の問題点は、クライアントを意識することなく、好きな服を作ることに終始していることだと思う。「自己表現のために作品を作る」「自分の好きな作品をつくる」という課題があってもいいが、それは特殊な課題であり、一部に留めておくべきだ。

 プロデザイナー育成であれば、クライアントの存在を強く意識し、クライアントに対する責任を持つという意志が必要である。それがプロ意識につながる。
 デザイナーの仕事は、企業の成績を大きく左右する。デザイナーがデザインした製品が売れなければ企業全体の利益が損なわれ、株主、社員、関係先等の全てに損害を与えることになる。反対に、デザイナーがデザインした製品が売れれば、株主、社員、関係先等の全てに貢献することになる。デザイナーの仕事は、重い責任と影響力を持った非常に重要な仕事である。
 多くのデザイナーは既存のブランドのためにデザインする。それぞれのブランドには顧客がついている。顧客は特定のブランドイメージを持っている。通常は、顧客の持っているブランドイメージに相応しく、しかもシーズン毎に新鮮なイメージを与えるデザインをしなければならない。
 ブランドイメージが陳腐化していて、新しいブランドイメージを創造して欲しいという場合もあるが、それでも既存の顧客を全く無視することはできない。既存の顧客が満足するようなデザインが求められているはずだ。
 各ブランドはそれぞれの販売ルートを持っている。百貨店か専門店か、ネットショップか。それぞれの販売ルートによっても、デザインは変わる。こうしたブランドを取り巻く環境要因を理解してから、デザインする必要がある。
 また、各ブランドには得意アイテムがあるかもしれない。それは素材調達、あるいは、縫製加工にその理由があるかもしれない。それらは、会社の資産であり、その資産を有効に活用するようなデザインが求められる。優秀なジャケット工場が存在し、実績を上げているのに、ジャケットをコレクションから除外してしまうことは現実的ではない。素材調達ルート、縫製加工ルート等を理解しておくのも、デザインには不可欠である。
 アパレルデザインは通常、チームで行う。デザイナーと一緒にチームを組むのは、マーチャンダイザー(プロダクトマネージャー)、パターンメーカー(モデリスト)、アシスタントデザイナー、テキスタイル担当、付属担当等である。日本のアパレル企業では、デザイナーが生地を選択するケースが多いが、海外では専門の担当者がいることが多い。デザイナーは、こうしたチームの特性も理解しておく必要がある。
 欧米では、デザイナー(スティリスト)はブランドに一人である。デザイナーはシーズンテーマを設定し、全ての商品デザインのディクションを行う。アシスタントデザイナーは、デザイナーの仕事を補佐する担当者であり、アイディア出し、デザイン展開、ファッションイラストなど、デザイナーの指示に基づいて仕事をする。
 日本では、集団作業なので、アイテム別にデザイナーがいたり、一つのブランドに複数のデザイナーが存在することが多い。その場合、チーフデザイナーが設定されているケースと、そうでないケースがある。日本では、各企業によって職制、業務内容、責任内容がバラバラである。まず、それらを確認し、業務の流れと意志決定システムを理解することが必要になる。

2.シーズンテーマの設定

 欧米のデザイナーと、日本のデザイナーの仕事で最も異なるのがシーズンテーマの設定である。シーズンテーマの設定は、ライセンスブランドには必要のない作業である。ライセンサー側からテーマが指示されるからだ。また、店頭の売れ筋商品をフォローする場合にもテーマは不要である。次から次へと売れ筋商品が変わり、それを追いかけるのだからテーマを決めることは何の意味もない。
 欧米のデザイナーは、半年に一度のコレクションを構成する。コレクションが終われば、一度頭の中をクリアにして、次のテーマを探っていく。欧米で常に新しいコレクションが発表されるのは、シーズン毎にテーマを設定し、そのテーマに則した商品企画を組み立てているからだ。
 デザイナーが設定するテーマによって、パターンメーカーはプロトタイプを制作し、テキスタイル担当はテキスタイル開発の準備を行う。アシスタントは、プロトタイプに基づいて、デザインバリエーションを作成する。全ての作業はデザイナーのテーマから始まるのであり、テーマがなければモノ作りの方向が定まらない。
 テーマ設定は、プロモーション計画とも密接に関係している。現在のデザイナーは服をつくることだけが仕事ではない。ブランド全体のディレクションをすることが求められている。その意味でも、テーマ設定は必要不可欠である。
 残念ながら、日本のファッション専門学校では、テーマ設定に関してほとんど教えていない。教えているのは、トレンド情報分析と企画マップの作成である。トレンドは与えられるもの、あるいは欧米から導入するものという発想であり、自身でテーマを設定するという発想がない。同様に、日本の大手アパレル企業でも、トレンド分析からテーマ設定を行うことはあっても、デザイナーが独自のテーマを設定することはほとんどない。
 日本のアパレル企業は、前年実績を下敷きにして、もの作りを進める。欧米のように、昨年実績を一度クリアするということがない。常に改善を進めているのであり、無から有をクリエイトする作業ではないのだ。従って、テーマ設定は必要ない。
 グローバルに通用するようなプロデザイナーを育成するのであれば、テーマ設定を重視しなければならない。テーマは様々な事象がヒントになる。芸術、美術、演劇、音楽、特定地域の民族衣装、特定の時代の服装、アンティークのドレス、様々なニュースや情報等々。テーマ設定によって、ファッションは時代と結びつく。消費者もデザイナーも社会的意識を持った人間であり、同時代の共感を感じている。各ブランドのコンセプトは存在しても、その範囲の中で、新しいテーマを設定していく。
 デザイナーの資質の一つは好奇心である。その時代が感応している事象に個人も感応する力が求められる。プロデザイナー育成には、様々な知識や情報を幅広く教えることが求められる。しかし、○○論という決まったカリキュラムを通年続ける必要はない。その時代に則した事象、その分野の専門家の情熱を持って講義することが重要である。
 テーマ設定こそ、デザイナーの仕事の中で最も重要であり、時代のセンサー機能が求められる。現代のデザイナーに、ファッションイラストが描けない人が存在するのも、こうした理由だ。イラストの能力よりも、ブランドの商品企画、プロモーション、イメージ訴求の方向性が重要なのだ。
 昨年の売れ筋を基本に、営業や販売員の意見を聞きながら、デザインをアレンジするだけなら、器用なパターンメーカー(モデリスト)か、アシスタントデザイナーがいれば対応できる。大多数の日本のアパレル企業には、欧米で言うような本来のデザイナーは存在しない。そして、デザイナーがいないのだから、ライセンスブランドに依存するのも当然である。

3.素材、色柄の基本知識

 油絵を習う時、何から始めればいいか。まず、油絵具を使う前に、デッサンから始めるのが基本だ。鉛筆デッサン、木炭デッサン等である。
 デッサンでは、まず鉛筆や木炭の持ち方や描き方、練りゴムやパンの使い方、指の使い方等を学ぶ。その上で、平面に立体を表現するための基本技術を学ぶ。形の取り方、明度のコントロール、ハイライトの使い方等々である。
 その次に、油絵の道具の使い方を学ぶ。パレットの使い方。絵の具の種類と混色の方法。オイルの種類と使い方。筆の種類と使い方。パレットナイフの種類と使い方。キャンバスの種類と特徴。絵の具の乾燥、重ね塗りの技法等々。
 どんな分野でも、まずその道具の種類と使い方を学ぶのが基本だ。それを理解してから、初めて絵を描く。デッサンで既に白から黒までの明度表現は出来ている。いきなり絵の具を全色使うのではなく、最初は暖色(茶)と寒色(ブルー)、白の3色の絵の具で描く。つまり、明度と形、暖色と寒色で表現する訓練である。通常、これが下描きになる。
 これらのトレーニングを経て、初めて複数の絵の具を使って油絵を描く。しかし、日本の小中学校、高校、大学等でも、順を追って油絵を教えるケースは少ない。十分な訓練もしないまま、自由に描かせてしまう。私は、日本の芸術教育は、基礎、トレーニングを軽視し過ぎていると感じている。ファッションデザインも同様である。
 本来ならば、徹底して人体のデッサンやクロッキーを行うべきである。人体を理解せずに、ファッションデザインをすることはできない。そして、美しい人体のバランスについて理解する。この時に、ヨーロッパの古典から現代美術までを俯瞰して、人体に対する美意識がどのように変化していったかを学ぶと効果的だろう。
 油絵のキャンバスが人体ならば、絵具は生地である。生地もまた、油絵と同様に、形と色とマチエール(表面効果)が存在する。平面の絵画と異なるのは、風合い(感触、ハリやコシ、ドレープ性等)が加わることである。服とは、柔らかい布を使った彫刻であると言えるかもしれない。しかし、彫刻と異なるのは、服の中に人間が入って完結するということである。彫刻と同様ならば、服だけで作品として完結するが、服は人間が入ってこそ完結するのである。その意味では、建築に近いかもしれない。柔らかい布の建築である。そして、建築と同様、服にも生活し易いように快適な温度や湿度に調整する機能、人体を保護する機能等が求められる。
 ヨーロッパでは建築が総合芸術とされる。建築の中には、絵画、彫刻の要素が全て包含され、そこに人間の生活が加わる芸術領域である。東洋では陶芸が総合芸術とされる。同様に、陶器の中には絵画があり書がある。そして、造形があり、作者の精神性が使い手の生活の中にも深く影響する。
 こうした総合芸術の定義の違いにも、西欧と東洋のファッションの違いが表れているのかもしれない。
 服は同じパターンでも、素材によってシルエットが変化する。小さい生地見本から、大きな生地を想像し、シルエットを想像しなければならない。とにかく、最新の素材をできるだけ多く、触り、指に感触を教え込むことが必要である。
 現在のファッションを考えると、素材は織物(布帛)だけとは限らない。ニットファブリックがますます重要になっている。また、トリコット、ラッセル、様々なテクニックのレース等も重要である。更に基本的な染色、刺しゅう、後加工についても実際の見本を見て、触ることで覚えてほしい。

4.プロトタイプの設定とデザイン展開

 クチュリエを育成するならば、お針子から始めるのが基本になる。まず、縫製を学び、次にパターンメーキングを学ぶ。日本では家庭洋裁からスタートしたため、囲み製図が基本となった。パリは立体裁断が基本である。イタリアのモデリストは、テーラー出身者が多く、後から婦人服も学んだという人が多いようだ。
 私は、プロデザイナー育成のコースでは、最初から立体裁断で良いと考えている。
 プロのパターンメーカーを育成するなら、自由度の高い立体裁断と、効率の良いヒップラインまでカバーしたスローパーを基本とした平面作図を教えるべきではないか。プロという視点では、簡単に原型をつくることよりも、ブランドイメージとゆとり配分、カバー率とグレーディングの関係を学ぶべきである。
 既製服のデザイナーは、一点ものの作品をつくる仕事ではない。まとまりのあるコレクションをつくる仕事である。従って一点ずつのパターンと縫製からスタートするのではなく、最初からプロトタイプからのデザイン展開、パターン展開から始めるのが有効ではないだろうか。
 勿論、プロトタイプを作成する前に、シーズンテーマ設定を十分に演習するべきだろう。そして、最初はテーマに基づいたプロトタイプを一つ作り、そのデザイン展開を行う。
 様々なテーマを与えながら、テーマと服の関係性を理解していく。一つは、トワルまで作り、残りは生地を添付したスタイル画だけでも良いと思う。

5.ブランドコンセプト、ブランドPRブックの制作

 続いて、ブランド開発について、教えなければならない。デザイナーは、クリエイティブディレクターと言われることが多くなっているが、これは服をつくるデザイナーの仕事だけではなく、プロモーション、情報発信、イベント、ショップデザイン等のディレクションにも関わるためである。
 ブランド開発では、ブランドコンセプト立案が重要になるが、日本国内のアパレル企業では、社会情勢、流通変化、消費者の嗜好変化、競合ブランド分析、ポジショニング等から、ブランドコンセプトを立案することが多い。こうした論理的なアプローチは、ブランドコンセプトを含む企画書が売場攻略のためのマーケティングツールとして使われるためである。しかし、直営店戦略やFC展開が中心になっている現在では、流通へのアプローチより、メディアを通じた情報発信や消費者の感情に訴求するようなコンセプトが求められるだろう。論理的なアプローチより、感覚的、感情的に訴求できるビジュアルな表現が重要になる。
 こうしたビジネスの変化から考えると、言葉ではなく、画像や映像でイメージを表現するトレーニングを主体にカリキュラムを組み立てた方が良いだろう。
 ブランドPRブックのイメージは、言葉の説明は最小限にして、ビジュアルでブランドコンセプトを伝える冊子である。写真集、絵本のようなイメージと理解していただいてもいい。あるいは、最初からプロモーションビデオの制作を課題にしてもいいかもしれない。
 これからのファッションデザイナーは、単にファッション商品を企画するのではなく、ブランドを創造することが求められる。そのためには、グラフィックデザイン、プロダクトデザインの基本も必要になるだろう。
 いずれにせよ、現在のファッションデザイナーに求められている知識、ノウハウ、技術を短時間で全て教えることは難しい。むしろ、いくつかのコースを用意して、個人の適正に合わせた時間配分が必要ではないか。グラフィックに優れていれば、そこから発展したファッションデザインが可能だし、カラー構成が得意なら、カラーに特徴のあるデザイナーを目指せば良い。また、素材の良さや仕立ての良さで勝負す正統的なデザイナーもいいだろう。あるいは、話題作りやプレゼンテーションに優れていれば、独自のPRでブランド構築するのも可能だろう。
 今後のプロデザイナー教育は、画一的なカリキュラムではなく、学生の時から自分の強み、得意分野を強く意識して、個性的なデザイナーを目指すことが重要になるだろう。現在の教育は、規格化と分業化という大量生産大量販売の思想が基盤になっている。確かに、高度経済成長時代の日本においては、優秀な人材を大量生産するニーズが高かった。しかし、現在の経済状況から判断するに、最早、画一的人材育成の時代は終わっている。むしろ、個々の才能を活かし、各自が個性溢れるプロの表現者として仕事ができるような教育を目指すべきと考えている。

*有料メルマガj-fashion journal(34)を紹介しています。本論文は、2012.7.23に配信されたものです。リアルタイムでの講読をご希望の方は、http://www.mag2.com/m/0001355612.htmlよりお申し込みください。
 

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