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May 28, 2012

ICTとファッション j-fashion journal(16)

「ICTとファッション」

1.デジタルがデザインに与える影響
 コンピュータで画像、音声、文章等のあらゆるデータが扱えるようになった結果、音楽、デザインの現場も大きく様変わりした。かつては、作曲やデザインは「無から有を生み出すこと」だった。そのためには、基本技術を学ぶ必要があった。
 音楽であれば、最初に楽器の練習や五線譜の読み方を学び、作曲を行う。心の中にメロディーが浮かんでも、それを譜面に表現することは困難だ。
 デザインも画材の使い方や色彩、構図等のデザインの基本的な技術と知識の習得をしないかぎり、構想を表現することはできない。心の中に浮かんだ優れたデザインを具現化する技術が必要だったのである。

 しかし、デジタル技術は、サンプルをコンピュータに取り込むことができるようになった。
 音楽であれば、既存の楽曲のリズムやコード進行をコンピュータに取り込むことができる。それを聞きながら、ラップのように歌を吹き込んで録音すれば、譜面に表現しなくても楽曲はできる。音を譜面に表現する技術よりも、音楽を創造することが重要になるのだ。
 デザインならば、既存の画像、写真、イラスト等を取り込み、それをアレンジしたり、コラージュすることで新たな作品を生み出すことができる。
 つまり、コンピュータを活用することで、「無から有を生むクリエーション」だけでなく、「有から有を生み出すクリエーション」が可能になったのである。 また、デザインは、対象となる商品や表現技術により、様々な分野に分かれていた。例えば、グラフィックデザインは平面デザインを印刷物にすることが多いので、印刷や版下製作の知識や技術が必要だった。ファッションデザインは、素材、人体の構造、パターンメーキング等の知識やファッションイラストの技術が必要である。
 しかし、全てのデザインがコンピュータ上で行えるようになった現在では、専門的な知識や技術がなくても、デザインを行うことはできる。本当に必要なのは、センスや感性、顧客心理や市場動向を把握し、正しい方向にディレクションすることであり、構想を具現化する技術ではない。
 ファッションデザインは、オーダーメイドのクチュールから始まり、既製服デザインへと変化した。ここで、デザイナーとパターンメーカーに分業化した。更に、現在では既製服だけでなく、様々なアイテムのライセンスビジネスへと広がっている。デザイナーは、ブランディング、ショップデザイン、プロモーション、シーズンテーマの決定、シルエットや素材の選択等、多岐にわたる仕事をこなさなければならない。
 コンピュータの進化、インターネットの出現は、ビジネスだけを変えるのではなく、デザインやクリエーションをも大きく変化させているのだ。

2.コンピュータ活用による一点生産
 コンピュータのモニター上で作成したデザインは、デジタル情報であり、それを機械とつなげることにより、ダイレクトに商品化ができる。
 例えば、コンピュータ以前のジャカード織物は、織機の縦糸の上げ下げをコントロールするためにパンチングした紋紙を使っていた。この紋紙の穴の位置を読み取ることで、縦糸の上下をコントロールしていた。紋紙の大きさ、パンチングできる範囲の面積により、柄の大きさは制約された。また、一度パンチングした柄を修正することは大変な作業だった。
 それがコンピュータジャカードになってから、画期的に柄を組むスピードが早まり、修正も簡単にできるようになった。パソコン上のCADで柄を組み、あたかもプリンターで印刷するように、ジャカード織物を織ることができる。同様に、コンピュータジャカードの編機、刺しゅう機であれば、そのまま柄を表現することができる。
 島精機のホールガーメンント編機なら、糸から直接ニット製品に加工することができる。それまで不可欠だったリンキングや縫製をすることなく、直接製品になる。つまり、コンピュータから次々とデータを送れば、デザインの異なる製品が次から次へと自動的に生産することができるのだ。
 これまでの大量生産システムは、作業の標準化と分業によって効率化を図り、コストダウンを実現したが、今後は自動プログラミングと効率的な商品企画により、一品生産でもコストダウンが図れるようになるだろう。また、機械の自動化が進めば、人件費の低い国々で生産する必要もなくなる。最も消費地に近い地域で生産し、販売することができるだろう。
 デジタルプリントは、インクジェットのプリンターそのものである。まだ、コストが高いが、次第に機械の価格も下がっている。インターネット経由でデータを送れば、イタリアで描いたデザインが、中国のプリンターから出力することも可能だ。最早、原産国表示は意味をなさなくなりつつある。

3.インターネット活用によるグローバルオペレーション
 インターネットは地理的距離をゼロにする。自分の部屋にカメラをつけておけば、世界中のどこからでもインターネットを通じて、部屋の様子を見ることができる。知人の社長は、海外出張先から会社の様子を観察して、国際電話で指示を与えている。
 世界中のショップの売上をリアルタイムで確認することも可能である。海外工場の稼働状況をチェックすることも可能である。
 デザイン画をメールに添付することも、パターンCADのデータを転送することも可能である。道具は揃っているが、我々の仕事のやり方や組織の作り方がついていっていないだけだ。
 デザイナーは商品に関するメッセージをYouTubeに上げておいて、店頭でダウンロードすることも可能だ。ファッションショーの動画をリアルタイムで店頭のデジタルサイネージに投影することもできる。
 海外工場とのやりとりも以前はFaxだったが、現在はSkypeで朝から晩まで話し続けても国際電話料金は発生しない。
 これまでは製造業の海外流出により雇用が減少したが、今後は経理などの事務作業もBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)により、海外に流出するかもしれない。既に、コールセンターを中国に移転している例は多いのだ。
 日本の中小企業は技術と経験はあるが、資金力や営業力が弱い。例えば、日本の中小企業でサンプルを制作し、そのデータとサンプルを中国の量産工場に送り、量産する。その代わり、日本の中小企業が一定のライセンス料を受け取るという仕組みはできないだろうか。
 あるいは、日本にいながらにして、世界中のショップのVMDをコントロールすることはできないだろうか。
 あるいは、3次元データのスキャナーを使って、日本で採寸し、ナポリでスーツを仕立てることはできないだろうか。

4.アバターとバーチャルファッション
 アバター(avatar)とは、オンラインゲーム等で自分の分身として用いられるキャラクターである。仮想空間で服やアクセサリーを購入したり、誰かにプレゼントすることができる。購入したアイテムは、自分のクローゼットに保存しておくことができる。仮想空間上のアイテムなので、アナログの世界では全く意味がないが、仮想空間によりリアリティを感じている人も少なくない。
 可愛い少女のアバターであっても、中年の男性かもしれないし、老人のアバターでも子供かもしれない。ネット上のコミュニケーションはあらゆる制約から自由に解放されるところが魅力なのだろう。
 現実に販売されている服やアクセサリーをアバターに着せることも可能であり、通販サイトでアバターでコーディネートを確認するサービスもある。
 私がアバターに魅力を感じたのは、デジタルデータならリアルな素材や工場がなくても、自分のコレクションを作ることができるということだ。資本力のない若者でも、バーチャル空間でビッグなデザイナーになれるかもしれない。また、仮想空間でファッションショーを発表し、その作品を売買することも可能だろう。コスプレの衣装のように、バーチャルからリアルな世界に飛び出して来るかもしれないし、逆にリアルな服がバーチャル空間で売買されるかもしれない。
 書籍が電子化されれば、書籍という物体はなくなるが、デジタルデータで作品は残る。それをタブレットやスマホで読むことができる。同様に、ファッションも服という物体はなくても、デジタルデータでデザインを残すことはできるだろう。それを着用するのは、アバターであり仮想空間の中では実際に着用することができるのだ。
 デザインそのものがデジタルデータ化され、それをバーチャル空間で売買する。そのデザインの製品化する権利がついていれば、通常のデザイン契約と何ら変わらない。もっと自由にデザインを発表し、売買できるプラットホームがあればファッションの世界も活性化するに違いない。

5.ネット上のファッションショー&展示会
 今後、ファッションショー、展示会ばどのように変わっていくのだろうか。
 既に、デジタルカメラで撮られたコレクションの写真は、翌日にはWEB上にアップされる。詳細な画像もその日の内に全てインターネットを通じて送信され、一晩で編集し、翌日には印刷される。高性能のデジタルカメラなら、織組織やプリントやジャカードの図案をコピーすることも容易である。そして、本物の商品が店頭に出る前にコピー商品が店頭に並ぶことさえあるのだ。
 しかし、ファッションショーの写真を完全にコントロールすることはできない。元々、ファッションショーはプロモーションの場でもあり、それをコントロールすることは本来の目的を達成できなくなるだろう。
 ファッションショーはブランドのプロモーションであり、商品受注会は展示会で行うという棲み分けも可能だ。この場合のファッションショーは動画でも良いのかもしれない。動画なら、大勢のモデルを使う必要もないし、会場費用等も必要ない。静止画が必要ならばダウンロードできるようにしておく。
 有名メゾンがインターネット上でファッションショーを行う必要はないかもしれないが、新人デザイナーやベンチャー企業はインターネット上のコレクションも考える余地はあるだろう。
 動画によるネット上のファッションショーならば、ファッション雑誌のように毎月行うのはどうだろうか。例えば、店頭の3カ月前にネットでファッションショーを行い、注文を受ける。バイヤーに発注させるだけでなく、直接、顧客に発注させても良いかもしれない。
 顧客が携帯で服を購入する時代であることを考えれば、ネット上のファッションショー、ネット上の展示会もあり得るのではないか。限定数を設定して、ネット上のオークションのように受注を行えば、ゲーム的な楽しさもあるだろう。
 あるいは、テレビショッピングのような番組を制作して、商品の説明を行う。ジャパネット高田のように自社でスタジオを作るのは大変だが、USTREAMと静止画ダウンロードで良いなら、設備投資もそれほど掛からないはずだ。
 ICTはファッションビジネスを大きく変える可能性を持っている。繰り返すが、道具は揃っている。あとは、構想力と実行力だけだ。

*有料メルマガj-fashion journal(16)を2カ月遅れで紹介しています。本論文は、2012.3.19に配信されたものです。リアルタイムでの講読をご希望の方は、http://www.mag2.com/m/0001355612.htmlよりお申し込みください。

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