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April 02, 2012

グローバル人材の育成 j-fashion journal(7)

「グローバル人材の育成」

(1)繊維ファッション業界のグローバルビジネス

 明治以降、日本は輸出によって経済発展をなし遂げた。特に、繊維製品は最も早く海外市場に浸透し、商社も世界中に販売ネットワークを構築した。
 しかし、1971年に日米繊維交渉が決裂し、アメリカからの圧力により日本政府は繊維製品の対米輸出を自主規制する。
 加えて、1973年、79年の二度の石油ショック、1985年のプラザ合意以降の円高の進行等により、大手紡績や合繊メーカーは、次々と生産拠点を海外(東南アジア、南米、中国等)に移転した。 

 国内では、輸出から内需へと構造的転換が行われ、繊維産業の主役は紡績、合繊メーカーからアパレル企業へと交代する。1970年代、80年代、日本のアパレル企業は急激に成長し、世界的な規模を誇るようになる。
 1972年の日中国交正常化、1978年の中国経済特区設置、1992年の鄧小平による南巡講話等により、中国は改革開放政策を強め、90年代からアパレル縫製業も中国移転が進み、中国製品の輸入が急増した。
 90年代半ばになるとバブル崩壊の影響が顕著となり、株価、地価が下落、消費市場も冷え込んでいく。中国生産による激安商法が定着し、繊維製品の価格水準は大幅に下落した。その結果、デフレスパイラル型の不況となった。同時に、日本国内の繊維関連製造業の淘汰が進んだ。
 2001年の中国WTO加盟以降は、成長する中国市場への門戸が開かれ、世界中の企業が中国市場へと殺到している。
 日本国内の状況を見ると、少子高齢化が進み、2005年には日本の人口が初めて減少に転じた。日本のアパレル企業も、成長を見込めない日本国内市場だけでなく、海外市場進出を考えざるを得ない状況になっている。特に成長著しい中国市場への進出は、業界全体の大きなテーマと言えるだろう。
 しかし、多くのアパレル企業は日本国内市場で成長したため、海外市場でビジネスをした経験がない。中国市場においても、日本国内で成功した手法を持ち込んだが、苦戦しているのが現状である。
 繊維ファッション産業を歴史的に見ると、かなり早い時期に、世界各国に輸出を実現している。しかし、人件費の高騰、円高の進行、新興工業国の成長等により、輸出競争力が弱まっていった。同時に、日本国内市場で販売する商品も輸入品が主体となり、国内製造業の淘汰が進んだ。そして、国内市場に特化した形で成長したアパレル企業が、今度は海外市場進出を目指そうとしている。現在は、この段階である。

(2)グローバル人材は本当にいないのか?

 「海外市場を攻略しなければならないが、経験者がいない。そこで、グローバルビジネスに対応できる人材(=グローバル人材)を育成しなければならない」というのが、繊維ファッション業界の声である。もっともらしく聞こえるが、私にはよく分からないところがある。
 以前から、アパレル業界では「ビジネスが分かるデザイナーが必要だ」「優れたマーチャンダイザーが必要だ」等と言われている。テキスタイル業界では、「真のテキスタイルデザイナーが必要だ」と言われてきた。そして、業界を上げて教育機関を作り、教育プログラムを検討し、何度となくシンポジウムを行い、提言をまとめてきた。「人材という言い方は良くない。人財と言うべきだ」という意見もあった。
 しかし、私にはデザイナー、マーチャンダイザー等が育ったようには見えない。そして、今度はグローバル人材と言い始めている。「なぜ、いつも人材育成がテーマとなるのか。そして、なぜ人材は育たないのか」という根本的な部分を考えなければならないと思う。そうしないと、常に理想の人材を定義し、人材育成の必要性を提言して終わってしまうからだ。
 まず、本当にグローバル人材はいないのだろうか。例えば、中国ビジネスを行うならば、中国市場をよく理解し、中国語が話せる人材が必要だ。インターネットやパソコンの知識もビジネスには必須だろう。英語もできた方がいい。日本人だけを対象に考えれば、こうした人材は少ないかもしれない。しかし、中国人に対象を広げれば、こうした人材に困ることはない。
 中国法人では、現地採用の中国人社員も少なくない。しかし、「中国人社員は1~2年で退職してしまう」という日系企業の嘆きも耳にする。
 その原因は大きく二つある。第一は、管理職を日本人が独占しているため、出世する見込みがないこと。第二は、欧米系企業と比較して、日系企業の給与水準が低いこと。つまり、待遇と報酬をグローバル水準にすれば、人材不足の問題は解決するだろう。
 そもそも給与水準が低いのは、企業の収益性が低いからである。これは人材の問題ではなく、経営の問題だ。人材の問題というならば、経営者の人材不足というべきだろう。
 
(3)「人材スカウト」ができない企業体質

 私は、これまで多くの企業と付き合ってきた。新規事業や新プロジェクトが失敗する最大の原因は、担当者に十分な経験や能力がないことである。「できない人にやらせるから失敗する」という、至極当然のことなのだが、それを繰り返している。
 私はコンサルタントであり、専門的なアドバイスを行うのが仕事だ。中国市場進出については、10年近く研究を重ねている。数多くの中国人経営者と面談もしているし、中国企業も訪問している。中国の若い世代の人達とも付き合いがあり、彼らの思考も日本人との違いも理解している。中国繊維ファッション業界の構造、代理商等のビジネスモデルについても理解している。従って、中国で成功する企業、失敗する企業の見極めもつくし、有効なアドバイスも可能である。
 多くの場合、私に相談に来るのは手遅れになってからである。最初に来てくれれば、それほど巨額な赤字は避けられたと思うのだが、そうはならない。
 多くの場合、有り合わせの社内人材だけで事業をスタートする。十分な経験や知識を持つ外部の人材をスカウトするのではなく、未経験者であっても社内人材で事業を行う。経験も知識もない人材で事業を開始するということ自体が間違いなのだ。事業を推進するに足る人材がいなければスカウトすればいい、という発想がない。2~3回、セミナーを聞けば、それで事業ができると思ってしまう。下手をすれば事前の調査も学習もしない。とにかく、できる範囲でやってみよう、ということでスタートして失敗する事例が非常に多いのである。
 中国事業に限らず、事業の責任者の人事が成功の鍵を握っている。社内組織上の序列や役職に関係なく、個人の能力が重要なのだ。中国企業のトップは皆若い。若くて柔軟な思考ができないと、常に変化を続ける中国市場でビジネスするのは困難である。日本での過去の成功体験はほとんど役に立たない。役に立たないというより邪魔になることが多い。
 日本企業は新規事業を行う場合、予算だけでスタートすることが多い。「人、モノ、金」の金だけしか考えない。商品も日本で販売している商品をそのまま持っていく。人材も社内人材を充てる。そんなビジネスが成功するはずがないことは、客観的に考えれば分かるはずである。
 私のような外部人材を活用できないのは、「金がないから」と言われる。実際には、「金がない」わけではない。役に立たない人材に給与を支払っているので、役に立つ人材を雇うことができないのである。あるいは、管理職が多過ぎて、現場で働く人材が足りず、経費が多く利益が少ない企業体質と言い換えてもいいだろう。

(4)グローバルな「評価と報酬」システム

 グローバル企業とは、国籍にこだわらずに優秀な人材を活用し、国境にとらわれず、グローバルなスケールで企画、生産、販売、サービス等をビジネスとする企業である。グローバル企業は、世界中から優秀な人材を集め、優秀な人材はグローバル企業を目指す。
 最近になり、社内公用語を英語にするという動きが見られる。それもグローバル対応の一つの方法だが、反対に社内公用語を日本語として、日本語が不自由なく使えれば、国籍を問わずに採用するという考え方もある。国際ビジネスの重要な共通言語が英語であるのは間違いないが、英語も一つの言語である。言語にとらわれないという考え方もあるだろう。
 言語以上に重要なのは、グローバル企業は、国籍、性別、年齢等で差別してはならない、ということである。日本にも男女雇用機会均等法はあるが、欧米や中国のように徹底していない。
 年功序列給は日本独自のシステムであり、徹底した終身雇用が約束されない限り、海外では使えない。定期昇給を約束することもトラブルの元になる。同じ仕事に対しては、年齢、性別、障害のあるなしに関わらず、同じ報酬というのが原則だからだ。
 勿論、新卒採用を優遇するのも日本独自の習慣である。欧米では、キャリアを変更するために、大学に通い直すことは珍しくない。従って、新卒と言っても、様々な年齢、キャリアを持つ人がいる。それぞれ個人を評価すべきであり、年齢や学歴で十把一絡げに評価してはならない。
 日本企業では、能力主義、実績主義が根付きにくい。中途半端に導入し、失敗した事例も多い。しかし、グローバル企業になるには、その壁を乗り越える必要がある。
 そして、社員規定や労働契約についても、グローバル化する必要がある。曖昧な職制や責任範囲ではなく、明確な役割分担と業務フローを提示し、評価方法を示し、契約を交わさなければならない。
 優秀なグローバル人材を活用するには、企業がグローバルに変わらなければならない。グローバル人材を育成しても、現状のままでは、日本企業ではなく外資系企業を選ぶ人が多いだろう。

(5)「人材育成」に逃げてはならない

 私が、「人材育成」という言葉に違和感を感じてしまうのは、会社そのものを変革することなく、人材育成だけで問題が解決するという前提が感じられるからだ。業界で論じられる「人材」のイメージは、低い賃金で会社に忠誠を誓う「滅私奉公型人材」ではないだろうか。
 私の「グローバル人材」のイメージは、もっとしぶとい。複数の会社でキャリアを積み、プロとしての自分の能力を高める。そして、最終的に最高の仕事と報酬を目指す。会社が個人を選ぶのではなく、個人が仕事を選び、そのための会社を選ぶ。そんな「グローバル人材」が滅私奉公型であるわけがない。人間の一生は限られている。限られた時間の中で最高のパフォーマンスを出すことを考えるからだ。
 「人材育成」という言葉は、人材がいないから事業が成功しない、という言い訳にしか聞こえない。また、日本独特の平等主義も感じられる。人間の素質や才能には大きな差がない。理想の育成プログラムを作れば、理想の人材が育つという発想が見え隠れしている。
 しかし、人材とは様々な環境の中で成功と失敗を繰り返し、現場で育つものではないだろうか。勿論、その人の素質や才能も非常に重要であるし、仕事との相性もあるだろう。たった一人の人間との出会いや励ましによっても、人は大きく成長するものだ。
 私は「人材育成」の重要性を否定しない。現場に適応した教育プログラムは重要である。常に最新の情報を吸収することも重要だ。しかし、それ以上に重要なのは、なるべく若いうちに責任ある仕事を任せ、経験を積ませることだろう。そして、仕事に対するモチベーションを高められるような、評価と報酬システムが必要である。
 人材とは育成するものではない。自己を高める意志を持つ個人が成長できるような環境を整えることが、結果的に人材育成につながるのだ。また、人材育成は企業のために行うのではない。優秀な人材を一つの企業に縛ることはできないからだ。優秀な人材が育てば、どの企業に所属していても業界が強くなる。勿論、起業も推奨すべきだ。「人材育成」の目的は公益とするべきである。

*有料メルマガj-fashion journal(7)を2カ月遅れで紹介しています。本論文は、2012.116に配信されたものです。リアルタイムでの講読をご希望の方は、http://www.mag2.com/m/0001355612.htmlよりお申し込みください。


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