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January 23, 2009

日中アパレル連携の新時代の予感

[要点]
・2008年9月3日、東京ミッドタウンホールにおいて、中国人メンズデザイナー計文波氏が東京コレクション初となる「LILANZ(リーラン)2009年S&Sコレクション」を発表した。
・LILANZ(リーラン)は、日本のノウハウを活用して、世界レベルの企業への脱皮を考えている。その第一が素材開発チームの組織化、第二が日本人デザイナーの起用である。
・日本と中国のコレクションは、手続きや運営方法に大きな違いがある。計画に忠実に動く日本人と、変更を繰り返しながら完成度を高めていく中国人との相互理解は難しい。
・多くの日本人デザイナーは、ヨーロッパと異質のストリートファッションやリアルクローズで勝負しているが、多くの中国人デザイナーは正統派のラグジュアリーファッションを志向している。
・日中のビジネス連携には、日中両国に、人脈のある専門家とバイリンガルの日中混成チームを置き、それぞれが連携することが必要。
・日本での素材開発、新ブランド開発、旗艦店運営、東京コレクション参加の拠点を、ライセンスビジネスという形で集約できるのではないか。
・ブランド単位でサプライチェーン全体を認証することが求められている。それをライセンス生産契約という形で組織化する可能性がある。


◆JFWに中国人デザイナーが初参加 
 2008年9月3日13時、東京ミッドタウンホールHall Aにおいて、中国人デザイナーとしてJFW(東京コレクション)初参加となる「LILANZ(リーラン)2009年S&Sコレクション」が開催された。デザイナーは計文波(JI WENBO・ジウェンボー)。今年、50歳を迎える中国ファッションデザイナーの重鎮であり、現役の一流デザイナーである。
 北京五輪の熱狂の余韻が冷めやらぬ時期でもあり、中国人デザイナーの東京コレクションデビューには注目が集まった。来日時から北京のテレビ局が密着取材、当日はNHK国際放送が朝から密着、リハーサルからはロイター通信のテレビ班が加わった。広い会場は観客で埋まり、立見もギッシリという状態だった。
 中国の伝統楽器の音が響き、ショーがスタート。唯一の女性モデル、莫万丹(MoWanDan)が黒いドレスで現れると、会場の空気がピンと張りつめる。彼女は、現在、パリ、ミラノ、ニューヨーク等で最も人気の高い中国のトップモデル。今回のコレクションに出演するために、計文波と共に来日した。
 次々とステージに登場する男性モデルは全て185㎝以上。中国から連れてきた男性トップモデル15人と東京のオーディションで選んだヨーロッパ人と日本人モデルによって構成されている。
 今回の計文波のコレクションでは、中国の世界遺産「兵馬俑」をモチーフに丹念な服づくりを見せていた。細部までこだわり、手を抜かない姿勢は観客にも伝わり、日本初コレクションに緊張の色を隠せないモデルの表情と相まって、会場全体が次第に熱を帯びてくる。
 緊張の解けぬまま、再び莫万丹が白いドレスでステージに登場する。ステージ最前部で大きなポーズを取り、ゆっくりとターン。フィナーレは控えめな音楽で淡々とモデル全員が登場する。会場全体が息をつき、静かな拍手が続く。全てのモデルが退場した後、デザイナーの計文波が控えめにステージに登場し、お辞儀をして、手を振りながら戻っていった。
 ショー後、会場に現れた計文波を20人以上の記者とカメラが取り囲み、取材が行われた。結局、45分近く取材は続いた。ショーの時間は15分、取材が45分。計1時間のデビューステージだった。

◆日本のノウハウを吸収して、国際レベルの企業へ
 計文波がチーフデザイナーを務めるLILANZ(リーラン)は、1990年に福建省でスタートし、現在では中国全土に2800店舗を構えている。現段階では、中国国内市場のみの展開であり、海外市場への進出はない。
 2007年ミラノコレクションに中国人デザイナーとして初参加、2008年東京コレクションに中国人デザイナーとして初参加という国際的なステージでの活動を続けているのは、中国国内向けのプロモーションが主たる目的である。LILANZ(リーラン)は近い将来、香港に上場することを計画しており、世界の一流デザイナーによる一流ブランドというブランドイメージの確立を目指しているのだ。
 しかし、彼らは、イメージ訴求のためだけで、日本でコレクションを行ったのではない。日本のノウハウを活用して、世界レベルの企業への脱皮を考えている。多くの中国アパレル企業は、内部体制が固まらないままに、急激な成長を遂げた。しかし、今後は国内外の企業との熾烈な競争が待っており、なるべく早く国際水準の企業にレベルアップする必要がある。
 その第一の手段が、「日本素材による差別化」だ。LILANZ(リーラン)は、日本に自社の素材チームを組織化したいと考えている。2007年のミラノコレクションで使用した素材の半分はパリのプルミエールビジョンで調達した日本素材だったという。高品質な日本素材を使うことにより、競合他社と差別化を図りたいのだ。
 第二は、「日本の若手デザイナー登用」である。計文波は「もし、日本でビジネス展開をするのならば、日本人デザイナーを起用したい」と語っている。これは単純に日本市場を熟知している日本人デザイナーの起用という意味だけでないだろう。日本人デザイナーと契約することにより、日本に人的な拠点を設け、日本に蓄積しているファッションビジネスのノウハウを吸収したいと考えているに違いない。
 LILANZ(リーラン)は、日本のソフト、人材を活用することにより、世界に通用するアパレル企業確立を目指しており、今回のコレクションはその第一歩といえる。

◆日中コレクションの違い
 今回、私は縁あって日本側でコレクション準備のコーディネート及びプレス担当業務を行った。この中で日中のコレクションの違いを痛感した。
 まず、今回の東京ミッドタウンホールHall Aという会場は、約650席の東京コレクション最大の会場である。当然、会場費も高い。私は、約250席のラフォーレ六本木の会場を勧めたのだが、最終的には東京ミッドタウンに決定した。「どうやって集客するつもりだろう」と思っていたのだが、結果的には集客のことは何も考えていなかったことが、後で判明した。
 中国では一流デザイナーは最大の会場でショーを行うというのが最大の理由なのだが、中国のコレクションの運営にも原因があった。
 北京コレクションでは、チケットの9割を主催者である中国服装設計師協会が管理をする。各メゾンは1割程度しか割り当てられない。中国のファッションショー人気は高く、ショーを見たい人は大勢いる。ほとんどのチケットは手渡しで捌けるのだ。
 VIPである政府関係者は、最初から指定席で席に名前が書いてある。プレスは北京コレクションの共通記者証を持っており、これがあればどのコレクションにもフリーパス。
 また、基本的に中国のコレクションはプロモーションが目的であり、バイイングが目的ではない。したがって、特にバイヤーを優遇することはない。有力な代理商等は1割のチケットで招待する。
 つまり、中国ではチケットをプレスやバイヤー郵送するという習慣がない。また、受付も存在しない。入り口に警備員が立っていて、チケットを確認するだけだ。
 つまり、彼らは集客の苦労をしたことがないのだ。一流のデザイナーが最大の会場でショーを行えば、観客は簡単に埋まるという発想なのである。
 招待状をプレス向け、バイヤー向け、一般向けに分類するという発想もないし、郵送することも想定していない。今回のコレクションチケットは驚くほど小さいものだったが、それは郵送を想定していなかったためである。
 モデルのフィッティングも日本と中国では進行方法が全く異なる。中国では、モデルを全員呼び、選んだらその場でフィッティングを行う。この段階では、作品の出演順も決まっていないし、何体出すかも決まっていない。モデルを見て、服を着せながら、全体の構成を作り上げていくのである。
 日本ではオーディションでは写真を撮るだけで、後で決まったモデルを呼んでフィッティングを行う。その場合も、作品の出演順、点数は全て決まっており、ほとんど変更はない。
 日本は全ての計画を立ててから、その通りに行動する。中国は進行しながら、変更と修正を繰り返し、最終的に最良なものを目指そうとする。
 今回のコレクションの現場は、日本人と中国人の混合チームであり、互いに戸惑うことが多かったようだ。日本人から見ると、中国人は計画変更を繰り返す計画性と協調性のない人間に見える。中国人から見ると、日本人は柔軟性のない人間に見えるのだ。それでも、最終的には現場で真面目に仕事をする日本人スタッフに中国人スタッフも感銘を受けたようだった。フィナーレが終わったときには、バックヤードのスタッフ達は感激で涙を流していた。

◆ラグジュアリーを目指す中国人デザイナー
 今回、印象的だったのが、計文波氏が理想とするモデル像と東京コレクションで人気のあるモデル像に大きな差があったことだ。
 計文波氏が選んだのは、あくまで正当な美男子モデルだった。身長は185㎝以上でプロポーションが美しく、顔だちは上品でハンサムな男性。しかし、彼が望むようなモデルは、あまり東京には来ていない。モデルの水準が低いわけではなく、東京コレクションの性格に要因がある。
 東京コレクションでは、ストリートカジュアルのようなリアルクローズを発表するデザイナーが多い。背の高いモデルよりも、既成サイズが着られる小柄なモデルが好まれる。また、少し不良っぽい印象を持つ人や個性的な顔だちを好む傾向にある。当然のことだが、東京に来るモデルは東京のデザイナーが好むタイプが集中するのだ。
 こうしたモデルの傾向を見るだけで、東京の独特のポジションがわかる。多分、ヨーロッパで人気のあるモデルが来日しても、東京のデザイナーにはウケないだろう。
 東京はヨーロッパと異質な独特のファッションを発信している。ヨーロッパから見るとアバンギャルドと言われるような個性がある。
 中国のデザイナーも、中国文化を大切にしているが、それはあくまでモチーフに中国的なものを使うだけである。あくまでコレクションの主役はソワレ(イブニングドレスのような夜の服)であり、昼間のカジュアルではない。中国のデザイナーは、ラグジュアリーなコレクションが基本であり、日本はリアルクローズが中心だ。
 個人的な印象かもしれないが、北京コレクションと東京コレクションを比較すると、中国の方がヨーロッパに近い印象を受ける。中国はロシアやヨーロッパと地続きであり、昔から文化的な交流もあった。服も立体的な構造であり、椅子とベッドの生活が中心だ。
 日本は隔離された島国であり、鎖国の間に独自の文化を熟成している。湿気の多いモンスーン気候は、高床式の家に畳を敷きつめるという南アジアの文化を継承している。きものは独自の平面的で開放的な構造を持っており、ヨーロッパとは全く異質だ。 コレクションを見ていると、東京は世界のニッチ市場を狙い、中国は世界の主流を目指すような印象を受けるのである。

◆日中連携を促進するビジネスモデル
 今回のささやかな経験を通じて確信したことは、「中国人デザイナーが単独で日本に来ても東京コレクションに参加することは難しい」ということだ。 今回は、中国側に岩野莉さんという中国人コーディネーターがいて、日本側に私という日本人コーディネーターがいて、二人が連携して動いたからこそプロジェクトが進行した。と言っても、二人の力だけではなく、それぞれの人脈の中にあらゆる方面のプロフェッショナルがいて、その協力があったからこそ成功したのだ。そうでなければ、最初の申請の段階で諦めていただろう。
 このことは、あらゆる場面で言えることではないか。海外展示会出展、海外イベント参加、そして海外でのビジネス。勿論、グローバルな市場で活躍している企業であれば問題ないのかもしれない。しかし、日本も中国もグローバルな経営を行っている企業は少ない。中国人社員を雇用している日本企業、日本人を雇用している中国企業もまだまだ少数である。
 特に、日本と中国は考え方が全く異なっているために、業務上の問題というよりコミュニケーションの問題でつまずいてしまう。今回のコレクションも、日本人だけのチーム、あるいは中国人だけのチームであれば、まだ楽だっただろう。日中混成のチームで動くことが大変なのだ。
 逆にいうと、ここにビジネスチャンスもある。日本と中国に拠点を構え、双方にそれぞれの国に人脈を持つ専門家と、バイリンガルの日本人と中国人の混成チームを置くのである。これにより、日中両国をつなぐビジネスは、よりスムーズになるに違いない。

◆新たなライセンスビジネス
 前述したように、LILANZ(リーラン)は日本にテキスタイル開発チームを組織することを希望している。更に、日本に旗艦店を出店することも視野に入れている。
この二つの課題の解決策について、私は次のように考えている。
 まず、日本に「LILANZ JAPAN(仮称)」という会社を設立する。この会社は、日本における「LILANZ」ブランドのマスターライセンシーとなる。
 LILANZと取引を希望する日本のテキスタイルメーカーには、LILANZブランドのサブライセンシーになってもらう。その企画ディレクションとライセンス管理を「LILANZ JAPAN(仮称)」が行い、その費用はライセンス料でまかなう。
単なる仲介ではなく、ライセンスという形態を取るのは、「LILANZ JAPAN(仮称)」を貿易の差益を取る会社ではなく、ソフトを管理し、ソフトを販売する会社にしたいからだ。
「LILANZ JAPAN(仮称)」が日本市場向けの新ブランドを開発することも視野に入れたい。ただし、日本発のブランドはライセンスビジネスに徹する。紳士服、ニット、帽子、シャツ、ネクタイ、下着、靴下、バッグ、靴等のメーカーにライセンスを供与するのである。そして、旗艦店の一部を新ブランドのショールームとして機能させる。
この新ブランドの特徴は日本だけでなく、中国市場で販売できることだ。LILANZ(リーラン)は既に2800店舗を展開している。その販売網の中に、日本発のブランドを展開することも可能である。
通常のヨーロッパブランドのライセンスは、ライセンサー企業のブランドイメージと企画力を期待するものだ。中国ブランドのライセンスでは、輸出の販売チャンスを期待するのである。そして、ライセンサーであるLILANZ(リーラン)が、中国のショップで展開する商品の品揃えの幅が広がることが期待できるというわけだ。
このように、素材開発、新ブランド開発、旗艦店の運営、東京コレクション参加をライセンスビジネスという形で「LILANZ JAPAN(仮称)」に集約するというアイディアである。

◆ブランドを軸にした新たな連携

ある日本のアパレル企業が中国で商標権侵害の訴訟を起こされた。日本のアパレル企業のブランドを中国企業が中国で商標登録していたのである。しかし、その商品は日本市場で販売するものであり、本来ならば外部に漏れるはずがない。単に書類上にブランド名が記載されていただけなのだ。しかし、中国の裁判所は日本企業を有罪と断定した。
たとえ、全量を日本に持ち帰る場合でも、中国で商標登録を行い、中国工場にはライセンス生産契約を結ばなければならないというのが彼らの主張である。つまり、中国生産する商品は全て中国で商標登録する必要があるというのだ。
ことの是非はともかく、私はライセンス生産契約という概念に注目したい。アメリカやヨーロッパの有名企業では、下請け工場に必ず認証を与えている。それらの工場には誇らしげに、「この工場は自社の製品を縫製加工するに足る設備、技術、管理の能力を持っていることを認証する」という証書が飾ってある。私はサプライチェーンというのはこういうものではないか、と思うのだ。
日本は問屋業態が介在しているため、サプライチェーンを認証したり、公開するという習慣がない。しかし、世界のビジネスの主流は、商品のトレーサビリティと、サプライチェーン全体の企業認証を要求している。
今後、日本と中国の連携にはこうした認証を活用してはいかがだろうか。大企業の系列ではなくても、ブランド毎に信頼できるサプライチェーンを構築し、それを認証することは可能なのだ。それにより、製造責任等が明確になり、企画やコーディネートというソフトの業務に関しても、正当な対価が支払えるようになるだろう。
また、こうした認証と企業連携が、今後のシステム化をも推進していくのではないだろうか。そもそも、企業間の取引とは、価格が安ければどこからでも買えばいいというものではないはずだ。日本国内ならば、それも通用したかもしれないが、同様に海外を相手にするのは危険である。
いずれにせよ、日本と中国の企業が新たな連携システムを構築する時期に来ていることを、今回のコレクションが物語っていると言えそうだ。◆

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Comments

お喋る通りに、中国のメンズブランドは日本市場を狙っているのは多数あります。YOUNGOR、FRIS、FAPAI、SANT ANGELOなどなど。

Posted by: HANDING | April 20, 2009 at 11:49 AM

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