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January 23, 2009

「中国マーケティングチーム」創設の勧め

概要
・大量生産した商品を大量販売するために、消費者とどのようなコミュニケーションを持つかがマーケティングの大きなテーマである。中国生産ビジネスにマーケティングは必要なかったが、中国市場参入にはマーケティングが不可欠である。
・日本では、大手原糸メーカーがアパレルや小売店と連携して、消費者に訴求するために、マーケティング活動を展開した。マスプロモーション全盛の時代には有効に機能したマーケティング活動も時代の変化と共にポジションが低下していった。
・ファッションビジネスの主導権が川上から川下へ移るにつれ、抽象的なマーケティングよりも、合理化や低コストを実現する海外生産や情報システム導入へと企業の軸足は移っていった。
・中国はマスプロモーション全盛の時代であり、中国アパレルは様々な問題や課題に直面している。彼らの直面している問題を解決するようなソリューションサービスが求められている。
・社内だけでなく、アウトソーシングを含めた「中国マーケティングチーム」を創設し、中国市場に参入する企業もチームでプロモーションを行ない、チームで営業活動を進めることを提案したい。

1.中国市場開拓には「マーケティング」が必要
 「マーケティング」は、大量生産商品を大量販売するための戦略として始まった。「マーケティング」の内容は多様であり、広告宣伝、パッケージデザイン、市場調査、商品開発、流通システム、販売方法等、企画生産から販売、サービス、顧客とのコミュニケーションや情報伝達など、あらゆる分野に及ぶ。しかし、「マーケティング」の基本はサプライヤーが最終消費者に商品やサービス、情報を訴求することと言ってもいいだろう。
 中国は日本の製造業のノウハウを導入し、日本市場へ輸出することで経済発展の礎を築いた。日本輸出を行っている企業は、日本人が企画した日本市場向けの商品を生産するだけであり、「マーケティング」は必要なかった。
 日本側も「低廉な中国生産」という新たな生産システムに熱狂し、「マーケティング」への関心は低下した。消費者に安くて品質の良い製品を供給することが、最大のマーケティング戦略であり、中国生産はそれを可能にしたのだ。つまり、中国生産の商品を日本市場で販売するというビジネスモデルにおいては、日中共に「マーケティング」の必要性が希薄だったのである。
 しかし、時代は変化し、中国は世界の工場であるだけでなく、世界の市場として認識されるようになった。つまり、中国生産の商品を中国市場で販売する。あるいは、日本製品を中国市場で販売するという新たなビジネスモデルを模索するに至ったのである。
 これは、中国内販を行っている中国企業も同様だ。輸出向けOEM生産では、マーケティング活動は必要ないが、中国市場で販売するには中国在住の消費者に対してマーケティング活動が必要になる。
 中国のファッション業界関係者と話していると「日本企業はプロモーションを行っていないので、中国での認知度が低く、それが売れない原因だ」という話が頻繁に出てくる。しかし、本当の課題は、プロモーションだけではない。トータルなマーケティング活動が必要なのであり、マーケティング活動の中で特にプロモーションが足りないと指摘されているのだ。
 1991年、私は韓国財閥系アパレル企業にコンサルティングに入っていた。彼らは、マーケティング室創設の計画を立て、日本のアパレル企業がどんなマーケティング活動をどのような組織で行っているのかを知りたがっていた。当時の私は、なぜ彼らが「マーケティング」と言い出したのか、正確に理解できなかった。アメリカ留学組のアメリカかぶれの発案だと思ったのだ。
 しかし、今になって彼らの考え方が理解できるようになった。輸出産業から内需に転換した韓国アパレル企業は初めて消費者と向き合うことになった。しかし、どのように向き合えばいいのか、という方法が分からなかったに違いない。一方、ドメスティック市場で育った日本人にしてみれば、消費者ニーズに応えるのは常識であり、あえてマーケティング室など作る必要性を感じていなかった。「ファッションの流れは肌で感じるもの」という認識であり、日本ではそれで十分だったのである。

2.日本におけるマーケティング室の役割
 日本の「マーケティング」は、紡績や合繊メーカー等の川上の大手メーカーからスタートした。彼らは、最終消費財ではなく、中間素材の供給者である。しかし、大量生産した織物を大量消費してもらうには、直接消費者に働きかける必要がある。そこで、アパレル企業や大手小売店とのタイアッププロモーションを行ったのである。常に、消費者と接しているアパレル企業や小売店にとっては、営業活動や商品企画そのものがマーケティング活動であり、あえて「マーケティング」という専門セクションを必要としなかった。
 川上の原糸メーカーは、消費者への直接的なマーケティング活動ができなかったために、自社が行うべきマーケティング活動の内容をアパレル企業や大手小売店に伝える必要があった。それには、大手アパレル企業と連動した百貨店の店頭プロモーションが効果的であった。
 また、自社製品をやみくもにPRしても宣伝効果は見込めない。社会性や時代性に訴求するテーマが必要であり、そのためにはビジネス環境、消費者意識の変化の分析、海外トレンド情報の分析等が不可欠だった。こうした活動はアパレル企業や小売店にも歓迎された。大手原糸メーカーが行なう店頭プロモーションや販売促進キャンペーンは同時にアパレル企業や大手小売企業の利益に貢献した。また、社会的ステイタスが高く、学歴の高い優秀な人材が揃っている原糸メーカーが行なう「マーケティング」は、アパレル企業や大手小売企業にも勉強になった。ある意味では、科学的なビジネスを教えるビジネススクールの機能も果たしていたといえよう。
 原糸メーカーが行なうキャンペーンは、マスプロモーション全盛時代には非常にうまく機能した。しかし、大手アパレル企業がNB(ナショナルブランド)を展開し、各ブランドが差別化を目指すようになると、次第に原糸メーカーのマーケティングの影響力は低下していった。そして、マーケティング室もプロモーション活動から展示会等の企画運営へと役割が変わっていったのである。
 やがて、百貨店にも自らトレンド分析やMD分析を担う商品研究所が作られるようになり、大手百貨店独自の「マーケティング」を展開するようになった。しかし、百貨店ビジネスは大手アパレルの支配力が強く、「マーケティング」も海外のトレンド情報の編集の域を出なかったために、百貨店の「マーケティング」が強い影響力を持つには至らなかった。
 大手アパレル企業もマーケティング室を創設したが、その業務内容は、多くの場合は海外トレンド情報の分析、新ブランド開発のための事前調査、プロモーションのための市場調査やアンケート調査等であった。大手原糸メーカーのように他社を巻き込む必要がなかったために、どうしても社内の調整役としての役割に限定され、社会的影響力を持つには至らなかったというべきだろう。

3.日本からマーケティング室が消えた理由
 ファッションは大量生産大量消費の時代から、個性化、差別化の時代へと変化した。80年代にはDCブランドブームが起き、90年代にはインポートブランドブームが起きる。マーケティングよりも時代の変化に対応した新業態開発が重要であり、ファッションマーケティングの主導権も川上から川下へと移行していった。
 大上段に振りかぶって社会環境の変化や消費者意識の変化を論じるよりも、小売店の店頭を観察し、セグメントされたファッション雑誌を見ることで、マーケット変化は実感できる。また、プロモーションもテレビCMのようなマスプロモーションではなく、より限定された顧客にダイレクトに訴求する方法に変わっていった。いつしか「マーケティング」という言葉もあまり使われなくなり、「マーケティング」セクションも、販促、展示会の企画運営等のスタッフ部門になっていったのである。
 また、最近の10年間は前述したように、マーケティングよりも中国生産や輸入などの生産調達面での変化が目立つ時代だった。また、ITの進展により、店頭管理、顧客管理のシステム化も進んだ。
 こうした時代の急激な変化は「マーケティン」のポジションを相対的に低下させることとなった。抽象的なマーケティング論よりも、具体的なコスト削減による低価格戦略の方が売上に直結する。また、消費者像を研究するよりも、各店の売上や在庫の単品管理をリアルタイムで把握できるようなシステムを導入する方がはるかに店頭効率を上げることにつながるのだ。
 また、海外生産や輸入は商社に、システム導入はシステムベンダーに、というように、アウトソーシングの割合が増え、それに伴い、社内の合理化が進められ、直接売上に影響しないスタッフ部門からリストラが行なわた。かくして、企業内から「マーケティング」という言葉が聞かれなくなったのである。

4.中国企業が求めるもの
 現在、中国はマスプロモーション全盛の時代である。テレビCMなど、マス市場に向けたマスプロモーションが効果的だ。利益のほとんどをプロモーションにつぎ込み、一気に知名度を上げて、大成功した企業も少なくない。つまり、日本で「マーケティング」が有効に機能していた時代と同じ次元にいるのだ。
 そういう荒っぽいビジネスが存在すると同時に、世界の一流企業、一流ブランドが次々と中国市場に上陸している。経験の少ない中国企業は市場全体の成長に支えられ、順調に成長を続けているが、近い将来、海外企業や海外ブランドとの厳しい競合が待っていることは自明のことだ。
 そうしたノウハウの欠如を補うために、海外企業とのライセンスビジネスや提携、海外デザイナーとの提携を急いでいる中国アパレル企業は多い。日本では、内需をターゲットとするアパレル企業が未熟な段階に、過去の輸出ビジネスで資本やノウハウを蓄えた大手原糸メーカー、工業用ミシンメーカー等が存在し、ノウハウを提供していた。しかし、中国は全てのサプライチェーンが同時にスタートした。輸出で成長した企業も、自らのノウハウや資本を蓄積する前に、海外から競合企業が押し寄せた。そして、急成長する国内市場の中でグローバルなビジネス競争が起きているのである。
 その意味では、日本企業がかっての大手原糸メーカーのように、中国企業にノウハウを与えることで、共に成長する可能性も生じてくるのではないだろうか。
 現在の日本は「マーケティング」よりも、情報やシステムに投資している。社会背景や消費者意識の変化を解説するよりも、商品そのもののスペック、性能、価格を提示することを重視している。取引相手もプロであり、余計な解説は必要ない。
 しかし、中国では事情が異なる。たとえば、欧米のある合繊メーカーは、中国アパレル企業に対して5~6名のチームで訪問する。そして、「マーケティング」のレクチャーを行なう。即ち、マーケット環境の変化、海外トレンド情報の分析、競合企業の動向の背景を説明した上で、自社の商品開発コンセプトを解説し、その後、初めて具体的な商品をプレゼンテーションするのである。中国企業にとって、こうした「マーケティング」チームの訪問はとても勉強になるので歓迎される。そして、教える者と教わる者との間にば信頼関係が生じる。同じ生地を仕入れるのならば、勉強になる相手と付き合いたいし、そういうメーカーから素材を仕入れたいと考えるのは不思議ではない。
 一方、日本企業は日本国内と同様のアプローチを行なっている。即ち、いきなり生地サンプルを見せ、スペックや価格を説明する。そして、品質の高さを訴求するのだ。しかし、多くの中国アパレル企業の経営者や仕入担当者には専門知識がない。どれも同じように見える合繊の生地の区別はつかないだろう。また、本業であるアパレルの企画生産についても、多くの課題と悩みを抱えている。彼らが欲しているのは、製品の説明ではない。自らが悩んでいること、直面している課題のヒントを欲しているのである。
 「信頼できない相手とは取引したくないし、勉強にならない相手とは商談するのも嫌だ」というのが、一般的な中国アパレルの担当者の発言である。中国には中国のニーズがあり、中国でビジネスをするからには、中国のニーズに応えなければならない。

5.今こそ「中国マーケティングチーム」を
 中国市場参入を目指す中国ビジネスにおいては、中国消費者とのコミュニケーションが不可欠である。日本人は日本市場を熟知しており、大げさな市場調査の必要はない。常に、店頭と顧客、ファッション雑誌をチェックしていれば、市場動向や消費者の嗜好の変化をを理解することはできる。しかし、日本人にとって中国市場は未知の市場である。日本の方が進んでいるから日本の方法が通用するという考え方は間違っている。
 「マーケティング」は進んでいるから良いというものではない。ビジネスの成熟度、消費者の成熟度、メディアの成熟度等によって、有効な方法を選ぶべきである。それには、まず自分は中国市場を理解していないという前提に立つことが必要だ。未知の市場だからこそ、客観的な調査が必要になるのである。
 最終製品を扱っているアパレル企業も、中国市場においてはマーケティング活動が不可欠だが、中間素材を扱うテキスタイルメーカーやコンバーターでは、一層の「マーケティング」が必要である。中国の最終消費者に伝達するには、アパレル企業や小売企業との連携が不可欠であり、かつての大手原糸メーカーが行なってきた手法を再び展開する必要がある。
 勿論、一度解体してしまったマーケティング室を再度構築するのは容易ではない。また、現在は高度な専門知識が求められており、それを社内人材だけで賄うのは困難である。むしろ、アウトソーシングを活用しながら、マーケティングチームを組むことが必要だろう。そして、一社だけでなぐ、数社が連携して市場の浸透を図ることも必要だ。
 たとえば、中国アパレル企業が課題と感じている、様々なビジネス環境の分析、トレンド情報分析、シーズンテーマの設定や具体的なMD手法、店舗演出や店舗運営のノウハウを専門家チームが行なう。それに基づいた商品開発を行い、複数のテキスタイルメーカーやコンバーターの製品を訴求する。あるいは、企画会社、デザイナー、パターンメーキングの会社等もそのチームに加わる。そうすることで、中国アパレル企業に対して、ソリューション型のサービスを提供することが可能になるのだ。
 私がイメージする「中国マーケティングチーム」は、プロジェクト毎にマーケティングリーダーを選任し、それぞれのリーダーが専門家チームを構成する。そして、日本側のサプライヤーチームを組織し、「マーケティング」に基づく商品開発、商品構成を行い、一括して営業を行なう「エージェント」を専任する。そして、マーケティングの専門家とエージェントによるチームが構成され、具体的に中国アパレル企業等をラウンドするのである。
 プロモーションも単独の企業が行なうよりも、マーケティングチーム単位で展開していく。各企業が単独でプロモーションを行なうよりも、マーケティングチームとしての企業群を訴求した方が、スケールメリットも生じるし、様々な点で有利である。
 こうしたマーケティング活動は、今だに欧米企業も展開していない。既に中国市場に出遅れた観が強い日本企業の打開策として、「中国マーケティングチーム」の創設を提案したいと思う。◆

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