百貨店ITリニューアルの勧め
1.百貨店のリニューアル投資の活発化
各百貨店は東京大阪の都心において、久々に積極的なリニューアル投資を行っている。日本経済新聞(2007年3月3日付)によると、西武百貨店渋谷店は80億円かけてこの3月に、高島屋新宿店は130億円かけて4月にリニューアルオープンする。京王百貨店も時期は未定だが80億円かけてリニューアルを計画。西武百貨店池袋店も08年から全面改装の予定。東武百貨店池袋店は11年までに90億円で全面リニューアルを行う。伊勢丹新宿本店も150億円かけて08年秋に全面リニューアルオープンの予定だ。
大阪では、三越が400億円かけて大阪再進出を果たす11年に向けて、大型投資が進む。11年には、阪急百貨店梅田本店は総額600億円を投じる建て替えが終了。同11年の大丸梅田店も増床リニューアルに200~250億円を投じる。近鉄百貨店阿倍野本店も新館建設や本館改装で09年春までに総額150億円の投資を予定。高島屋大阪店も09年秋を目指して新館建設と改装に340億円を投資する。
消費不況も底を打ち、デフレも回復の兆しを見せている。不動産価格も上昇に転じるなど、ようやく消費不況の長いトンネルを抜け出ようとしている。遊休資産の売却やリストラを続けながら、じっと我慢していた百貨店各社だが、ようやく改装の資金手当てが可能になったのである。
ここ10年ほど、百貨店のリニューアルと言えば、外資ブランドショップの導入に限定されていた。外資ブランドショップは、百貨店出店以外にも次々と都心の一等立地に路面店をオープンしている。郊外立地には次々と大型ショッピングセンターがオープンし、新しい専門店集積が出現している。顧客の流れは明らかに変わっており、このまま何もしなければ百貨店は確実に地盤沈下していくだろう。
百貨店のリニューアルは競合店対策という意味で連鎖的に起きる。ここ数年間は百貨店のリニューアルが次々と続き、久しぶりに百貨店が注目を集めることになるだろう。
問題はリニューアルの目玉である。80年代の百貨店リニューアルはDCブランドの導入だった。90年代はインポートブランド。環境整備だけでなぐ新しい商品MDを導入することで売上アップを図ってきたのである。しかし、2000年の百貨店リニューアルの目玉は簡単には見つからない。
2.持続しないリニューアル効果
昨年、私は某百貨店からリニューアルの相談を受けた。久しぶりに都心の百貨店をじっくり観た感想は「全てそこそこ」というものだった。商品の品質やレベルは低くない。よく見れば、良い商品、欲しい商品も見つかる。VMDもマニュアル通りにきれいに出来ている。販売員の接客もマニュアル通り。ケチをつけるところはないが、感動することもない。徹底した競合他店と差別化も見られない。
多くの百貨店が同質化しているのは、その取引システムによる。セレクトショップのように、世界から新鮮な商品を仕入れ、自社の販売員で販売すれば差別化は可能だ。しかし、委託仕入(百貨店用語では普通買取)で派遣販売員をつけてくれる仕入れ先に限定している限りは、同質化は避けられない。
また、日本の百貨店は店舗数が少なく、PB(プライベート・ブランド)を展開することも困難である。過去の自主MDやPBの失敗に懲りている多くの百貨店は、今回のリニューアルでも大手アパレルとの太いパイプに依存しようとするだろう。
私に声をかけた百貨店も「自主MDやPBは考えていない。取引先との関係を密にしながら、何とか編集によって新しいMDを展開したい」という矛盾に満ちた条件を提示してきた。私は「それならば、現状のままの商品MDで集客を上げる方策を考える方が良いのではないか」と提案したが、「やはりリニューアルは商品を変えないと」と言う。「それならば、完全買取かPB開発をするのか」と言うと、「それはできない」と答える。こんな中身のない議論を続けながら、何十億、何百億もの投資をするのかと思うと背筋が寒くなったが、おそらく多くのリニューアルの現場では同様の堂々巡りを続けているに違いない。
日本の顧客は新しモノ好きだ。ファッション雑誌も新しいブランドを追いかけているし、バイヤーも新しいモノには敏感だ。しかし、最早、新しいモノはほとんど日本に導入されている。それでも百貨店はリニューアルの目玉として、日本初上陸のブランドを揃えようとする。運が良ければ、掘り出し物のブランドが見つかるかもしれない。しかし、その効果はどれほど持続するのだろうか。
私は長くても半年と見ている。新丸ビル、六本木ヒルズなど、新しい商業施設がオープンすると見物客は集まる。しかし、物販は売れない。押し寄せるのは観光客であり、飲食店と単価の低い雑貨が動く程度だ。そして、半年過ぎると、観光客はバッタリ来なくなる。
百貨店も同様だ。リニューアルオープン時には客が集まる。しかし、殺到するのはリニューアル記念セール、記念イベントに過ぎない。単価の高い商品を販売するには、客数が多すぎるのもマイナスだ。売上だけを考えるのならば、セールやイベントなどを行わずに、静かにオープンすることも考えなければならない。たとえば、一週間は招待客とプレスのみ入場できるようにして、じっくりと買物をしてもらう。広い売場を利用してフロアショー等を開催するのも良い。
いずれにせよ、リニューアル効果は半年も持てばい良い方だろう。売場の鮮度を保つためにも定期的なリニューアルは必要だが、大型リニューアル投資が利益に見合うかは疑問である。
私は、百貨店不振の原因は、環境や商品によるものではないと考えている。確かに天井が低く、重苦しい環境では高級感を演出しにくい。しかし、天井高などの構造的な部分はリニューアルでも改善できない。床材を張り替え、天井と照明を改装し、什器を新しくすれば、顧客は魅力的と感じるのだろうか。環境を新しくすれば顧客が喜ぶと考えているとしたら、何とも顧客を馬鹿にした話である。
3.IT活用非店舗販売のビジネスモデル
多くの百貨店は、都心の一等立地に位置している。どんなモノでも売れる立地であるだけに、それに甘んじてはいないだろうか。
百貨店の対極にあるのが、「ガールズウオーカー」「スタイライフ」「マガシーク」「ゾゾタウン」などのIT活用非店舗販売のビジネスモデルである。彼らは、一等立地の巨大店舗を所有していない。独自のコンセプトやアイディアによって、インターネットや携帯を通じて顧客を集め、商品を販売しているのである。
かつては、試着もできない、触ることもできないファッション商品をインターネット販売するなど不可能と言われていた。しかし、現在は携帯でファッション商品が販売されている。この新しい業態を研究することで、百貨店の問題点と取るべき戦略を考えてみたい。
ここでは事例として、ガールズウォーカーを経営している株式会社ゼイヴェル(東京港区・大浜史太郎社長 )を紹介したい。1999年に設立され、現在、資本金1億1千1百万円、従業員約300名のベンチャー企業である。ホームページより事業内容を抜粋してみた。
◆株式会社ゼイヴェルの事業内容
[1] F1、F2を中心とする女性ネットメディアの媒体運営
girlswalker.com & fashionwalker.com(日本最大級のファッションサイト)、shoppingwalker、girlsshopping、 girlswoman(携帯求人サイト)、DecoLiving(携帯不動産情報サイト)、supergirlsmagazine(メールマガジン発行スタンド)、teenswalker.com(ティーン向けファッションサイト)、など。
[2] ブランディング事業(ブランド再生、企業再生、事業再生)
御社のニーズに最も適したSTP戦略(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)の立案から、企画発案、仕掛けを徹底サポートします。また、弊社独自のブランディング・ディレクション「メディアマトリックス戦略」により、各ブランド・企業様に最適なPRの選定から、ブランドの強みを活かした再生、また企業の事業スキームの再生からブランディングまでもフルサポートします。
[3] ブランドプロダクト活性化支援事業
ファッション&ビューティ関連を中心に、新規投入ブランドのプロモーションや販売促進を行いブレイクへ導きます。また、既存投入ブランドのプロダクト・リプランニング、活性化支援を弊社のタスクフォースによりディレクションサポートします。その他、更なる営業力および収益力の基盤強化を目指している企業に対して、当社グループ関連企業や関係先企業との提携によるシナジーや、優秀な人材の派遣、経営および営業面でのコンサルティング等を行います。さらに、資本・業務提携を通じて企業価値拡大のお手伝いまで徹底サポートし、安定的な収益基盤の確立と成長戦略を策定します。
[4] マーケティング事業
「ガールズリサーチ2005」「ウーマンリサーチ2005」「ケータイ世論調査」「アンケートウォーカー」など、10代~50代前半に至るまでの日本全国の女性市場の消費性向を多面体で調査し、趣味嗜好を徹底的に代行して分析します。特に流行の流れが早いファッション市場やビューティ市場へのリサーチ、F1,2 層へのリサーチに関しては国内随一の優れた収集効果を発揮し、流通業界からも大きな評価を得ています。
[5] モバイルコマース&モバイルディストリビューション事業
携帯ショッピングのパイオニア。国内最大級の携帯ショッピング「shoppingwalker」、ファッション&ビューティのセレクトショップ「girlsshopping」等の運営。また、グループ会社メディアマトリックスによる、「supergirlsauction」の運営。F1層向けに特化した広告メディアレップの株式会社F1メディアと共に、実務的なコンサルティングだけではなく、実際に御社のサイトや商品ページに国内トップレベルのモバイルソリューションを提供します。オンラインイベント、オフラインイベントのどちらも国内随一の実績を誇ります。「神戸コレクション」「東京ガールズコレクション」、「スーパーガールズフリマ」など、リアルイベントでの実績をもちます。
[6] ファッションイベントプロデュース事業
2005年夏より始まった史上最大級のファッションフェスタ「東京ガールズコレクション」の主催、「神戸コレクション2000AW」をはじめアパレルブランド、百貨店、セレクトショップ、女性ファッション誌の出版社のファッションショーを企画運営等をすべて代行致します。
[7] モバイル広告の制作販売事業
国内トップクラスのモバイルFLASH広告、モバイルGIFアニメ画像広告の制作が可能。日本最大級の女性ネットでの媒体リーチ力を駆使して、御社のサイトや新商品を全国のお客様に配信可能です。
[8] エリア・プロデュース事業
2004 年5月、東急・代官山駅ビルプロジェクトを請負い、代官山地域エリアを加味した総合プロデュースを担当。「コスメキッチン」、メディア系カフェ「Sign」、雑誌「BRUTUS」でも注目度ナンバーワンに選ばれたラグジュアリー・ヨガスタジオ「メロウボーテ」のプロデュースなど、リアル店舗の出店にも積極的に参加しています。
4.百貨店の商品が売れない理由
ゼイヴェルと百貨店の比較をする前に、百貨店の商品が売れない理由を考えてみたい。
百貨店の人は、売上不振の理由を商品に転嫁する傾向が強い。「商品が悪いから売れない」「もっと良い商品を品揃えすれば売れる」「どこかに売れる賞品があるはずだ」・・・。商品に責任を転嫁する限り、商品以外の問題は見えない。私は、百貨店には良い商品が揃っているという前提に立ちたい。
百貨店には良い商品が揃っている。しかし、その情報が顧客には伝わらない。百貨店の商品情報は、百貨店まで出掛け、一つ一つの商品を自分の目で確認しない限りは分からないのだ。
かつて不動産物件を探すには、自分で町の不動産屋さんを訪ね、一軒一軒の物件を確認する必要があった。しかし現在では、まずインターネットでチェックし、候補物件をリストアップしてから、実際に現場をチェックするという方法に変わっている。
現代人は、あらゆるモノやサービスを購入しようとする場合、まずインターネットで検索するという習慣が身につきはじめている。勿論、百貨店の中心顧客である50歳代以上の人は、インターネットにつながっている率は少ないかもしれない。しかし既に50歳以上の多くが携帯電話を所有している。メールやインターネット接続を経験している人も多いだろう。果てして本当に「年配者だからインターネットなんて関係ない」と断言できるのだろうか。しかも、年々インターネット接続率は高くなるのだ。
これまで百貨店が自宅の顧客に情報を伝える手段はテレビかチラシ広告、電車の中吊り広告等に限定されていた。しかも、ほとんどがセールやイベントの告知であり、入荷したばかりの新鮮な商品を紹介するケースは皆無に近い。百貨店は自宅にいる顧客を店頭まで誘導する手段を持っていないのだ。
考えてみれば、百貨店はコンテンツの宝庫である。数えきれないくらいの商品。店頭には商品知識の豊富な販売員が数多く存在する。仕入れ先に情報提供を求めることも可能である。その情報こそ、百貨店の資産である。しかし、その資産は使われないままに捨てられている。
百貨店が重視している経営指標は、売上、坪効率、納入掛率だ。売場は売上と坪効率を追求し、バイヤーは納入掛率に集中している。組織も商品と売上の管理に集中している。
大きく欠落しているのが、店内の情報管理と情報発信、そのためのメディアの整備である。情報を発信することで顧客を集め組織化する。その顧客管理が重要なのだ。
百貨店が行っている顧客管理とは、多くの場合、ハウスカードの発行とポイント管理、せいぜいがセールの告知に過ぎない。商品を買ってくれた顧客を管理するという発想であり、潜在的顧客の開拓ではない。また、個々の顧客に必要な情報を発信するための管理でもない。結果の管理であり、プロセスの管理ができていないのである。
5.百貨店が取り組むべきITリニューアルとは
ここで先程のゼイヴェルの業務内容を振り返ってみよう。ここに列挙されている事業内容は、本来は百貨店が担うべき事業ではないだろうか。百貨店の現状を考えながら、以下に列挙してみた。
◆百貨店が行うべき事業内容
[1] リッチで成熟した男女のためのメディア運営
ゼイヴェルとは顧客層が異なるので、携帯をメインの媒体には設定できないだろう。むしろ、印刷媒体、WEBを中心に携帯が補完することになる。ファッション以外にも、資産運用、グルメ、旅行、趣味、健康関連の情報サイトがあってもいい。
[2] ブランディング及びマーケティング事業
百貨店は、一等立地の店舗を活用し、積極的にブランディングに関わることが可能である。PBやコラボレーションという形で、様々なイベント、情報発信も可能だ。それらの活動を通じて、百貨店そのもののブランディングにもつながるだろう。
また外部の機関との連携により、コンサルティングサービス等も可能である。サービスを売るという立場に立てば、コッサルタント等の専門家は百貨店が品揃えすべき商品の一部と言える。
[6] イベントプロデュース事業
百貨店はスペースを所有している。様々なイベントの企画運営が可能だ。これまでは販促のためのイベント運営だったが、今後は収益事業として位置づけることが必要だろう。百貨店の優良顧客を組織化し、集客するノウハウがあればイベントは成功する。
[8] エリア・プロデュース事業
現在でも、百貨店は地域の中で重要な役割を果たしている。百貨店発の情報発信にしても、地域の生活者を巻き込むことが重要である。今後、拡大する様々な事業展開により、地域の雇用を創造し、地域コミュニティの活性化に貢献できるはずである。
百貨店のリニューアルは、こうした明確な事業運営を想定し、そのための投資でなければならない。
私は、店舗のリニューアルよりも,独自の情報発信メディアを構築し、そのコンテンツを取材、編集、発信するための組織を作り、百貨店のコンテンツをどこからでも検索できるようにすることを提案したい。そして、そのメディアを通じて潜在的顧客を組織化すること。既存の顧客及び洗剤的顧客を集客するためのイベントを企画し、既存の取引先だけに捕らわれない幅広い企業や組織とのコラボレーションを行うこと。
それらの基盤となるのは、徹底した商品の単品管理と顧客管理だろう。単品管理とは、売上管理だけでなく、店頭に並んだ商品の画像情報を含む単品商品情報である。顧客管理とは、実際に買物をした顧客のみを管理するのではなく、様々なメディアとコンテンツにより、潜在的な顧客をも管理することである。
こうしたソフトやシステムのリニューアルは、半年で形骸化することはない。むしろ、事業を継続することでノウハウが蓄積されるのである。現在計画されている百貨店の大型投資の1割だけでも、こうしたITリニューアルに回すことで、百貨店の将来が開けてくるはずである。
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