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April 16, 2007

21世紀型産業モデルを探る

要点
1.日本の経済成長は、製造業と不動産を基本にした金融システムにより達成された。このシステムが確立したのは、流動的な資金が不足していたことに起因する。しかし、そのモデルは為替の変動により崩壊していった。
2.日本で達成できなかった理想像を中国で達成しようという企業も多い。中国進出により、広い敷地、豊富で低コストの労働者、最新の設備を完備した工場が現実となった。しかし、中国も為替変動により、理想郷が破綻する危険性も否定できない。
3.流動的な資金量が増えた結果、商品による経済よりもマネー(情報)による経済の方が規模が大きくなっている。それに対応しているITベンチャー企業にとって、中国よりも日本の方が有利なフィールドである。
4.日本がそうであったように、消費者に近い分野であるアパレル産業では、国内企業の方が有利である。中国市場においても同様であり、市場参入には長期的な戦略が必要である。
5.製造業は装置産業でもあり、移転のメリット少ない。低コストを追求して海外移転しても為替変動で状況は変化する。21世紀の製造業とは、商品企画、品質管理、生産管理等のソフト分野が重要になる。中国に進出した製造業者も21世紀型に転換する必要がある。

1.20世紀型産業モデルの行き詰まり

 日本の高度経済成長は、製造業と不動産を基本にした金融システムにより達成された。原料を輸入し、加工した製品を輸出し、外貨を獲得する。そうした輸出型製造業の成長には、日本人の勤勉性、高い基礎教育と農業で培われた協調性が大きく貢献していた。
 輸出型製造業で蓄えられた資本が国内市場に回り、国内需要を生み出し、国内型製造業も成長した。その循環で富が蓄積され、旺盛な消費意欲を生み出していった。
 銀行は不動産を担保に企業に融資した。地価の高騰と共に担保力が上がり、豊富な資金調達によって企業は更に成長した。製造業と不動産が車の両輪となり、日本は世界に類を見ない高度経済成長を実現したのだ。
 しかし、経済成長の基本的な原動力となった輸出型製造業は、為替の変動と共に海外に生産基盤を移転する。同時に、円高は地価と株の高騰を生み出し、バブル経済を招いた。国内製造業は、輸出型製造業の海外移転と共に衰退を始めたが、バブル効果により資産価値が高まり、営業外収益を得た。一方で、バブルの恩恵を受けた不動産業と金融業、流通業は成長を続けていったのである。
 この時点、つまりバブル絶頂期の段階で、日本の経済成長モデルは脱製造業モデルに移行していた。本業での利益が上がらなくなり、不動産収入等で経営を支えていた企業も多かったのだ。そして、金融の引き締めと地価の下落により、バブルが崩壊する。ここで、不動産を基本にした金融システムが崩壊したのである。
 20世紀の日本を見ると、まず製造業による成長モデルが崩壊し、その次に不動産を基本とした金融システムが崩壊した。本稿では、この二つの組み合わせによる産業モデルを「20世紀型産業モデル」と呼びたい。日本においてバブル崩壊と共に「20世紀型産業モデル」は崩壊したのである。
 一般的に国内製造業が淘汰された原因は、人件費の低い中国等からの輸入品の増加による製品価格の下落と製造業の採算悪化、少子高齢化に伴う後継者難等とされている。しかし、中国の製造業が成長した大きな要因は、日本からの設備投資と技術指導である。その原因は、円高であり、円高に伴う地価の高騰なのだ。
 中国の開放政策が中国進出を加速化したのは事実だが、それ以前から日本企業は、タイやインドネシア等に生産基盤を移していた。もし、中国が開放政策を取らなかったとしても、国内製造業の空洞化は起きていたに違いない。

2.中国は「20世紀型産業モデル」の理想郷

 バブル崩壊後、日本の製造業は国際競争力を失っていった。その要因は何度も言うように為替の変動だが、為替の変動は政治的な問題であり、個々の経営者が手を出せない分野である。そこで、為替の変動による国際競争力の低下ではなく、為替変動が招いた現象に原因を求めた。つまり、高い地価と人件費が国際競争力を奪ったと理解し、それを解決するために積極的に中国進出を行なったのである。
 日本は地価と人件費が高騰した。競争力の低下のために設備投資もままならなかった。中国は地価も低く、敷地も十分確保できる。また、日本のように従業員確保で悩む必要もない。どんなに大型工場を作っても、それに見合った若く意欲的な労働力を低コストで確保することができたのだ。
 日本企業は中国進出にあたり、それぞれの理想郷を思い描いた。A社は、日本の最新設備を中国に投入した。日本以上に理想的な工場を建設しようとしたのだ。B社は、十分に手間をかけた高級品の製造に乗り出した。日本では効率優先だったが、中国なら品質優先の生産ができるという判断である。C社は、安価で豊富な労働力を駆使した、手間のかかる生産工程を構築した。そして、ハンドメイドの高級品に進出した。
 このように、各企業は、それぞれの理想像を掲げ、その理想を具現化していった。日本人技術者は目を輝かせ、意欲的な中国の若者を指導している。彼らは、中国という新しいフィールドを得て、ようやく国際競争に勝てる可能性を見いだしたのだ。
 しかし、もし中国の為替が変動し、元の切り上げが行なわれれば、日本から進出した企業は以前と同様の問題を抱えることになるだろう。どんなに人件費を押さえ、コスト削減したとしても、為替が変動すれば国際競争力は失われる。
 日本は、中国に「20世紀型産業モデル」を輸出した、と考えることもできる。中国は世界の工場となり、急激に経済成長を達成した。そして、輸出型製造業の成長と共に、国内に富が蓄えられ、国内市場も成長した。国内型製造業はこれから急激に成長を始めるだろう。
 同時に、不動産価格や株価も上昇し、日本のバブル経済の様相を呈している。中国も為替変動でバブルが崩壊する可能性は高い。しかし、日本が為替変動で「20世紀型産業モデル」が終焉を迎えたように、中国の製造業が衰退するとは考えにくい。日本の「20世紀型産業モデル」が中国の「21世紀型産業モデル」に進化する可能性もある。
 中国の「21世紀型産業モデル」について考える前に、日本の「21世紀型産業モデル」について見てみよう。

3.日本の「21世紀型産業モデル」とは?

 日本の多くの製造業者は閉塞感を感じている。その一方、「ホリエモン」に代表されるITベンチャー企業には投資が集中し、まさにバブル的好景気を謳歌している。彼らのビジネスにおいては、中国が理想を具現化するフィールドではない。まさに日本こそが自分たちの理想を具現化させるフィールドなのだ。
 ITベンチャーと言っても、通信回線ビジネスから、パソコンやソフトウェアのビジネス、あるいは楽天のようにインターネットを使った新たな流通など、様々な分野に広がっている。
 彼らの共通点は、モノとしての商品を製造、流通、販売しているのではなく、情報そのもの、あるいは情報に関する商品を製造、流通、販売していること。また、不動産を基本とした金融システムではなく、株式市場や株式市場での利益を期待するベンチャーキャピタル等から直接資金調達していることも共通している。
 20世紀型産業モデルの成功者は、「不動産による錬金術」を行なっていた。所有している土地の価格が上昇し、担保価値が高まる。その担保により、新たに銀行等から融資を受け、新たな土地を買収する。その土地の価値を上げて、更に担保価値を上げ、融資を受けるという循環で資産を形成していったのである。
 21世紀型産業モデルの成功者は、「株式市場による錬金術」を行なっている。株式市場に上場してキャピタルゲインを得る。その資金で企業を買収する。さらにその企業を上場させて利益を上げる。こうした活動が投資家に評価され、企業の資産価値が高まり、新たな出資を受ける。その資金を使って、更なる大型買収や市場からの資金調達を行なう。こうした循環により資産を形成しているのである。
 21世紀型産業モデルにとって、企業が商品であり、株式市場がビジネスの舞台である。市場が活性化するとは商品が活発に売買されることである。企業が商品であるならば、売買の対象となる企業も多いほど良いのだ。また、資金調達ができる市場が整備され、投資する相手を探しているベンチャーキャピタルも多いほど良い。
 彼らのビジネスにとって、地価や人件費が低いことは、決してプラスにはならない。中国に対しても、コールセンターやプログラミングなどの労働集約型業務以外には興味を感じないだろう。中国に興味を感じるとすれば、あくまで新たな投資対象としてである。
 20世紀型産業モデルが確立したのは、流動的な資金が不足していたからである。資金が不足しているから、資金に変えられる商品を生み出す製造業に価値があった。また、資金が不足していたから、不動産を担保に融資が行なわれた。
 しかし、流動的な資金が増えるに連れ、マネーの売買や相場の変化によるマネー獲得という手段がビジネスの中心になっていった。市場は常に売買されるから活性化する。商品が常に売買されれば、商品市場は活性化し、マネーが常に売買されればマネー市場が活性化する。そして、マネーの売買とは実質的に情報の売買なのだ。
 情報の流通が増大し、それに伴ってマネーの流通も増大する。日本人が世界中の市場で株式の売買をすることが可能な時代である。しかし、商品は情報ほどに売買を加速化することはできない。地球の人口も資源も生産設備も限定されている。したがって、売買の対象となる商品も限定的だ。しかし、情報は情報を生み出す。情報は無限大に拡大していく。情報による経済活動は、物質的な経済活動を凌駕しているのである。

4.中国市場で最初に成長するのは中国企業

 日本企業は中国に20世紀型産業モデルの理想郷を作り上げようとしている。しかし、成長しているのは日本の独資企業や合弁企業ばかりではない。中国の内資企業もそれ以上に成長している。特に、輸出型製造業から国内型製造業への変化は、中国国内企業に有利に働くはずである。おそらく、多くの中小企業が生まれ、新たなサクセスストーリーを描くことだろう。
 日本企業による中国市場進出も提唱されているが、日本企業が中国企業を凌駕することは非常に困難である。戦後の日本を見ても、アパレル卸やアパレル小売業という日本人に密着した分野においては、ノウハウも資本も豊富な欧米企業であっても簡単に進出できなかった。成長したのは、欧米企業のノウハウを吸収した日本企業である。
 同様のことが中国でも起きるだろう。成長するのは日本企業のノウハウを吸収し   た中国企業に違いない。欧米企業が日本市場をどのようにコントロールしたかを振り返ることは、日本企業の指針になるだろう。
 欧米企業はまず、国内アパレルとライセンス提携を行なった。ブランドの使用を認め、ライセンス料を受け取った。当初はライセンス供与の基準も甘く設定し、ライセンス料を増やすことに専念した。しかし、市場が成熟し、消費パワーが向上するにつれ、ブランドイメージのコントロールに乗り出す。そして、商品企画の管理、流通経路の管理、広告宣伝の管理等を強化し、ブランドイメージに合わない製品は次々とライセンスを打ち切っていった。そして、日本国内に独資あるいは合弁企業を設立し、直営店舗戦略を強化する。この段階で、日本企業とのサイセンス契約を打ち切り、本物のブランド品の輸入に切り換えたケースも多い。
 欧米企業は、日本の経済成長、消費の成熟度を見極めながら、それに対応した戦略を展開してきた。現在、中国市場に参入しようとしている日本企業にこうした戦略はあるのだろうか。「日本の方が進んでいるのだから、遅れている中国でも売れるに違いない」と考えているとしたら、あまりにも単純な思考であり、成功は難しいだろう。
 日本企業が欧米企業とライセンス提携したのは、それにより日本企業が利益を期待できたからである。実際に、欧米とのライセンス提携がなければ、現在の大手アパレル企業の成功はなかっただろう。同様のことは中国市場でも言える。海外市場のビジネスとは、まず現地企業に利益を供与しなければ取り組みができない。そして、現地企業でなければ、その国の消費者ニーズに対応することは難しい。特に、ボリューム市場に対応するには、現地企業の方が圧倒的に有利なのだ。
 日本企業、日本ブランドが中国市場に参入するには、長期戦略が必要である。中国の経済成長、消費者の成熟度によって、段階的な戦略を展開し、最終的に中国市場の中でいかにシェアを確保するかが問われるだろう。

5.中国進出の日本企業は21世紀型産業モデルへの転換を

 中国の為替変動により、日系企業が採算悪化を招くとしたら、日系企業はカントリーリスクを避けるために、新たな国への進出を考えるだろう。現在ならば、タイ、ベトナムの見直し、その先にはインドやロシア、東欧という選択肢も出てくるかもしれない。しかし、そこでもまた為替変動による採算悪化は起こりうる。こうなると、低コストを追求して国を変えるという製造業モデルを日本企業が採用してよいのか疑問が残る。見ず知らずの国でビジネスを展開するのは、それだけでも不利であり、日本から離れるにつれ駐在員等の運営コストも上がるからである。
 それならば、海外の製造業者から製品を開発輸入した方が有利であるという判断も出てくる。欧米企業は中国に対しても、日本のように技術指導などを行なわず、製品のスペックを提示し、それをクリアしたら取引するというスタイルが多い。その理由は、生産地は次々と変わることを想定し、常に最も有利な相手から商品を調達しようという考えに基づいている。
 こうした考え方の違いは人件費にも出てくる。中国の欧米企業は日本企業よりも給与水準が高い。「日本企業は欧米企業の半分程度」という指摘もあるほどだ。日本は人材を育てようとする。そのコストも見越して、低いコストで雇用する。しかし、欧米も中国も優秀な人材はハンティングしてくるという発想である。日本企業で働く中国人は常にキャリアアップを考えている。日本企業で勉強し、自分の価値を高め、欧米企業や中国企業に高く自分を売り込むというのが一つの流れになっている。
 日本企業は製造業の発想が強い。中国に進出したのは、人件費を押さえるためなのだから、中国人のコストを押さえるのは当然だ。しかし、中国でより良い商品を調達するという発想に立てば、より良い商品を調達できる人材に高い報酬を支払うのは当然である。また、中国市場に進出することが目的で中国に進出するのであれば、実績に応じた給料であることが重要であり、無理に人件費を押さえる必要もないのである。
 こう考えていくと、製造業という業態は装置産業でもあり、移転することのメリットは少ないと言えるのではないか。したがって、既に中国に進出した企業は、中国で採算が取れるように業態転換を行なう他はない。
 また、人件費が高騰した国の製造業とは、商品企画、品質管理、生産管理等のソフト分野を中心とした製造業であるべきである、という定義も可能なのではないか。これが「21世紀型産業モデルとしての製造業」であるならば、中国進出の日本企業もまた、20世紀型から21世紀型への転換を早める必要があるだろう。◆

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