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November 10, 2022

新ノーマル市場への対応 j-fashion journal(460)

1.後戻りはできないが動けない企業

 自粛中、店を閉めていた小売企業は売上、利益が上がらず、賃料、人件費等の経費は出ていた。その期間に販売するはずだった商品が在庫として残っている。
 在庫を処理しない限り、次の商品は仕入れられないし、赤字を解消するには、例年以上の売上が必要になる。
 ということで、多くの小売企業は手詰まりだ。できることは不採算店、不採算部門を閉鎖し、社員を解雇することだけだ。
 処分できるものは処分した後、次に何をすればいいのだろうか。その準備をしておかなければ、危機を脱したとしても、将来は見えてこない。
 こうした切迫した状況にも関わらず、経営者、社員共に、これまでのルーティンを繰り返すだけで、新しいことに手をつけない。
 考えてみれば、20年以上、安売り商法だけを行ってきた。多くの人は、新しいプロジェクトを企画し、運営するという経験をしたことがない。従って、考えることもできないし、企画することもできない。
 ということで、バブル時代に新プロジェクトをいくつも手がけてきた世代の一人として、時代変化の分析と新プロジェクトのコンセプトについて提案したいと思う。

2.インドア、ローカルの生活シーン

 新ノーマル市場とは何か。コロナ以前の変化がコロナと共に加速した市場と言えるかもしれない。
 第一に、「インドアを中心にした生活」だ。
 これまでも巣籠もり、コクーンと呼ばれる消費スタイルは存在したが、それが「テレワーク」で一気に主流になった。
 テレワークは会社の立地や規模を変え、周辺のコンビニや飲食店、居酒屋の消費を減少させた。
 その分、住宅の中で仕事をするスペースが必要になり、家の中で飲食する機会が増えた。そして、外食よりお取り寄せが増えた。
 会社に通勤しないので通勤着が不要になった。会社内での同性や異性の目を気にしなくても良くなったので、ファッションやヘアメイクで見栄を張る必要もなくなった。
 常にマスクをしているので、化粧もスキンケアとアイメイクだけで済む。
 このように、これまで家の外、会社の中のシーンを設定していた商品を全て、インドアに置き換える必要がある。
 アパレルなら、インドアのくつろぎ着が中心になるし、靴なら室内履きが重要になる。あるいは、家から近所のコンビニ程度まで歩くことを設定した気楽な服や靴である。
 つまり、衣食住全ての消費スタイルが変わるということだ。
 第二に、「密な都心から疎な地方へ」と市場が変化する。
 これは、グローバルからローカルへという流れにも呼応している。
 大都市はグローバルな生活スタイルが中心だ。東京、ニューヨーク、パリ、ロンドン、シンガポール、上海等は、ほぼ同じブランドショップが並び、世界各国の料理が楽しめる。
 都会は密な空間である。密な空間はエキサイティングで楽しい。しかし、コロナ禍によって、密が禁止され、疎を再発見することになった。
 地方の疎な空間は、ウイルス感染のリスクも低く、独自の文化、アイデンティティを持っている。
 大都市のグローバルな人間は、共通の資本主義経済、自由主義経済、貨幣経済を基本とした最先端の競争社会に生きている。
 地方には独自の歴史と文化、地域に根ざした価値観、美意識がある。伝統工芸や地場産業があり、独自の生活スタイル、衣食住がある。
 これまでの商品企画は、主に大都市を中心としたグローバルスタイルだった。それをローカルスタイルに変えることが求められる。
 例えば、東京のブランドよりも、秋田や青森のブランドを発表した方がインパクトがある。また、自治体や大学、地場産業の企業等とのコラボレーションも組み易いだろう。
 あえて、地方発のブランドを作り、それを世界に発信し、独自のファンを増やしていく。全国一律のビジネスから、地方の独自性を発信するビジネスへの転換である。
 
3.脱トレンド、脱大量生産 
 
 第三のテーマは、「大量生産の中国製品から、少量生産の日本製品へ」。
 グローバル経済の象徴が「中国製品」だった。中国は「世界の工場」であり、世界の市場に向けた商品を生産している。日本市場の中でも中国製品の占めるシェアは圧倒的だ。
 日本企業が中国生産を始めた理由は大量生産を維持するためだった。その前提となるのは、安い商品を使い捨てるという消費スタイルである。
 しかし、環境問題、エネルギー問題への関心が高まり、安い商品を使い捨てるという生活スタイルは否定されるようになった。
 コロナ禍では、家にいる時間が増えた結果、「断捨離」に励む人が増えた。無駄なモノを整理し、モノを減らすと、精神的にも余裕が生れる。モノを買い、モノに囲まれた暮らしはストレスにつながるのだ。
 断捨離をした人が、安物を使い捨てる暮らしを続けるとは考えづらい。一つのモノを長期間、大切に使いたいと思うはずだ。そうなると、中国製品を使う必要はない。同じように支出するならば、多少価格は高くても、日本製品を大切に使うことで、日本社会や日本経済に貢献したいと考える生活者も少なくないだろう。
 また、中国製品の比率を減らし、日本製品の比率を高めることは、次のウイルス感染等で貿易が止まった場合の経済安全保障にもつながる。

 第四のテーマが、「トレンドよりアイデンティティ」だ。
 これは、前述した都会から地方への動きとも連動している。グローバルトレンドよりも、地方のアイデンティティ、個人のアイデンティティを重要視したブランドが出現するのではないか。
 そもそもトレンド情報には、シーズン毎に新しいテーマを打ち出すことで、過去の商品を陳腐化し、新たな商品を販売するという意味がある。
 オートクチュールの起源は貴族のパーティードレスであり、毎回新しいドレスを作るニーズがあった。そこで、シーズン毎に新しいテーマで半年分のコレクションを発表したのである。
 その流れで富裕層を対象にしたオートクチュール、プレタポルテのコレクションへと変化した。ライセンスビジネスも拡大し、ブランドイメージの維持するためにも、常に変化を続けることがミッションとなったのである。
 それが大衆ファッション、ファストファッションにも波及した。富裕層向けのコレクションのトレンドをアレンジし、大量生産、大量販売したのだ。大衆向けの服がトレンド変化を続けることは、使い捨てを促し、廃棄を増やすことにつながる。
 大衆にファッションは必要なのか。むしろ、個人のアイデンティティに合わせ、機能的で合理的なロングセラーのワードローブを提供することの方が価値があるのではないか。
 
4.陳腐化しないロングセラー商品 
 
 第五のテーマは「デジタルな変化よりアナログな改善」、第六のテーマが「視覚訴求より素材訴求」である。
 この二つのテーマは、ロングセラー商品を作るという意味で共通している。
 これまでは、店頭起点で店頭の変化を収集し、売れるモノを供給してきた。しかし、コロナ禍で自粛した結果、次々と変化しながら使い捨てていくビジネスは成立しなくなっている。1シーズンだけの商品ではなく、何年も売り続けるという気持ちでモノ作りをしなければならない。
 形の変化を追いかけるのではなく、素材や仕様の改善を続けていく。デザインの差別化ではなく、品質の差別化、サービスの差別化を行う。一度購入したら、リピーターになりたくなる商品が求められている。
 流通チャネルも変化している。店頭販売からネット販売である。店頭販売では、店舗というある程度の空間を商品で埋めることが求められている。そこで、デザインのバリエーション、カラーのバリエーションが必要になる。店舗は視覚で勝負している。従って、VMDが重要なのだ。
 ネット販売では、視覚よりも、テキスト情報が重要になる。検索するのはテキストが基本だ。
 商品企画は、テーマ、ストーリー、素材、仕様が重要になる。それぞれの要素をいかにこだわっているか。そして、クラウドファンディングのように、企画の途中段階から消費者を巻き込みながら、企画を詰めていくという手法も有効だろう。

5.セルフメイドの魅力訴求

 第七のテーマは、「セルフメイドの魅力訴求」である。これまでは、常に経済合理性が追求されたが、大量生産から少量生産になると、コスパよりも体験型消費が求められるのではないか。
 簡単に言うと、モノ作りに顧客を参加させるということだ。つまり、自作の服やバッグ、靴を作りたいと思う顧客には何を提供すれば、それが実現するか、ということである。
 たとえば、顧客が自分で素材や付属など、原材料を揃えるだけでも大変である。
 また、縫製加工するためのミシンなどの機械も必要になる。ミシンは時間貸ししてくれる施設もあるので、そこを利用してもいいし、工場に来て貰ってもいい。もちろん、素人にミシンを触らせると壊れる可能性もあるで注意が必要だ。
 途中の段階まで顧客が行い、それを工場で仕上げることもできる。その場合、量産品より高い価格になるかもしれないが、それは仕方がないだろう。
 アイテムによるが、何枚以上、何個以上発注してくれれば、量産品と同じ価格で請け負うというサービスでもいい。
 とにかく、世界に一つだけのオリジナルを作って貰う。
 自分で育てた野菜は美味しいし、自分で作った料理は美味しい。同様に自分で作った商品にも愛着が湧くはずである。
 企業が仕事として行うならば、いかに効率よく、早く作れるかが問われるが、趣味として作るならば、半年かけて一つの商品を作ってもいいのだ。
 とにかく、メーカーが作ったものを並べて、顧客に選んで貰うというスタイルを打破し、顧客に作る作業に参加してもらう。これにより、顧客のコミュニティを作ることができれば、最終的にビジネスにつながるだろう。 

*有料メルマガj-fashion journal(460)を紹介しています。本論文は、2020.9.14に配信されたものです。リアルタイムでの講読をご希望の方は、http://www.mag2.com/m/0001355612.htmlよりお申し込みください。 

ガラガラポン、ニッポン j-fashion journal(459)

1.今はガラガラ状態

 いま、世界はガラガラポンのガラガラ状態です。いつポンが来るかは分かりません。
 これまでの秩序、ルール、戦略、マニュアル等は使い物にならなくなります。
 コロナ禍では、最初に飲食店が影響を受けました。自粛になって、店を閉めました。自粛が明けても、顧客は戻りません。
 そこで新たなテイクアウトやデリバリーを行い、以前とは異なる顧客を獲得した店もあります。何もしなかった店もあります。
 何もしなかったと言っても、コロナ対策はしているはずです。席数を減らしたり、営業時間を繰り上げれば、その分採算は悪くなります。顧客も完全には戻っていません。採算分岐点に届かなければ、全く別のことを始めるか、店を閉めるしかありません。
 ガラガラの状態は、雪崩に巻き込まれたスキーヤーのような感じです。雪崩の中で無我夢中で手足を動かしていると、身体が浮き上がり、表面に浮上することがあるそうです。動かさなければ、雪の下に埋まってしまいます。
 何をしていいのか分からなくても、無我夢中で動いていれば、何か見えるかもしれません。上手く行けば、危機を脱しているかもしれません。
 ガラガラ状態ではなく、静かな海のような状態で危機に陥ったら、静かに浮いている方が良いでしょう。体力を温存していれば、潮が運んでくれます。誰かが助けに来てくれるかもしれませんし、岸に流れ着くかもしれません。
 でも、今はガラガラ状態です。ジタバタしましょう。
 
2.ジタバタすることが大切

 混乱した状態でも、その原因を分析することは有効です。
 コップの中の嵐の原因は、コップの外側にあります。コップの外から自分を眺めて見ることが重要です。
 まず、コロナ禍ですが、これは自分だけではどうにもなりません。できることは、手洗いとマスクくらいです。あとは、なるべく人混みに出歩かないこと。そして、ストレスを溜めないこと。
 あとは、専門家に任せるだけです。
 もし、自分が飲食店を経営していたら、ジタバタすることになります。まず、補助金の申請をすること。そして、黒字に転換できそうもない店は閉めること。
 その上で、テイクアウトとデリバリーを始める。テイクアウトとデリバリーに相応しいメニューとパッケージの開発も急がなければなりません。
 これらの課題をスタッフと一緒に考えます。全く飲食に関係ないことでも挑戦してみます。
 インバウンド減少で困っている食品メーカーや農家等とコミュニケーションを取ります。そして、クラウドファンディングのプロジェクトを立ち上げてみます。
 ここでも、コップの中だけでなく、コップの外を見ることが重要です。
 自社を取り巻くサプライチェー全体を考える。顧客心理の変化を想像する。社会の中で同じ問題に直面している人と連携する。
 そこから何か見えてくるかもしれません。


3.金融問題と中国問題

 今、困っていることには原因があります。とりあえずの対象療法も必要ですが、原因を解決しないと問題は繰り返し発生します。
 例えば、景気が悪いのはデフレが原因です。デフレの原因は、市場で流通する通貨量が少ないことです。
 富裕層も中間層も貧困層も生活必需品への支出はそれほど変わりません。しかし、富裕層は投資にお金を使います。通貨が株式投資に回れば、株価は上がりますが、デフレはそのままです。
 富裕層にお金が回れば、やがて貧困層にもお金が回るという説は誤りでした。貧困層にお金を回すなら、消費税を上げるより、累進課税や貯蓄から税を取る方が良いのです。
 デフレの原因は金融政策だけではありません。国内生産から中国生産への転換が商品の価格を下げ、市場を収縮させました。
 コロナ禍で中国がマスクを輸出禁止にした時、私も中国生産について考えました。中国生産は日本企業が利益を上げるために行ったはずなのに、日本国内のメーカーが大量に淘汰されました。流通小売業も市場の収縮により、売上も利益も下がりました。結局、儲けたのは商社だけであり、その商社も中国の人件費が上がって採算が悪化しています。
 反面、中国人は豊かになり、日本に観光に来て、神戸牛などの高級食材を食べ、ブランド商品を買い漁っています。日本人は中国人にサービスを提供する側になってしまいました。中国が豊かになり、日本が貧しくなった原因はグローバリズムであり、中国生産だったというわけです。
 トランプ大統領が中国とのデカップリングを発表した時、最初は「そんなことは不可能だ」と思いました。しかし、「もし可能ならば、日本にとって大きなチャンスになる」と思うようになりました。
 日本が貧しくなった原因は、間違った金融政策と中国生産への依存です。そして、そこから生れたコスパ優先の価値観です。
 中国問題と金融問題を語らない政治家は、コップの中で仕事をしているだけです。
 
4.ポンができる経営者

 ビジネスもガラガラ状態です。しかし、それほどジタバタしているように見えません。
 たとえば、コロナの自粛中、あるいは自粛後に百貨店やアパレル企業は何か新しいことを始めたでしょうか。
 現在行っているのは、不採算ブランドを整理し、不採算店を閉めているだけです。アパレルが退店した後、どんな商品で売り場を埋めるのでしょうか。
 私は現在の百貨店の取引条件では、新たな取引先を見つけるのは難しいと思います。
 百貨店の取引形態は、派遣店員と委託仕入れです。販売員は取引先が用意し、売れ残った商品は返品されます。年間売り場を維持することはとても大変です。
 催事のような短期的な仮設売り場であれば、出展したいと人はいると思います。しかし、その企画を立て、出展者を集めることはできるのでしょうか。百貨店は何でも丸投げです。催事も催事業者に丸投げします。何もしないで、場所だけ貸して、かなりの利益を取ります。
 百貨店の取引形態が問題であることは、30年以上前から分かっていたことです。インターネット通販に押されていることも10年以上前から分かっていたでしょう。それでも、何も新しいことに取り組まなかったのです。
 そして、コロナ禍で一気に勝負がつきました。多分、このまま何もしないで、淘汰されていくでしょう。時間の問題です。
 ガラガラポンということは、ガラガラしている中で、多くの企業やビジネスが淘汰されるということです。
 ビジネスだけでなく、生活圏も変化します。テレワークが一般化した結果、本社も都心から地方へと移転が進みます。都心のオフィスは縮小します。そうなると、住居の立地も変わります。地方で家庭菜園ができるような庭がある住宅が望まれます。
 人口は集中から分散へと転換します。そうなると、公共交通機関も変わります。物流も変わります。商業施設も変わります。
 もちろん、欲しい商品も売れる商品も変わります。
 時間の使い方も変わります。生活スタイルが変わります。ファッションも変わります。
 その変化を予測して準備するのが、ポンができる経営者です。

*有料メルマガj-fashion journal(459)を紹介しています。本論文は、2020.9.7に配信されたものです。リアルタイムでの講読をご希望の方は、http://www.mag2.com/m/0001355612.htmlよりお申し込みください。  

安倍総理辞任に思うこと j-fashion journal(458)

1.米中バランス政策が崩壊した

 日本は、安全保障では米国と軍事同盟を結んでいます。米国がアメリカ第一主義を唱え、日本に防衛上の自立を迫っています。米国の核の傘の下に隠れているだけでは済まなくなりました。
 経済面では、日本は中国との互恵関係を守ってきました。尖閣の問題もありますが、日本は日中間に領土問題は存在しないとしています。本来ならば、今年は習近平首席が国賓として来日する年でもありました。
 その後、東京オリンピックで世界の人々を迎えれば、米国、中国に加えてロシアとも良好な関係を築いていたと思います。少なくとも、安倍総理はそういう外交ビジョンを考えていたでしょう。
 しかし、米国と中国の対立が激化しました。最初に貿易問題が表面化し、関税の掛け合いが始まりました。
 米国は、5Gにおけるファーウェイ社等を制裁対象にしました。ファーウェイの通信機器にはバックドアがついており、全てのビッグデータが中国共産党に流れているとの主張です。同時に、中国は先端技術を米国から盗んでおり、そのスパイの拠点がヒューストンの中国領事館であるとして、閉鎖を命じました。
 中国も報復措置として、成都の米国領事館を閉鎖しています。
 また、中共政府は、香港国安法を施行し、平和的なデモ参加者を逮捕し、過去の活動を含めて国安法違反として香港の民主活動家らを次々と逮捕しました。
 香港の人権弾圧だけでなく、ウイグルやチベット、モンゴル等でも中共政府が人権弾圧を行っており、その監視システム等を支えているファーウェイ社等も制裁対象となっています。
 更に、南沙諸島埋め立て工事等に参加した企業も制裁対象となりました。今後、制裁対象に追加される中国企業は増えていくでしょう。
 ICTを活用した監視、洗脳システムとして、TikTokやWeChat等のアプリ及びサービスを提供している企業も制裁の対象としました。  更に、米国は「クリーンネットワーク構想」により、インターネットでも完全に中国を遮断すると宣言しました。
 ここまで来ると、日本の米中バランス外交は不可能です。米国につくか、中国につくか、の二者択一を迫られています。
 しかし、安倍総理は日本政府の明確な姿勢を示していません。香港国安法については反対し、自衛隊はアメリカ、インド、台湾の海軍と合同演習を行っていますが、それ以外は沈黙を守り、中共政府を刺激するような発言はありません。
 
2.米大統領選前のタイミングに

 今回の安倍総理辞任会見のタイミングは、米大統領選の前であることに意味があると思います。
 安倍総理から新総理に代わることで、米国、中国の両国に対して、リセットできます。
 安倍総理は、トランプ大統領、プーチン大統領、習近平首席等の大物とのコミュニケーションが得意でした。しかし、新総理は外交の経験もなく、安倍総理と比べると「小者」の印象を与えるでしょう。そして、少し距離を置かれるかもしれません。
 それにより、問題を先送りするという考えが政府にはあるかもしれません。通常ならば、問題の先送りは問題を大きくすることがありますが、今回の場合は先送りした方が賢明かもしれません。
 おそらく、今年度末頃には、世界の行方はある程度見通せるのではないでしょうか。米国大統領選挙も終わりますし、対中制裁の行方、中国経済の行方も見えてくると思います。5G覇権問題も結果が出ているはずです。
 日本もコロナ禍の経済への影響が表面化し、大変な状況になっているでしょう。オリンピックの結果も出ています。コロナのワクチン開発についても目処は立っていると思います。
 ある程度の見通しがたった段階で、日本は新たな政策を発表するべきです。しかし、次期総理は一年間の任期ですので、選挙管理で終わると思います。本番は次の次の総理ということになります。
 次の総理は時間稼ぎ、その次の総理選出の準備が主な業務となります。本当に大切なのは来年の秋からです。それまでに、コロナ禍が終息していることを願うしかありません。
 
3.政府通貨発行の仕組みつくりを

 安倍首相のデフレ脱却は失敗しました。その原因は、プライマリーバランス重視と金利だけで通貨流通量を調整しようとしたことです。金利を下げても、需要がなければ、企業は投資しません。
 実は需要は多いのですが、企業の経済活動と直結する需要は少ないのです。そして、海外では国家が負担している事業を自己負担にしているケースも少なくありません。
 例えば、介護問題です。現在の介護保険だけでは足りませんし、消費税は社会福祉に使うと言っていたのが、なし崩しになっています。
 教育費も家計を苦しめています。世界には、国が教育費を全面的に負担するケースもあります。教育は国の事業であり、個人に負担させるべきではない、という考え方があってもいいと思います。
 災害に対するインフラ整備も不十分です。バラマキといって、公共工事が批判されましたが、これも行き過ぎでした。
 防衛費もGDP1%の枠を撤廃し、周囲の情勢を見ながら、柔軟に対応すべきでしょう。
 これらの需要に対して、通貨供給量をコントロールするという発想が必要になります。そして、適度なインフレ率を保つ。
 また、本気で格差是正を目指すならば、累進課税や貯蓄に対する課税も必要です。通貨の供給については、デジタル通貨を含め、政府発行通貨の検討が必要になります。
 この問題を解決しないと、日本人は幸せになれません。
 財務省任せではなく、政治の力と世論の力を最大限に活かすべきです。既存メディアが財務省寄りならば、ネット上のメディアを駆使する運動を起こしましょう。
 これは、次期の次期総理に期待したいと思います。
 
4.対立と浸透に対抗できるか?

 米国は常に敵国を必要としています。まず、敵国を設定し、それを宣言し、法的根拠を整えてから、論理的に相手を追い詰めます。
 中国は、友好国の顔で近づき、目標とする国、企業、国際機関等に静かに浸透します。。そして、企業を買収し、要人を買収し、最終的には経済で縛り上げるのです。
 この二つの大国に共通しているのは、最終的には国としてまとまって対抗するということです。
 日本が、米中両国に対抗するには、やはり、国全体としての体制作りが必要でしょう。浸透させないためのスパイ防止法制定とインテリジェンス機関の強化。これには、ファイブアイズへの加入が有効だと思います。
 更に、対立に対しては、外交戦略と防衛戦略が重要になります。
 その上で、日本が優位を保てる独自技術、独自製品の開発と、それを支えるマーケティング戦略が必要になります。
 これらの方策は民間企業だけでは対応できません。国との密接な連携が必要になります。
 競争に勝つことは、企業だけの課題ではありません。行政や政治家も他国との競争をしているという意識を持ち、どのように勝つのかという戦略が必要です。
 国のリーダーには、以上のようなビジョンを明確に示し、各省庁が連携して、強く豊かな日本を実現していただきたいと思います。

*有料メルマガj-fashion journal(458)を紹介しています。本論文は、2020.8.31に配信されたものです。リアルタイムでの講読をご希望の方は、http://www.mag2.com/m/0001355612.htmlよりお申し込みください。  

正常性バイアスに囚われるな! j-fashion journal(457)

1.変化が苦手な日本人

 日本人は伝統を重んじる。古来の文化や技術を代々継承することに価値があると信じている。企業も歴史が古いほど尊敬される。
 反面、日本人は変化への対応が苦手だ。変わらないことに価値があると考えているのだから、当然ではある。
 変化が苦手なのは、日本の個人も企業も政府も共通している。
 今回のコロナ禍でも、平時の防疫体制を変更することができなかった。現在でも、海外から日本に入国する人に対して、空港の検疫では、注意事項を書いた紙を渡し、自主的に2週間の隔離を行い、公共交通機関を使わないことを指導しているだけだ。
 台湾やタイでは、国が隔離に使うホテル等を用意し、そこまでの移動は防疫処置済のバスで移動する。隔離後も、勝手に外出しないようにチェックしている。
 日本では、移動は当人に任せ、他の交通機関も用意していない。おそらく、ほぼ全員が公共交通機関で移動するだろう。そして、2週間の隔離も誰もチェックしていない。多分、自主的な隔離も行われていないだろう。
 企業や行政も、迅速に新しいルールを作ることができない。感染防止のためのテレワークなのに、「書類に捺印するために出勤しろ」と命じた企業もあった。厚労省は、平時同様にPCR検査の手続きに保健所を仲介させた結果、マンパワーもシステムも揃っていない保健所が機能不全となり、世界のどの国よりも検査ができない状況が続いている。それでも、ルールを改正することができない。
  
2.マスコミ報道も米中冷戦に対応できない

 新聞、地上波テレビが流すニュースは、圧倒的に国内ニュースが多い。毎日、コロナ禍に関するニュースと、芸能人のゴシップ、国内政治等のニュースばかりが取り上げられ、米中冷戦については他人事であり、介入しないという姿勢だ。
 元々、海外ニュースの報道には積極的ではないが、米中冷戦には更に複雑な問題がある。米国は中国に敵対しており、米国発のニュースを流すと中国を批判することになり、中国発のニュースを流すと米国を批判することになる。米中冷戦のニュースを報道するには、マスコミ各社が自社の姿勢を明確にしなければならないが、客観報道を言い訳に自らの姿勢を明確にはしない。これは、日本政府も同様である。
 これまでは安全保障は米国と連携し、経済は中国と連携してきた。経済より安全保障が優先されるので、基本的には米国支持だが、政府内にも親中派や中国生産依存の財界に忖度して明確な主張ができない。
 本来ならば、政府が明確な姿勢を示して、政府内の親中派や財界を説得しなければならないが、説得せずに沈黙を守っている。
 英国は最初は親中の姿勢だったが、香港問題で明確に反中の立場を取るようになった。ファーウェイ製の通信機器の採用も打ち切り、既存の設備も2027年までに他社と交換すると発表している。これが一般の国家の対応だろう。
 国際政治は常に変化しており、変化に対応しなければならない。旗色を鮮明にしておかなければ、何も発言できない。
 政府が明確な主張をしないので、マスコミも自社の主張ができない。こうして曖昧で何を考えているのか分からない日本が出来上がっている。

3.我々は正常性バイアスに囚われている

 「正常性バイアス」という言葉をご存じだろうか。
 人は、事故や災害にあうと、「あり得ない」「考えたくない」という心理状態になり、自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価する特性を持っている。これを「正常性バイアス」という。
 2014年韓国で起きたセウォル号事件では、乗船していた多くの高校生が「救命胴衣を着用して待機してください」という船内放送と「動かないでください」という乗務員の指示を守り、そのまま死亡してしまった。
 高校生達はSNSに不安な気持ちを書き込んでいたが、集団的に正常性バイアスが働き、その場に留まったものと見られる。
 さて、我々は今現在、正常性バイアスに囚われていないだろうか。
 コロナ禍も大変だが、米中冷戦による経済問題は更に大変である。WHOもコロナ禍は2年以内に終息する希望を持っているという。逆にいえば、最短で2年ということであり、2年以上掛かるかもしれないということだ。それでも、時期が来れば終息する。
 米中冷戦は、いままで続くかは予測ができない。世界は二つに分断され、インターネットも二つに分断される。一つの地球というグローバリズムは確かに終わった。
 世界中の国々のあらゆる産業、ビジネスが影響を受けるだろう。そんなことがあるわけがない。信じたくないという正常性バイアスは思考停止を招く。そして、じっと我慢していれは元に戻ると考えるのだ。
 冷静に考えれば分かることが、考えられなくなる。自分に都合の悪い事象は見なくなる。そんな状況に陥っていないだろうか。
 
4.コロナ前からの変化を冷静に観察する

 2019年10月から消費増税が行われた。安倍首相は以前から、リーマン級の不況が来ない限り、増税を行うと述べていた。市場に通貨が不足し、デフレが解消しない段階で消費増税すれば、消費が減速するのは当然である。
 しかし、これまで見てきた通り、日本政府や財務省は状況をみながら柔軟に対応することは苦手だ。一度決めたことは実行するし、一度実行したことは修正しない。
 実は、コロナ以前に消費不況は始まっていた。そこに、コロナ禍がダメ押しした。その後、政府は自粛による休業の保証をほんの少ししただけだ。まだ、消費増税に対する対策は打たれていない。
 更に、米中冷戦が始まった。まず、5Gに関わるファーウェイ潰しだ。これだけでも、ファーウェイとの連携を進めてきた日本企業には大きな痛手である。
 続いて、米国は「クリーンネットワーク構想」を発表した。これが実行されれば、世界のインターネットは二つに分断される。
 これにより、日本と中国の通信は大幅に制限されるだろう。在中国の日本法人は、営業を続けられるのか、分からない。
 更に、米国が本気で金融制裁を強化すると、中国は外貨不足となり、貿易ができなくなるという不安もある。最近、中共が内循環経済を提唱しているのも、それを予測してのことだろう。
 そうなれば、中国との貿易そのものが困難になる。こうした変化は米国の手の内にある。そして、米国の対中政策は我々のビジネスに直結している。
 米国は日本政府や日本の財界に忖度することはない。詰め将棋のように順序を考えて法律をつくり、制裁を強めている。
 未だ解決していない国内要因に加え、海外要因も加わる。全てが経済にマイナスの要因である。
 対策が状況変化に追いついていない。それなのに、まだ動けないで沈黙を続けている。
 冷静に考えれば、世界恐慌が起きても不思議ではない。しかし、正常性バイアスが足を引っ張っている。「世界恐慌なんて起きるわけがない」と信じている。我々は浸水して傾きかけた船に乗っているのかもしれない。

*有料メルマガj-fashion journal(457)を紹介しています。本論文は、2020.8.24に配信されたものです。リアルタイムでの講読をご希望の方は、http://www.mag2.com/m/0001355612.htmlよりお申し込みください。  

幸せになれる暮らしと仕事 j-fashion journal(456)

1.幸せって何?不幸って何?

 恋人同士で「幸せになろうね」と言う場合、そこには「結婚したら幸せになれる」という思い込みがある。しかし、実際に結婚すると、そこは幸せのゴールではなく、生活のスタートであることに気がつく。
 同様に、幸せの条件と考えていたものが満たされても、幸せになれるとは限らない。
 例えば、「お金があれば幸せになれる」と考える。欲しいものは何でも買えるし、美味しいものも食べられるし、行きたい場所に旅行にも行ける。
 「欲しいものが何でも買える」ほどのお金を手にしたことはないが、「今、欲しいものは何か」と問われても、すぐには思いつかない。車が古くなったので、新車に代えたいとは思うが、古い車でも特に不便はない。そもそも、私は「車は走ればいい」と思っているので、ろくに洗車もしない。
 もちろん、美味しいものを食べたいとは思う。たまに食べる本マグロの大トロは美味しい。でも、鰹でも鰯でも美味しいものは美味しい。食べれば美味しいと思うが、食べられなくても不幸だとは思わない。
 蕎麦も美味いし、お酒も美味い。それほど美味しくなくても、まぁ、それなりに満足する。もちろん、銘酒は美味いが、安酒しかない店で呑む安酒もしみじみと美味い。
 旅行に行けば行ったで楽しいが、それなりに疲れる。ゆったりと一人で散歩するのも結構楽しい。どちらが楽しいかと言われると、どちらも楽しいと思う。
 幸せに対しては曖昧だが、不幸については明確なイメージがある。
 何かを強制されるのは嫌だ。押しつけられたり、命令されるのが嫌だ。楽しいことでも、命令されれば嫌になる。嫌なことをやらされるのは、即ち不幸である。
 やりたくないことをやらされる。自分のペースではなく、決められた時間通りに行動することを強制される。それも嫌だ。嫌な人と会話したり、食事をするのも嫌だ。
 そう考えると、私の場合、お金がないから不幸なのではなく、行動や思考を制限されること、自由を束縛されることが不幸なのだ。
  
2.マズローの欲求5段階説と幸せ

 マズローの欲求5段階説の順に欲求が満たされれば幸せになれるのだろうか。
 最初に必要なのは「生理的欲求」だ。具体的には、呼吸、食事、水、排泄、睡眠、性、恒常性維持など。これは、健康が維持できていれば、問題ない。
 二番目が、「安全欲求」。身の安全、雇用の安定、健康、財産、資源確保など。これは、生活の維持ができれば問題なさそうだ。
 三番目が「社会的欲求」。友情、愛情、家族、社会。社会に所属していることが実感できること。
 家族をつくり、どこかに所属するという満足感を得たいというのだが、これはシングル社会の現在ではどうなのだろう。配偶者や子供を強く望む人にとっては、それが幸せの条件になるかもしれないが、それが満たされたからといって、幸せになれるというものでもない。
 四番目が「承認欲求」。自尊心、自信、達成、他人からの尊敬や承認。
 自分が集団から存在意義を認められ、尊重されたい欲求。このあたりから幸せの条件に関係しそうだ。自尊心が持てない、自信がないという状態は幸せな気分になれそうにない。しかし、自尊心が強く、自信が持てたとしても、不安がなくなるわけではない。
 他人からの尊敬や承認は、地位や権力に直結している。高い地位につけば、尊敬は得られるが、この場合も、その地位を保つことを考えなければならないし、地位から落ちることに対する不安も出てくる。
 また、多数の人から尊敬されなくても、少数の人でもいい、という場合もある。
 承認欲求も幸せの条件ではなさそうだ。そもそも承認欲求を持たない方が幸せになる可能性もある。
 五番目が「自己実現欲求」。道徳、創造性、自発性、問題解決、事実の受諾。
 自分の持つ能力や可能性を最大限に発揮したいという欲求だが、これはビジネスで成功する欲求とも重複する。
 しかし、ビジネスで成功しても、プライベートな暮らしで不幸になるケースもある。
 こう考えていくと、「欲求」は幸せに直結した概念ではなさそうだ。
 
3.充実しているが不安定な仕事

 子供の頃、親や学校の教師から、一生懸命に勉強して良い成績を取れば、良い学校に進学できて、良い会社に就職できると教えられた。しかし、親が個人事業主であったこともあり、サラリーマンになりたいと思ったことはなかった。
 この時点で勉強するモチベーションがなくなったが、勉強は好きだった。勉強は面白いが、受験勉強は面白くない。受験勉強は記憶力の勝負であり、面白い学問をつまらないものにしていると思った。
 私は記憶することより考える力が大切であり、覚えなくても、本を開けばいいと考えた。
 私は大学ではなく専門学校を選び、卒業してから企画職で就職した。サラリーマンで競争に勝って、出世したいという気持ちは全くなく、プロとして転職しながらキャリアを磨き、独立しようと思った。そして、アパレル3社を経て、30歳で独立した。
 「好きなことを仕事にして夢が叶ったね」と言われたが、こんな簡単なことが夢であるはずはない。むしろ「好きなことを仕事にしなくてどうするんだ」と思う。
 「こんなことがしてみたい」という仕事のビジョンを立て、そのほとんどは達成した。やりたいことを整理して、紙に書いた段階で、半分以上は計画ができている。あとは、実行するだけだ。
 本も出版したし、大学や専門学校の講師も経験した。一応、業界のオピニオンリーダーにもなり、役所でも意見を聞かれるようになった。国内の大企業、中小企業とも契約し、海外企業とも仕事をした。
 でも、全ては「スケジュールを立て、期日までにやるべきことをやる」という繰り返しに過ぎない。
 達成していないのは、経済的な安定だけだ。普通の人が一番先に考えるべきことを全く考えずに生きてきた。だから、常に不安定であり、今も不安定だ。
 
4.誰かに喜ばれる仕事を創造する 
 
 さて、ここで幸せについて考えたい。仕事と幸せは別物だ。忙しく充実していることと、幸せとは違う。幸せは刺激とは反対のことだと思う。
 もっとも、この考えは年齢によって変わる。私も若い時には、刺激を求めていた。普通のこと、平凡なことなんてまっぴらだった。刺激の中にこそ、幸せがあると感じていた。
 しかし、歳を経るに従い、あらゆる刺激は弱くなっていく。最早、刺激的な尖った仕事は回ってこない。それは若い世代の仕事だ。
 弱い刺激の中で、ほのぼのと充実している幸せがあるのではないか。最近は、そんなイメージが浮かんでいる。
 幸せの前に不幸にならないこと。嫌なことはやらない。嫌な人とは付き合わない。命令されること、強制されることはやらない。
 好きなこと、面白いことだけで生活を維持する。それが不幸ではない最低条件だ。
 不幸ではない生活を淡々と過ごすのも幸せにつながる。お金があれば使うが、なければ使わなければいい。
 幸せとは生活の維持を超えるところにある。社会に求められる仕事、感謝される仕事を自ら創造する。これは意外に難しい。
 与えられた仕事は、必要な仕事だ。お金になるし、誰かのためにはなる。
 しかし、創造した仕事は誰の役にも立たない可能性がある。お金にもならないことを、勝手に考えて勝手にやるだけだ。
 それが、本当に誰かの役に立って、喜ばれたら、幸せな仕事ではないか、と思う。
 そして、幸せな仕事をして、毎日を過ごすことができれば、それは幸せな暮らしにつながるのだろう。

*有料メルマガj-fashion journal(456)を紹介しています。本論文は、2020.8.17に配信されたものです。リアルタイムでの講読をご希望の方は、http://www.mag2.com/m/0001355612.htmlよりお申し込みください。  

密を避け、疎に生きる j-fashion journal(455)

1.密に生きるようになった理由

 農業中心の時代、密に生きることはできなかった。それぞれの農家が農地を確保するには、自然に疎に生きることになる。
 江戸時代、江戸や大阪に人が集まったのは、商業が盛んになったからだ。商店が増え、商人が増えた。同時に、換金できる商品を作る職人も増えた。
 江戸に出ればお金が稼げる、ということで、地方から江戸に来る人が増えたのだ。
 明治になると欧米の文化が流入した。産業革命による電気や蒸気機関により、大量生産が可能な大型の工場が建設された。大型の工場には多くの職工が必要になる。
 当時の日本の主要産業は繊維であり、養蚕農家に近い北関東や北陸、あるいは、綿花栽培や藍の栽培を行っていた地域に大型の工場ができて、人口も増えた。
 繊維の染色で大量の水が必要だったので、大きな河川が集中する地域に繊維産地が形成された。
 繊維産業中心の時代は、生産地は比較的分散していたが、電気や機械、製品の組み立て関連の産業が中心になると、輸出入の港の近くに工場が密集するようになる。
 更に、流通産業、小売業、サービス業などが産業の中心になるにつれ、本社の仕事はデスクワークとなり、本社は都会に集中した。
 その傾向は現在まで続いている。人口が集中することは、インフラ整備や公共サービスの提供には合理的なのだ。
 しかし、コロナ禍が起きた。密に生きる方が合理的であり、コスパは良いが、密を避ける必要が出てきたのである。
 
2.インターネットは分散志向

 インターネットは軍事技術から生れた。蜘蛛の巣のような分散型の通信システムを作れば、特定の場所が爆撃されても様々な経路を使って通信が途切れることはない。一極集中で処理するより、分散処理した方が迅速であり、安全性も高いという考え方である。
 インターネットは分散志向であり、インターネットが活用されるほど、密になる必要はなくなる。
 コロナ禍のテレワークで、これが実証された。会社が集中している地域に通勤すると密な環境になる。満員電車もオフィスもランチタイムも密だ。
 テレワークの合理性を理解していた人は少なくなかったが、それ以上にこれまでの働き方を変えたくないという人が多かった。しかし、コロナ禍によって、半ば強制的にテレワークが導入されたのだ。
 テレワークを導入した結果、効率が上がる人と効率が下がる人に分かれた。効率が上がる人は、「通勤時間がなくなり、疲れなくなった」「雑用が減り、仕事に集中できる」等と言っている。
 効率が落ちる理由のほとんどはテレワークの準備ができていないことに起因している。「ハンコが必要だ」「資料ファイルを共有する仕組みがない」「パソコンや回線の用意がない」「仕事をする場所がない」等々である。
 それ以外にもテレワークで明らかになったことがある。それは、無駄が見えたことだ。
 無駄な会議、無駄な出張、無駄な業務。そして、発言をしない無駄な人達。
 社員が会社に集まっている時には、「仕事をしているフリ」が通用した。会議でも、調子を合わせたり、雰囲気を出すだけで、やり過ごすことができた。
 しかし、全員が同じ大きさの画像になり、発言しないと存在感がない環境となった。普段は頼りないと思われていた新人が良い意見を出し、ベテランは意見を持っていない等のケースが数多く出てきた。
 
3.オフィスと居住地の分散

 テレワークで仕事ができるのなら、在宅勤務も可能だ。本社のスペースも縮小できるし、地価の高い都心に立地する必要もない。
 あるいは、部署ごとに事務所を分散した方が合理的かもしれない。テレワークの普及は、オフィスの分散を招くだろう。
 更に、中国と米国のデカップリングの影響で、グローバルサプライチェーンの見直しと再構築が行われようとしている。その影響は日本にも波及し、中国生産依存の見直しが行われるだろう。一部は日本生産に回帰し、グローバルなスケールメリット追求から、ローカルな無駄の排除やトータル流通コストの削減が図られるに違いない。
 大都市に拠点を置くとコストが増える。地方都市に拠点を置き、地元の行政や大学等との連携を図り、小規模でも自立したビジネスが志向されるのではないか。
 そうなると、地方間競争、地域間競争が起きてくる。地方文化や地方気質がビジネスに直結する。
 ここから、新たな地場産業が生れるかもしれない。
 
4.地域密着型の健康ライフスタイル

 工場が分散し、オフィスが分散することで、人々の居住地域も分散する。人口は大都市から地方へと逆流を始めるだろう。
 人口密度が平準化すれば、一人当たりの居住面積、一軒あたりの土地面積が広く確保できるようになる。
 通勤時間がなくなり、テレワークが一般化し、副業が認められるようになれば、一人の人間が複数の仕事を持つようになるだろう。
 例えば、高齢化に悩む農家の手伝いを一日2時間行う。それで農業を勉強しながら、自分の庭でも野菜を植える。そうなると、現金がなくても一部の食料品を調達できるようになる。
 過疎や空き家で悩む地方であれば、家賃や生活費も安い。それが分かれば、都心で暮らしてガツガツと仕事をしたり、仕事に追われることも減るだろう。
 そして空いた時間を地域貢献やボランティアに使う。この流れが全国的に広がれば、GDPは下がっても、充実した生活が可能になるはずだ。
 適度に身体を動かし、土を触ることは心身の健康にも良い。都会の密を避け、あえて疎を選ぶ。そのことが健康的なライフスタイルにつながると思う。

*有料メルマガj-fashion journal(455)を紹介しています。本論文は、2020.8.10に配信されたものです。リアルタイムでの講読をご希望の方は、http://www.mag2.com/m/0001355612.htmlよりお申し込みください。  

October 13, 2022

実店舗とネットショップの機能の違い j-fashion journal(454)

1.実店舗とネットショップの違い

 実店舗はかなり大きな空間です。その中に商品を陳列するわけですが、空間が大きいほど、商品のバリエーションが必要になります。
 ある程度の商品のボリュームも店舗の魅力につながります。一般的に、高級な店では商品はゆったりと陳列され、安売りの店は商品を限界まで並べています。それでも、あまりに商品が少なければ、寂しい印象を与えるでしょう。
 ネットショップは一つの商品だけでも成立します。しかも、画像だけで受注を取ることができます。
 実店舗で売上を上げるには、多店舗化が必要です。多店舗化すると、店頭在庫が膨らみます。ネットショップは店頭在庫の負担がありません。一方、実店舗は多店舗化すれば、ある程度の売上増が見込めますが、ネットショップで売上を上げる確実な方法はありません。
 「SEOやオンライン広告で現在の売上が二倍になります」というコンサルタントもいますが、多くの場合、現在の売上が少ないので2倍は可能でしょうが、50倍、100倍にする方法は明確になっていません。
  
2.ブランドイメージ訴求のための旗艦店

 かつて、ラグジュアリーブランドのショップはバリの本店だけでした。同時に、アメリカ等の百貨店や専門店に輸出していました。
 当時は、本店はブランドイメージを具現化したものであり、百貨店の売り場は商品を販売するための売り場に過ぎなかったのです。
 この時点における本店と百貨店の売り場の違いは、実店舗の二つの機能を表しています。ブランドイメージ訴求と、商品訴求です。
 やがて、世界の大都市に本店に劣らない豪華な店舗を展開し、グローバルビジネスになりました。
 ブランドイメージ訴求に実店舗は適しています。店舗に入る前から、ファサード(開口部)のデザインが顧客に期待を抱かせます。
 多くの店のドアは重々しく、それがブランドの持つ世界と外界を隔てる結界となります。店内に入ると、ブランドの世界観を具現化した環境の中に分け入ることになります。
 そして、ショップのスタッフはブランドイメージに相応しい、容姿とスタイリングを実現しています。
 そこにある商品は単なる商品ではなく、ブランドイメージの具現化であり、ブランドが表現する特別なコミュニティの一員になるための身分証明書なのです。
 顧客を包み込み、五感でブランドイメージを訴求する機能は、WEBサイトにはありません。
 
3.店舗とランディングページの違い

 店舗は一目見るだけで店舗全体のイメージを感じることができます。
 ショーウインドーのディスプレイ、床、壁、什器、天井の照明、そして、数多くの商品、販売スタッフ等々。それらがリアルな質感を伴って、五感に迫ってくるのです。
 どんなにランディングページのデザインを工夫しても、モニターの平面上の画像であり、三次元の空間の持つスケールや、大理石やガラス、オーク材などの持つ質感や肌触り等を再現することはできません。
 その代わり、ランディングページには、画像だけでなく、商品の性能や説明等をテキストに盛り込むことが可能です。
 平面デザインという意味では、カタログやパンフレットに近いのですが、そのまま決済して、配送を依頼することができます。
 そして最も重要なことは、ほぼ全ての作業が無人で行われるということです。
 商品を訴求し、購買につなげる装置としては、とても優秀です。
 例えば、実店舗でブランドイメージを体感し、各商品はWEBサイトで説明を読んでから購入するという役割分担もできるかもしれません。
 実店舗はブランドイメージを感情に訴求し、ランディングページでは商品を論理的に訴求します。両者の機能は全く異なっており、同列に論じることはできません。
 
4.リアルとデジタルのメディアの違い

 実店舗が主流だった時代、ブランドや店舗、商品の情報は雑誌が担っていました。ファッションで雑誌であれば、著名なファッションフォトグラファーが写真を撮っていました。また、エディターやスタイリストなど、様々なプロフェッショナルが誌面を作っていました。
 ネットショップのランディングページも画像はとても重要です。しかし、ファッション雑誌ほどのクオリティを見ることは稀です。
 ブランドのイメージではなく、商品そのものを販売するためのページなので、感情に訴求する必要はなく、商品がよく分かる明るくはっきりとした写真が好まれます。むしろ、演出過多な写真は宣伝っぽく、信頼されません。
 ファッション雑誌の廃刊が増え、ファッションメディアはインスタグラム等のSNSに移行しました。プロのエディター、スタイリスト等よりも、等身大のインフルエンサーが支持を集めるようになりました。
 こうなると、企業、ショップより、個人の情報発信の方が優位に立ちます。最早、ネットショップより、インフルエンサーのSNSで商品が売れる時代になっています。
 実店舗、ネットショップ共に、外部のメディアとの連携が重要です。広告料を支払って宣伝するより、信頼できる個人の情報が優先されるということになると、メディアの広告モデルも崩壊するかもしれません。
 実店舗はブランドを感情を含めて、訴求します。ネットショップは論理的な情報により商品を訴求します。
 しかし、この訴求そのものが、既に時代にマッチしていないのかもしれません。訴求より共感が優先し、人とつながるために自分の行動や購買を決める。そうなると、オンラインサロンのようなコミュニティで商品を企画、生産して販売するようになるかもしれません。

*有料メルマガj-fashion journal(454)を紹介しています。本論文は、2020.8.3に配信されたものです。リアルタイムでの講読をご希望の方は、http://www.mag2.com/m/0001355612.htmlよりお申し込みください。  
 

米中がインターネットと世界市場を二分する時代へ j-fashion journal(453)

1.中共の5Gと監視パッケージ

 次世代通信網の5Gは、通信性能がPremium 4Gの約20倍に高速化され、同時接続端末数は約10倍になり、通信の遅延はほとんどなくなるという。
 ドコモが紹介する5Gがある未来はこんなイメージだ。(https://www.bizsolution-docomo.jp/special/5g/social.html)
 (1)ショベルカーを自宅から操作できる
 (2)ロボットの精緻な連動が可能に
 (3)花火大会で「スマホが繋がらない」が過去のものに
 (4)誰もが“顔パス”の世界へ
 (5)スマートカーで事故ゼロ・渋滞ゼロの社会に
 (6)超高品質VRでよりリアルな疑似体験を
 以上のような前向きでワクワクするようなイメージが紹介されている。
 しかし、技術は良い方向に、悪い方向にも活用できるものだ。
 例えば、コロナ禍の期間中に、中国は国民監視システムをほぼ完成したと伝えられている。
 (1)GPSと連動したスマホアプリで、行動が記録され、感染リスクのある人と接したかどうかがチェックできる。これにより、完全に個人の行動が把握できる。
 (2)ドローン、監視カメラと顔認証技術とAI技術により、10億人以上の中から個人を特定できる。
 (3)5Gにより、大容量の画像データがリアルタイムで収集できる。
 (4)IoTとカメラにより、家電製品等が全て監視システムとして活用できる。
 (5)ビッグデータ処理が可能なAIにより、インターネット上の情報の監視とコントロールができる。
 もし、世界中に5Gネットワークが完備し、バックドア機能のついた中国製の通信機器が使われれば、世界中の情報は全て中国共産党が収集、分析、コントロールできるようになる。
 これと香港国家安全維持法により、中国共産党は世界中から個人を特定し、人権弾圧することが可能になるだろう。
 もちろん、技術を悪用するかは分からないが、実際にウイグル人、チベット人、モンゴル人等は人権弾圧を受けている。

2.米国防権限法で中国5社を政府調達から除外

 2019年8月13日に、米政権は、国防権限法により、華為技術(ファーウェイ)、中興通訊(ZTE)、海能達通信(ハイテラ)、監視カメラ大手の杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)、浙江大華技術(ダーファ・テクノロジー)の中国企業5社から製品を調達するのを禁じる措置を発効させた。実施は2020年8月13日である。更に、この5社の製品を使う企業も米政府との取引は禁止され、そこには日本企業800社も含まれている。
 中国企業、日本企業共に、米政府とのビジネス額は少ないだろう。だからと言って、影響がないと考えるのは大間違いだ。
 まず、米国政府は同盟国に同様の措置を求めるだろう。そうなれば、日本政府とのビジネスが禁止される。更に、地方政府や政府の補助金を使ったプロジェクトからも締め出されるかもしれない。
 米政府は日本企業に1年間の猶予を与えた。ここで決断をしないと将来はなくなる。
 米政府に最も警戒されているソフトバンクでさえも、今回の米政府の措置には従う方針だ。

3.世界のインターネットは二分される

 実は、既に世界のインターネットは二分されている。中国とそれ以外の国だ。
 多くの国は、インターネット上でオープンである。互いに自由に情報交換することが可能だ。
 中国は、国境のようにインターネットの壁を築いている。国内から海外のサイトに自由にアクセスすることはできない。更に、アクセス制限だけでなく、情報の検閲も行っている。中共の意に沿わない情報は次々と削除され、場合によっては個人が特定され、逮捕されることもある。
 中共の情報統制の一部でGAFAが協力しているという噂もある。実際、西側諸国でも、中共に批判的なコンテンツが制限されたりする。
 中共は、この「インターネットの壁」をイランにも輸出しようとしている。一帯一路で連携した中国陣営諸国には、中国と同様のインターネットの壁が作られるに違いない。情報統制をしないと中共連合の統制が取れないからだ。

4.世界の市場も二分される

 インターネットだけでなく、オフラインのリアルな市場も二分されようとしている。
 米国は、中共の影響を受けている中国企業をサプライチェーンから外すことを目指している。そしてG11構想、経済繁栄ネットワーク(EPN)構想を打ち出している。
 その動きに呼応するかのように、英国のボリスジョンソン首相が「D10クラブ」構想を発表した。
 これらの構想は反中共の経済圏を作ろうという意味で共通している。各国の構成は微妙に異なるが、ほとんどが共通している。
 D10は、日本、米国、英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダのG7に、韓国、インド、オーストラリアを加えた民主主義10カ国である。この10カ国で「脱中国の5G整備」を進めようというものだ。
 G11は、G7に韓国、ロシア、インド、オーストラリアを加えた11カ国である。
 巨大な中国市場を切り離す代わりに、巨大な人口を持つインドを加え、ファーウェイ等の中国企業を切り離す代わりに、日本、韓国、米国等の企業が結集する。ここにイスラエル、台湾等が加われば、かなり強力なサプライチェーンと市場が誕生することになる。
 前述した米国防権限法に従うかどうかは、この民主主義陣営参入の踏み絵にもなるだろう。
 もし、そうなるならば早めに準備をして、新たな時代に積極的に対応した方が有利になるに違いない。今、日本企業の経営者は決断を迫られている。

*有料メルマガj-fashion journal(452)を紹介しています。本論文は、2020.7.27に配信されたものです。リアルタイムでの講読をご希望の方は、http://www.mag2.com/m/0001355612.htmlよりお申し込みください。  

日・米・中の複雑な関係 j-fashion journal(452)

1.日本企業は中国と付き合うべからず

 米中貿易戦争が始まり、コロナ禍とマスク問題があり、中国の人権問題が明るみに出て、香港国家安全維持法による民主化デモ弾圧が起きた。
 米国は中国への経済制裁や金融制裁を強めている。一方、台湾はコロナウイルス防疫でも見事な対応を見せ、日本に対する支援も行った。中国で提唱する一国二制度を拒否し、独立の姿勢を示し、米国も台湾をバックアップしている。
 日本にとって米国は同盟国、中国は反日教育を行い、尖閣諸島の海域で挑発行動を繰り返す反日国、台湾は親日国というレッテルが貼られた。そして、「なぜ、日本企業は中国と離れないのだ。中国に依存することは悪だ」という論調が目立つようになった。
 しかし、実際にはもっと複雑な状況である。「親日・反日二元論」の前に歴史を振り返ってみたい。

2.日米繊維交渉と日中国交正常化

 1971年、日米繊維交渉が決裂し、日本政府は米国政府の圧力に屈した形で繊維製品の対米輸出の自主規制を受け入れた。
 この背景には沖縄返還問題があった。ニクソン政権は、沖縄返還の代わりに繊維規制に同意するように求めたのである。この時、交渉の最前線で通産大臣として奮闘したのが田中角栄氏であり、翌72年には総理大臣に就任した。
 1972年9月25日に、田中角栄首相が現職総理大臣として北京を初めて訪問し、周恩来総理と首脳会談を行い、「日中共同声明」に調印した。同時に、国交のあった台湾に断交を通告した。
 日中国交正常化のシンボルとしてパンダが上野動物園にやってきて、日本中が日中友好ブーム、パンダブームに沸き返った。
 しかし、この日中国交回復は、米国の頭越しに行われたとして、アメリカ政府は激怒した。そのせいかどうかは明らかになっていないが、1976年ロッキード事件が発覚し、田中角栄首相が逮捕され、田中角栄は失脚した。。
 
3.米中パートナーシップによる対日政策

 戦後日本の高度経済成長に伴い、日本と米国は様々な分野で貿易問題を抱えていた。
 日本と経済対立を強める米国政府は、一方で中国との関係を強化していった。
 73年キッシンジャー大統領補佐官は「イギリスを除き、中国は国際認識で我々に最も近いのではないか」と大統領に語り、74年には中国を「暗黙の同盟国」と称するまでになった。
 75年には、フォード大統領がベトナム戦争後のアジア太平洋政策を発表した。この中で、米国は太平洋国家であり、この地域における米中の「対日パートナーシップがアメリカの戦略の柱である」と語った。日米は経済的に対立し、両国とも中国と友好関係を結んだ。そして、中国は巧みに日米両国をコントロールし、両国から様々な支援を引き出した。
 米国の親中政策はクリントン大統領に引き継がれた。1997年江沢民主席が公式に訪米した際、まずホノルルに立ち寄り、アリゾナ記念館に花輪を捧げた。彼はかつての米中間の同盟を想起させ、9月に成立したばかりの日米の新ガイドラインを牽制したのだ。
 クリントン大統領は、首脳会談後の共同声明で米中両国の「建設的で戦略的なパートナーシップ」を強調し、会談を通じて三つのノー(台湾の独立、「二つの中国」、台湾の国連加盟を認めないこと)を約束した。
 1998年、クリントン大統領は米大統領としては天安門事件後、初めて訪中したが、その前後に同盟国である日本や韓に立ち寄ることはなかった。しかも、首脳会談後の記者会見で、アジア金融危機における中国の金融政策を賞賛する一方で、日本の金融改革を促した。
 クリントン大統領は中国のWTO(世界貿易機関)加盟を推進し、2000年9月までに、対中最恵国待遇の恒久的付与を盛り込んだ貿易法案を議会で成立させた。この年、アメリカの最大の貿易赤字国として中国が日本を抜いた。
 
4.日米は安全保障と経済の両面で協調できるか?

 クリントン大統領の次の大統領、オバマ大統領は、ほとんど中国を放任した。その裏で、中国は南シナ海の領有権を主張し、ウォール街との連携を進めた。中国企業は次々とアメリカで上場し、ウォール街も莫大な利益を上げた。
 しかし、トランプ政権になって、中国への対応は一変した。アメリカ第一主義を掲げるトランプ大統領は、中国や日本のせいで失った米国の製造業と雇用を復活させると語った。そして、米中貿易戦争が始まり、互いに報復関税を掛け合った。
 次にファーウェイの通信機器にバックドア機能の疑いがあるとして、ファーウェイ社の通信機器を禁止する措置を打ち出し、西側諸国にも同様の措置を求めた。
 更に、チベット、ウイグルにおける人権弾圧問題が浮上した。
 そして、新型コロナウイルスの感染が始まった。米国は感染者が世界最多となり、最も深刻な被害を受けた。
 米国政府は中国の責任を追求し、中国は米国が感染源であるという情報を流した。米国は、中国政府が感染源に関する情報を隠蔽したとして、損害賠償を求める動きに出た。同時に、中国にコントロールされているとしてWHOを非難し、脱退を決めた。
 次に起きたのが、香港民主化運動の弾圧と香港国家安全維持法の制定である。そして、それら全てに対して、米国は本格的に対抗し、制裁を課す動きに出ている。
 考えてみれば、今回初めて日米が協調し、中国と対峙している。長年経済的に対立してきた日米両国は、中国という共通の敵を得て、安全保障も経済も含む強固な同盟国になろうとしているのかもしれない。

*有料メルマガj-fashion journal(452)を紹介しています。本論文は、2020.7.20に配信されたものです。リアルタイムでの講読をご希望の方は、http://www.mag2.com/m/0001355612.htmlよりお申し込みください。  


 

中国に対する大きな誤解 j-fashion journal(451)

1.中国は分割される?

 中国は広大な国土を持っているので、分割して統治すべきだという意見がある。「中国は分割される」という予言めいた書籍も多い。
 しかし、中国は分割するどころか、一国二制度の香港を完全に中国に組み入れてしまった。更に、「一帯一路」で各国に融資をして、返済不能になると、鉄道や港湾等の権益を拡大している。中国は、世界に「中国」を輸出しているのだ。
 中国が分割論は、完全に誤解である。中国分割論は日本の道州制に似ている。道州制は、行政の効率等を考え、広域の行政区分を設け、自治権を与えるというものだ。しかし、中国のような独裁国家にとって、人民のサービスの向上や行政の合理化は優先順位が低い。人民へのサービスを向上するために分割統治するのではなく、文化や宗教が異なる人民を一括統治すべく、思想統制を行うという考え方である。
 「共産党支配を世界に拡大する」ことを目的としている国家が国内を分割統治する意味はない。中国は分割されない。むしろ、覇権を求め領土の拡大を目指している。
 
2.中国は民主化する? 
 
 西側諸国は「中国は経済的に貧しいから全体国家を選んだのであり、経済的に豊かになれば、やがて個人の人権意識が芽生え、民主主義を選ぶだろう」と考えていた。
 これは民主主義の方が社会主義より進んでいるという信念に基づいた意見である。しかし、中国は経済活動だけに資本主義的なルールを導入し、国家運営は共産党一等独裁を継続しながら、経済成長をなし遂げ、GDPを世界第二位に押し上げた。中国は民主主義に移行しなくても経済成長が可能であることを証明した。むしろ、民主主義は無駄が多く、非効率的であると考えているだろう。確かに、経済成長だけを考えるならば、人民を統率し、働きアリのように教育した方が有利かもしれない。通常ならば、個人の尊厳や人権が経済に優先されるが、中国はそうではない。
 経済活動の目的が人民を豊かにすることではなく、共産党の支配力を高めることなのだから、普通選挙などあってはならないのである。 
 
3.中国は崩壊する?
 
 何十年も前から、「中国経済は崩壊する」あるいは、「中国の政治体制は崩壊する」という書籍が数多く出版されたが、未だに崩壊していない。現在も、米中経済戦争、コロナ禍、洪水や蝗害によって、中国は崩壊まで秒読みに入ったとされているが、本当だろうか。
 中国は我々の常識では判断できない。
 我々は自分の立場で、経済第一に考える癖がついている。損をすることはしないし、採算に合わないこともしない。しかし、中国は国家としての損得を優先する。一つの企業、一つのビジネスでの損得は関係ない。赤字でも世界に浸透するなら、安価な商品を市場に出す。そして競合他社を追い込み、最終的には買収してしまう。また、企業間競争でも、競合他社の不満分子を調べ上げ、ハニートラップを仕掛け、情報を聞き出し、工作員にする方が、正面から競争するより安上がりだ。こうして世界各国に浸透した結果、親中勢力は意外に数も多く、根深いのである。
 また、世界中で5G、監視カメラ、顔認証、ドローン、スマートグリッド等による高速デジタル通信革命は進行しており、ファーウェイを潰したとしても、中国政府の影響力の強い中国、台湾メーカーや、中国資本に買収された西側諸国のメーカーが代替えになるかもしれない。
 中国には西側諸国のコンプライアンスはない。むしろ、マフィアのような行動原理を持っており、マフィアのように世界に浸透している。
 しかも、中国では、人民が大量に餓死したとしても、政府は崩壊しないのだ。

4.中国の世界覇権の野望は消えない!

 仮に、中国がアメリカからの制裁に屈したとしよう。中国は自らの非を認め、悔い改めると宣言する。金額はともかく、コロナ禍を招いた隠蔽行為の賠償金も支払う。何人かの官僚は引責辞任する。その代わり、政治体制は変えないし、指導者も変えない。そして、実際に軍事的行動を控え、笑顔の外交戦略を展開する。アメリカとの貿易も次第に開放され、世界との貿易も復活する。そして、再び、中国は世界の工場として復活する。
 3年後か5年後に再び、ウイルス感染症が報告される。今度は中国からではなく、アフリカやイタリアから発生するかもしれない。中国は献身的にウイルス対策外交を展開するだろう。
 さて、中国は変わっているだろうか。私は中国の世界覇権の野望は消えないと考えている。5年、10年間、何もなくても、いつか行動を開始するに違いない。それが中国共産党だ。

*有料メルマガj-fashion journal(451)を紹介しています。本論文は、2020.7.13に配信されたものです。リアルタイムでの講読をご希望の方は、http://www.mag2.com/m/0001355612.htmlよりお申し込みください。  

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